「武器になる哲学」山口周

本著で紹介されている哲学・思想のキーコンセプト50をメモ。


「人」に関するキーコンセプト

1.ロゴス・エトス・パトス(アリストテレス)

人を説得するにはロゴス(ロジック=論理)、エトス(エシックス=倫理)、パトス(パッション=情熱)が必要

しかし、ソクラテスはこの「言葉で人を動かす」考え方に反対する。レトリック(弁論)の危険性を知るべき

2.予定説(ジャン・カルヴァン)

ジャン・カルヴァンはルターを受け、プロテスタンティズムに思想体系を与えた。

「努力に関係なく、救済される人はあらかじめ決まっている」

この予定説は人を無気力にしてしまうのではないか、という懸念を否定したのがマックス・ヴェーバー。

むしろ、「自分こそ救済されるべき選ばれた人間なんだ」という証を得るために禁欲的に職業に励もうとした、というのがヴェーバーの論理。

実際に努力→報酬という人事制度はうまく働いていない。「あらかじめ決まってるんだろ」と思う人が多いだろう。

「君たちは選ばれた人間だ。高報酬を約束する。その選民たる証を示せ」

このような人事制度のほうが機能するのではないか?(報酬→努力)

3.タブラ・ラサ(ジョン・ロック)

タブラ・ラサ=何も書かれていない石版

私たちの考えや世界に対する理解は生後得られる経験によるものだ

変化する時代に、その都度学び直しができるか?

4.ルサンチマン(フリードリッヒ・ニッチ)

ルサンチマン=やっかみ ≒嫉妬・怨恨・憎悪・劣等感

個人がルサンチマンを解消する際にとる行動は2つ

①ルサンチマンの原因となるものに隷属、服従する (例)みんなが持ってるブランド物を買う

②ルサンチマンの原因となる価値判断を転倒させる (例)「高級フレンチなんて行きたいと思わない。サイゼリヤで十分」(わざわざ高級フレンチとサイゼリヤの優劣を言語化し、逆転させる。)

その価値判断の転倒は「ルサンチマン」なのか、「崇高な問題意識に根ざした判断」なのか?

5.ペルソナ(カール・グスタフ・ユング)

ペルソナ=周囲の環境にあわせた、本来の自分と異なる「お面」

人は、家庭、職場、個人でペルソナを使い分けてきた。しかし、スマホ(携帯)により、家庭と職場が個人の領域に侵入してきた。ペルソナの使い分けは困難に

ペルソナのバランスをとるのではなく、「逃げる」ことが重要になるのでは?

6.自由からの逃走(エーリッヒ・フロム)

自由には、壮絶な孤独と責任が伴う。我々は耐えられるよう訓練されていない。

たとえば、ファシズムは「権威に依存しつつ、人よりも上にたちたい」と考える中下層民が自由を投げ捨てたことにより主導された。

自由を目指す世の中で自由から揺らがないように、「自我」と「教養」を強くすべきでは?

7.報酬(バラス・スキナー)

行為は、行為をすることで確実に報酬をもらえる場合よりも、報酬がもらえるか不確実なほうが、行為は強化される(スキナーボックス)

欲求(ドーパミン)は快楽(オピオイド)よりも強い。SNSの発展は、それが不確実で予測不能なもの(投稿、それによる知見など)を含むから。ドーパミンが分泌されるのだ。

8.アンガージュマン(ジャン・ポール・サルトル)

どのように生きるべきか?(実存主義) その答えがアンガージュマン(エンゲージメント)だ。

①自分自身 と ②世界に 「主体的にコミットすべき(関わる)だ」

戦争は個人の責任。戦争をしないことを選択しなかった。

選択することを自分で決定することが重要

9.悪の陳腐さ(ハンナ・アーレント)

悪とは、システムを無批判に受け入れ、思考を停止することだ。(アイヒマン)

現状のシステムの中でうまくやることばかり考えるのではなく、いかに現状のシステムを改善するか考えることが大事では?

