見出し画像

いわゆる「かゆいところに手が届くAI」の事例5つ

この4月から、京都大学森里海連環学教育研究ユニットの一員として、森・里・海の自然のつながりを理解し、人々の暮らしの中に自然とのつながりを取り戻す研究プロジェクト『RE:CONNECT』に関わり始めています。

これは「海と日本PROJECT」などを進める日本財団との共同事業で、(とても今っぽいですが)AIやビッグデータを駆使して環境保全の理論的根拠を得ることを目的としています。

その大きな特徴は研究プロセスにおいて広く市民を巻き込んでいこう、ということ。ひとことでいえば、森里海のつながり×AI×シチズンサイエンス=RE:CONNECTです。もう、この響きだけで生きていける気がします。


参考:日本財団・海野理事のインタビュー


AIの使いみち

現在はAIチーム、ビッグデータチーム、シミュレーションチームなどに分かれて研究テーマを設定している段階。

そのうちAIチームのアウトプットとしては、日本各地の砂浜の写真をアップするとマイクロプラスチックを自動識別して、定量化できる技術を開発し、アプリ化するといったアイデアが出ています。

とはいっても、それは市民にとって楽しく、便利なものでなければ使ってもらえません。そこで今回は市民が思わず使いたくなるような、「かゆいところに手が届くAI」のヒントを、日経新聞のAIに関するニュースからピックアップしてみました。



CASE1

卒アルに出てくる子どもの数を揃えるの大変...! → 顔認識で自動処理!

顔認識AI技術を使って子どもごとの写真枚数を自動集計できるため、アルバム内に出てくる子どもの数をできるだけ同じにする保育士の作業負担を減らせる。

→ ニッチだけどでとても大切なニーズに答えてくれるAI。僕にも娘がいるので、この気配りには頭が下がるとともに、この編集作業の徒労のすさまじさは容易に想像できます。普段のルーチンの中で受け入れてしまっている心理的負担をどう減らせるのか。そのあたりをエスノグラフィックに観察して、ニッチな解像度を高めていくことが大切なのかもしれません。




CASE2

業務報告書くの面倒...! → AIとの会話で完了!

医薬情報担当者(MR)がスマートフォンに音声で報告するだけで自動で内容を分類して登録する。1000人規模のMRの負荷を軽減し、業務の効率化を図る。あらかじめ登録した報告項目(訪問先、日時、内容など)に自動で振り分け、顧客情報管理(CRM)に登録する機能も備える。18年9月に厚生労働省が公表した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」では、販売情報提供活動に係る業務記録の作成・保管や、販売情報提供活動のモニタリングなどが求められている。中外製薬はMR業務の報告負荷の低減と迅速な業務記録の実現を検討してきた。

→ 組織によっては在宅勤務の日報をどうするのか問題はそれなりに重要なので、ガイドラインに限らずとても便利な感じがします。会話のように負担の少ない自然なインプットだけで、どうメリットを最大化できるのか。写真を撮ってもらうにしても、いつものルーチンに組み込む工夫が求められそうです。




CASE3

自分で育てた野菜、病気かな...? → 画像認識で診断!

人工知能(AI)の機能を使い、スマホで写真を撮影すると診断結果を教えてくれる。トマトやいちご、きゅうりなど5種類の野菜限定だが、診断の対象を順次広げるという。アプリには病虫害の図鑑や対策方法も載っている。SNS(交流サイト)の機能を使って日々の栽培日記を付けたり、有料サービスに加入すれば、農場で起きた病害虫を1つのカレンダーで共有したりするなど様々な機能を活用できる。

→ 農作物を育てている人にはとても切実なので、使いたくなる人は多そうですね。また画像認識がメインというよりも、図鑑やSNSに誘導するいち機能という位置づけも、案外ちょうどよいのかもしれません。画像認識をいかして、愛着のあるものをどう守ることができるのか。そんな心に寄り添うことができると、多くの共感を得られるのかもしれません。


CASE4

物件の撮影をするのが面倒...! → 360度カメラでOK!

AIを活用した作成システムは、全天球カメラの360度パノラマ写真と室内の間取り図をもとに瞬時にVR映像を作る。AIがエアコンやソファ、便器などを認知し、写真がリビングなのかキッチンなのかを判断。撮影地点がどこか自動で間取り図に示す。作成したVR映像で疑似内覧する際には利用客の操作情報も集める。例えば何度も視線を向けたり、近づいて凝視したりしたモノや場所を記録する。AIで分析して顧客が物件に求める条件が分かれば、希望に沿う物件を複数紹介することもできる利点がある。

→ これも不動産屋さんの地道な努力が想像できるので、かなり画期的なのではないでしょうか。さらに360度カメラの利点をいかして、その視線までデータとして活用できるというアイデアにも驚かされます。ドライブレコーダーやドローンなど新しいツールやガジェットならではの特徴を、どういかすのか。ただ単に砂浜の写真を取るのではなく、360度カメラを持っていって遊んでもらうことでも、意外といいデータが集まるのかもしれません。



CASE5

体が動かないと楽器は演奏できない...! → 姿勢と視線で演奏!

AIで姿勢を推定し、体の動きに応じて音を出す技術を開発した。例えば腕を曲げた状態で手を頭上に動かすと、「ド」の音が鳴る。斜め上の方向に腕を伸ばすと、「ソ」の音が出る。音程に対応した姿勢の種類は導入施設などが自由に決められる。

→ 最後のこちらは"かゆいところ"というよりも、かゆいとさえ気づいていなかった、蓋をしていた新たな可能性を開くという意味ですばらしいですね。「できない」と思いこんでいることを、どうクリエイティブに解放できるのか。それができれば、結果的に社会的にインパクトのあるツールになるはずです。



以下、5つの事例から学んだ5つの問いです。


- 普段のルーチンの中で受け入れてしまっている心理的負担をどう減らせるのか。
- 負担の少ない自然なインプットだけで、どうメリットを最大化できのか。
画像認識をいかして、愛着のあるものをどう守ることができるのか。
新しいツールやガジェットならではの特徴を、どういかすのか。
- 「できない」と思いこんでいることを、どうクリエイティブに解放できるのか


森里海のつながり×AI×シチズンサイエンスという壮大な研究を通じて、森里海のつながりが永く守られる新たな社会システムの構築に貢献できるように、ひきつづきあれこれ考えてゆきたいと思います。

はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