10.自己実現的人間(エイブラハム・マズロー)

自己実現を成し遂げた人間は、実は人脈が広くない

自分の広く薄い人間関係は、共依存の関係になっていないか。共依存の関係とは、「他者」のためという名目で、実は自己の存在価値を確認する欲求があること。

11.認知的不協和(レオン・フェスティンガー)

人は「信条」と「行為」の不協和に耐えられない。してしまった行為は変えられない。そこで、(無意識に)妥協して「信条」を「行為」に歩み寄らせる。そうすることで信条が変化する。(朝鮮戦争の際の、中国による洗脳)

例えば、信条を変えさせるために、高報酬をちらつかせて行為をさせる。すると、「私は、高報酬のために、仕方なく行為をしているのだ。」という自分に対する言い訳ができるため、行為をしたことのストレスは解消され、不協和は生じない。結果的に、信条も変化しない。

「考え→行動」という流れは、必ずしもそうではない。行動を正当化・合理化するために意識が変化する。

12.権威への服従(スタンレー・ミルグラム)

人は、自分への責任の所在が曖昧であれば曖昧であるほど、良心が働きにくくなる。

人は、無意識に誰かのせいにしてしまう生き物

それゆえ、(より細かい分業が可能な)組織の肥大化によって悪事のスケールも大きくなる。

しかし、良心や自制心をすこしでもアシストされれば、人は権威への服従をやめる。

13.フロー(ミハイ・チクセントミハイ)

挑戦レベル「高」、スキルレベル「高」の領域をフローという。人がフローの状態では、人は最も充足感を覚える。

スキルは変化していくため、主体的に挑戦とスキルの関係性を変化させないと、フローは維持できない。

14.予告された報酬(エドワード・デシ)

人は予告された報酬のもとでは、創造的な問題解決能力は大きく毀損される。なぜなら、最大の報酬のために、最小の労力で活動しようとするからである。目的が質の向上から、最大報酬に変わってしまう。

大事なのは、アメでもムチでもなく、挑戦が許される風土なのではないか


「組織」に関するキーコンセプト

15.マキャベリズム(ニッコロ・マキャベリ)

「非道徳的な行為」は、「よりよい統治」のためなら許される。

リーダーシップには文脈依存性がある。繁栄と幸福に責任をもつのであれば、断じて決断し、行動しなければならないときがある。

16.悪魔の代弁者(ジョン・スチュアート・ミル)

悪魔の代弁者とは、多数派に対して、あえて(弱点やリスクを)批判や反論するひと

集団における問題解決能力は、同質性とトレードオフ。悪魔の代弁者は重要な役割である。

17.ゲマインシャフト・ゲゼルシャフト(フェルディナント・テンニース)

ゲマインシャフトとは、血縁・地縁によってむすびついた自然発生的なコミュニティ

ゲゼルシャフトとは、役割・機能・利益などによって結びついた人為的なコミュニティ

近代社会では、ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへの移行がみられる(高度経済成長期は、終身雇用、年功序列、企業内組合とゲマインシャフト的であった)

会社や家族の解体の中で、「ソーシャルメディア」がゲマインシャフト的要素を担うのではないだろうか

18.解凍=混乱=再凍結(クルト・レヴィン)

これは、個人的および組織的変化を実現する際の3段階

解凍は、今までの思考様式を終わらせる必要性を自覚する準備段階

混乱は、新たな思考様式の導入による混乱。予定通りうまくいかない時期を乗り切るために、主導する側が実務的にサポートせねばならない

再凍結は、新たな思考様式が新しいシステムに適応し、実際の効果を実感し始める

解凍の際、「何かが終わって」何かが始まるという点がポイント。「終わらせる」ことが大事。

19.カリスマ(マックス・ヴェーバー)

支配を正当化するには、伝統的支配・カリスマ的支配・合理的(合法的)支配の3つがある。

被支配者を内発的に動機付けするのは、カリスマ的支配しかない。しかし、カリスマ的支配から交代しなければならない時が必ず訪れる。

そのようなときに伝統的支配者がいることはまれ。つまり合法的な、すなわち官僚機構による支配にならざるをえない。これは時代のトレンドにフィットしない。

カリスマをいかに人為的につくるかが今後の課題となる。

20.他者の顔(エマニュエル・レヴィナス)

ここでいう「他者」とは「わかり合えない相手」という意味

なにかを「わかる」とは、「かわる」ということである。すなわち、「わかる前の自分」は「わかった後の自分」とは別人ということ。

未知のものを「わかる」には「わかりあえないもの」に出会う必要がある。

「かわる」機会を得るには、他者との対話が必要なのではないか

21.マタイ効果(ロバート・キング・マートン)

マタイ効果とは、「持っている人はますます豊かになるが、持っていない人は持っている物までも取り上げられる」メカニズム

4〜6月生まれは、一般に勉学でもスポーツでも良い結果を残したり、能力がある傾向にある

これはマタイ効果で説明できる。例えば小学1年生では、4月生まれと3月生まれでは生まれてから1年近く経験差がある。すると4月生まれは少し3月生まれよりも勉学の能力がある。そこで、4月生まれは褒められ、モチベーションがあがる。それに加え、先生はできる子には発展的内容を教えるかもしれない。環境すら変わってくる。

子供の教育には、このマタイ効果を頭に入れておく必要がありそうだ。

22.ナッシュ均衡(ジョン・ナッシュ)

囚人のジレンマから生み出された、最も合理的な結果を出す手法がある。それは、「初回は協力し、次回から前回相手がおこなったことと同じ事をする。」すなわち、「いい人だが、売られた喧嘩は買う」戦法である。

23.権力格差(ヘールト・ホフステード)

上司に反対を表明する際の心理的抵抗を感じる国ランキングで日本はトップである。

飛行機の操縦を、操縦士が操縦するより副操縦士が操縦する方が事故が少ないデータがある。これは、隣にいる操縦士(上司)が間違ったことは間違いだと容易に指摘できるからである。

また、イノベーションを起こす傾向がある人材というのは弱い立場にある人である。

積極的に反対意見を探し求める姿勢が大切である。

24.反脆弱性(ナシーム・ニコラス・タレブ)

反脆弱性とは、「外乱や外圧によってかえってパフォーマンスが高まる性質」のこと

反脆弱性的なシステムの例としては、運動という「負荷」をかけることでかえって健康になる、ことがある。

反脆弱性は頑健さを超越する。なぜなら、衝撃を糧にできるから。脆さは予測も可能。

組織に活用するなら、意図的に失敗を取り込むことが重要であろう。

変化の時代において、頑健といわれる職業は今後もずっと頑健なのであろうか。意図的に失敗を取り込んだり、一つのキャリアに固執しない姿勢をつくったりと、自分のキャリアや所属する組織にいかにして「反脆弱性」を盛り込むかが重要である。


「社会」に関するキーコンセプト

25.疎外(カール・マルクス)

疎外というのは、人間が作ったものが人間から離れて人間を振り回すようになること。

例えば資本主義や人事評価制度

人事評価制度においては、「組織のパフォーマンスを最適化する」という目的と人事評価制度というシステムの主従関係が逆転している。

システムより内発的なものを重視することが重要なのでは?

26.リバイアサン(トマス・ホッブス)

リバイアサンは端的に言うと「人知の及ばない巨大なパワー」

ホッブズは、世界のあり方を ①人類の能力に大きな差はない ②人がほしがる物は有限で希少である という2つの前提で考えた。

これにより「万人の万人による戦い」という思想が生まれた。

ホッブズは当時の社会を生きてきた中で、「自由ある無秩序」よりも「独裁による秩序」を選んだ。

27.一般意志(ジャン・ジャック・ルソー)

一般意志とは市民全体の意志。一般意志による統治をめざした。

熟議が下手な日本人に適した民主主義を作るべきではないか。日本人は空気を読むのが得意である。一般市民がもつ「空気」を技術的に可視化し、それを合意の基礎に据えるシステムができるとよいのではないか。空気の集合体が一般意志なのだから。

システム化して完全なる一般意志を実現するには相当な困難もリスクもあるが、それとどう向き合うか。

28.神の見えざる手(アダム・スミス)

神の見えざる手とは、市場による価格調整機能のこと。しかし、市場以外にも反映できる。

理知的なトップダウン思考で最適解を探すことに固執してはいけない。それですべてが解決できるという傲慢な考えを捨て、「満足できる解」を経験的に得ることも重要だ。特に、じっくり考えていられない変化が激しい時代には有効。

29.自然淘汰(チャールズ・ダーウィン)

生物の進化は環境に適応してきたかのように見える。しかし、それらは「偶然のエラー」である。たくさんのエラーが生じた中で、環境に適応したエラーは淘汰されず、生物に不利を与えるエラーは淘汰される。これを自然淘汰という。

実は、イノベーションも「偶然のエラー」から生じることが多い。エラーを悪としない、むしろポジティブなエラーを作っていく風土作りが大切なのではないか。

30.アノミー(エミール・ドュルケーム)

アノミーとは「無連帯」のことであり、その結果として「無規則」が生じる。

働き方改革によって、アノミー(自由により自分の欲望が膨れ上がり、実現できないことに虚無を感じる)が増加すると推察される。

会社がアノミーの防波堤となっていたが今や不可能。鍵は3つ。家族の復権、ソーシャルメディア、「ヨコ型」コミュニティ。

31.贈与(マルセル・モース)

贈与には3つの義務。①贈与する義務(礼儀) ②受け取る義務 ③返礼する義務

現在モノゴトの価値を説明する枠組みは「労働価値説」(投入された労働力)と「効用価値説」(使い勝手)

もし贈与が交換の基本モードなら、義務的な社会から、自己効力感であふれる社会になる?

32.第二の性(シモーヌ・ド・ボーヴォワール)

女は社会的な要請として「女らしさ」を獲得する

男らしい社会(男女の役割をはっきりわける)ランキングで日本は1位

日本における、男女を別として考える思考は無自覚かつ根付いており厄介

33.パラノとスギゾ(ジル・ドゥルーズ)

パラノはパラノイア=偏執型。スギゾはスギゾフレニア=分裂型。

パラノはアイデンティティに偏執し、人格の一貫性を重視する。一方はスギゾもアイデンティティが分裂し、自己イメージとの整合性は気にしない。

変化が激しい時代、パラノは変化に弱い。1つのものに偏執してしまい、置いていかれる。その点、スギゾは逃げる。自身もひょこひょこ変化できる。

逃げることも勇気である。これからの時代、逃げることは重要になるのでは?

34.格差(セルジュ・モスコヴィッシ)

格差とは、同質性からうまれる。ここで一つの問いが生まれる。

「公正とは良い物なのか」

身分制があった江戸時代以前とは異なり、公正な社会をめざして、人類は「みな平等」とされる。しかし、同質で平等とされた人々は、「最小の不平等」に傷つく。

妬みは自分と同じか同じだと思える人に対して生じる。自分と同じような能力の人が出世すると強い嫉妬を感じる。また、能力や見た目で明らかな劣等感を感じている人にとって、「平等」が約束された社会で生きることは苦しい。基準が正当でないとか、評価が正当でない、といった逃げ道が塞がれるからである。

35.パノプティコン(ミシェル・フーコー)

パノプティコンとは、中央に監視台、独房がその周囲に円形に置かれた刑務所のこと。

注目すべきは「監視されているという心理的圧力」

フーコーは現代社会において、法や規制といった「外部からの監視」だけでなく、「道徳や倫理」といった心理的圧力・支配が強まっていると指摘する。

このような見えない圧力と、組織の方向性などと照らし合わせてうまく付き合っていくことが大事なのでは?

36.差異的消費(ジャン・ボードリヤール)

ボートリヤールは消費を

「消費とは記号の交換である」

と定義する。記号とは、「他とは違う」といった他人との差異を表す記号のことである。つまり、お金を払って、差異を手に入れていると言うのだ。

選択とは窮屈であると指摘する。「それを選んだ」いっぽう、「他を選ばなかった」という差異を求める欲求が無意識に生じてしまうからである。

37.公正世界仮説(メルビン・ラーナー)

「努力は報われる」は願望にすぎない。

命題:「天才モーツァルトは信じられないほどの努力をした」

この命題の逆がなりたつと謳うのは間違い。真なのは

対偶:「信じられないほどの努力をしなければ天才モーツァルトのような天才になれない」

結果が出なければ努力を諦め、別の領域で努力することを考える必要がある。その努力を選択しているのは自由意志なのである。


「思考」に関するキーコンセプト

38.無知の知(ソクラテス)

知らないことを知っていることで、学びの欲求や必要性を感じる。

知っていることを知らない状態にいくと達人となる。

「要するに○○でしょ」という発言は危険である。なぜなら、これは「自分の思考の枠内の視点で捉えただけ」であるから。自分の知っている範疇を超えた理解を拒否している。それゆえ、新たな発見や気づきを得る機会を失う可能性がある。

39.イデア(プラトン)

イデアというのは想像上の理想型のこと。

三角形と言われて、想像はたやすいが、本当に純粋な三角形というのをしらない。

イデアにとらわれて現実を軽視してはならない。例えば、人事制度。

40.イドラ(フランシス・ベーコン)

経験論における4つのイドラ(偶像)がある。

①種族のイドラ =錯覚

②洞窟のイドラ =個人の経験に基づく思い込み

③市場のイドラ =「噂」や「伝聞」を真実であるとする思いこみ

④劇場のイドラ =権威や伝統を無批判に信じることで生じる思い込み

自分の主張の根拠にこれらのイドラが含まれていないか?

41.コギト(ルネ・デカルト)

コギトはコギトエルゴスムから引いたもの

デカルトの「我思う故に我あり」という結論に至ったプロセスは注目に値する。

デカルトは、その社会において支配的な枠組みをいったんチャラにして、自分の頭で考えようとしたのである。この思想には、プロテスタントとカトリックがちょうど争い、真理がこの世に2つ存在していたデカルトの時代背景が影響している。

42.弁証法(ヘーゲル)

弁証法とは真理に至るための方法論の名前。「対立する考えをぶつけ合わせ、それぞれの矛盾を解決する統合されたアイデアを想像すること」

弁証法において、モノゴトは螺旋的に発展する。これは、「進化」と「復古」が同時に起きるということ。(横から見ると上に上っていくが、上から見ると同じ演習を回っている)

例えば、ソーシャルメディアがかつての村落共同体の役割を果たす

未来予測の一要素として、かつて社会から消えた物が別の形態をとって社会に復活してくるというところから予測できるかもしれない。

43.シンフィアン・シンフィエ(フェルディナンド・ソシュール)

シンフィアンは概念を表す言葉のこと。シンフィエは言葉によって示される概念のこと。

私たちは、なにかの概念があって、そこに名前をつけていると思いがちである。しかし、それでは説明できない事象がある。例えば、日本では「蛾」と「蝶」の区別があるが、フランスではそれらの区別はなく一概に「パピヨン」と呼ぶ。

つまり、私たちは、シンフィアンがあって初めてものごとや概念を認識するのである。私たちの世界認識は、自分たちが依拠している言語システムによって大きく規定されている。思考は実は自由ではない。言語の枠内でしか思考できない。

シンフィアンを増やすことで世界をより細かく切り分け、認識できる。

44.エポケー(エドムント・フッサール)

エポケー ≒判断留保

「Aを原因としてBという結果がある」という考え方を「いったん止める」ということ。客体→主体の論理構造をいったん疑うということ。

A リンゴが存在している (客体)

B 私はそのリンゴを見ている (主体)

という思考をやめて

A’ リンゴを認識している自分がいる (主体)

B’ そこにリンゴが存在していると考える

という思考にする。

エポケーが示唆していることは、「客観的事実だと考えているものを一度留保せよ」ということ。自分が見えている世界と、他者が見えている世界は異なる可能性があるのだ。

45.反証可能性(カール・ポパー)

科学とは、反証可能性があるもの、とポパーは言う。

逆に言うと、反証のしようがないものは、科学ではないということ。

46.ブリコラージュ(クロード・レヴィ=ストロース)

ブリコラージュとは、「何の役に立つのかわからないけど、なんかある気がする」という直感。

イノベーションの多くは、偶然そうなったものである。

イノベーションは、用途市場を明確化しすぎるとその芽を摘みかねず、逆に不明確のままでは開発は野放図になり商業化はおぼつかない。

日常生活でブリコラージュを意識して、ためておくことが世界を変えるイノベーションにつながるかもしれない

47.パラダイムシフト(トーマス・クーン)

パラダイムとは「一時的にモデルを与える科学的業績」

どんなパラダイムにも優れた説得力があり、その時代に問われる難問のほとんどに対して答えることができるが、「根本的に」間違っている可能性がある。

また、パラダイムシフトには非常に長い時間がかかる。シフト前のパラダイムと後のパラダイム間では対話すらなく、優劣を判断する共通の基準すらない。数年足らずで変化するものは「意見」や「方法」でしかない。

48.脱構築(ジャック・デリダ)

脱構築とは、二項対立の構造を崩すということ。

例えばAというテーゼとBというテーゼがある。相手がAだと主張する。私は相手を打ち負かしたい時に、「AではなくBだ」というアンチテーゼをぶつけるのではなく、「そもそもAなのかBなのかという問題設定がおかしい」と指摘すること。

例えば「多様性と画一性」という二項対立をもとに「多様性が大事だ」という主張も脱構築できる。その押しつける主張は画一的ですよね、と言った具合に。

脱構築は思考の広がりの制約をとりはらう役割ももっている。

49.未来予測(アラン・ケイ)

未来予測に「未来はどうなるか?」という問いはナンセンスである。予測するならば、「未来をどうしたいか?」という問いが適切である。なぜなら、未来は人々の営みで構築されていく。そうならば、未来は人が望む方向へと進むからである。

50.ソマティック・マーカー(アントニオ・ダマシオ)

私たちは一般に「心」が司令塔で「身体」は命令を執行するものだと思う。

ダマシオは結果的にこれを否定する。ある患者を診察して、ソマティック・マーカー理論を唱える。

それは、「社会的な意志決定」と「情動」には重大なつながりがあるというもの。

情報に接触することで呼び起こされる感情や身体的反応が、前頭葉腹内側部に影響を与えることで目の前の情報について「良い」「悪い」の判断を助け意志決定の効率を高める、とダマシオは考える。

すると、意志決定は感情を排して論理的に行うべきだ、という主張は必ずしも適切ではないかもしれない。

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