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「なんで中国に住むの?」へのまとまらない答え

初対面の人と会話していると、「なんで中国に住んでるんですか? 中国が好きなんですか?」と聞かれることがよくあります。相手が日本人の場合でも、中国人でも、しょっちゅうです。

駐在でもなく在住を始めて数年、嫁が中国人という人間を目にすれば、とりあえずそんなことを聞いてみたくなる気持ちは理解できます。そもそも世間話のようなもの、そこまで真剣な答えを求めているわけでもないのでしょう。

しかし日常会話に異常なプレッシャーを感じてしまうタイプの「勉強しなくても国語だけはできた」系の隠キャラである僕は、この質問をぶつけられるたびに、どう答えたものかと考え込んでしまうのです。

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中国に初めて来たときは、たまたまきっかけに恵まれて「ちょっとフラっと人生の寄り道してみるか」と思っていただけで、まさか今のように何年も住むようになるとは思っていませんでした。仕事をしたり、嫁と出会って結婚したりとバタバタしているうちにいつの間にか時が過ぎ、気がついたら5年ほどが経っていました。

その過程で中国の魅力にドハマりしたとか、日本に帰りたくなくなったとかいう感覚は別にありません。中国の食べ物や景色に特別の愛着があるわけでもなく(たぶん旅行好きの人の方が僕より中国の文化が好きだろうし、もっと詳しいと思う)、何かいい条件の仕事でも見つかれば、日本に戻ることもやぶさかではないような気もします。

むしろ中国で仕事していると煮え湯を飲まされるような経験をすることの方が多く、ストレスを溜めてばっかりじゃないのかという自問自答もあります。こういった軋轢を経ても、特に大きな仕事を成し遂げたみたいな実績もないし。

書けば書くほど自分が中国に住んでいる意味が分からなくなってきましたが、かといって「中国嫌いなの?」「日本に帰りたいの?」と聞かれると、うーんそういうことじゃないんだよと言いたくなる気持ちもあります。

「中国好きなの? なんで中国に住んでるの?」と聞かれて、「いやーいま日本に帰っても大していい仕事もないし、嫁もなるべく家族と一緒にいたいでしょうしねー」と適当な返事でとりあえずその場を収めてしまうこともあるのですが、それは自分の気持ちを正確に表したものではないという感覚があります。嫁も中国にそれほどは執着がなく、日本で暮らすならそれはそれでいいと言う姿勢です。

じゃあ、一体何が僕を中国につなぎとめているのでしょうか。

「中国的な刺激に触れていることが楽しい」は、多分当てはまりません。日本では経験し得ないようないわゆる「中国での衝撃的な体験」の数々も、日常になってしまえばただのストレス源です。

じゃあ「日本が嫌いだから日本にいるよりマシ」は? これも多分嘘です。中国に来てから日本人の闇のようなものがよく見えるようになったことは確かですが、別に日本という国が特段嫌いになったわけでもありません。日本のいいところも、中国に住むようになってたくさん見えるようになってきました。

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それでも僕が中国に住み続けるのは、まだうまく言語化できないのですが、「普通なるものへのささやかな抵抗」のようなものだと思っています。

中国に来て、いわゆるレールを外れた人生に来てしまった。それでもなんとか平穏無事に過ごしたくて「普通」のレールに指一本でしがみついていたつもりだったけど、最近はそれにも疲れてしまって、とうとうその指がレールから外れてしまった。

かつて、Twitterで「中国で年収1000万以上稼げない外国人は地獄」と豪語された方がいらっしゃいました。それはそれである種の真実だと思います。中国は、稼ぐ能力のない人間と外国人にはとことん冷たい国ですし、都市部で生きるならなんとしてでもカネは必要なのも事実です。

それに照らし合わせて言えば、普通以下の能力の外国人の僕はまさしく地獄の中を生きていることになります。とっとと地獄から抜け出た方がいいのかもしれません。

それでも、この土地でそれなりに生きて、ささやかでもいいから幸せを見つけて、「お前らはなんと言おうが俺は生きている、お前らには地獄に見えていようが、俺は幸せだ」と声を上げ続けたい。立派な、デキる人間じゃなくても、生きる道がある。普通以下の人間でも幸せに生きていていい。それを証明したくて生きている。

あえて言えば、それが中国に居続ける動機のような気がします。

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これからも多分、「中国が好きなの? なんで中国に住んでるの?」という問いに対しては、その場その時の気分で適当な答えを返すと思います。会話としてはそれで十分です。

でも、心の中ではマグマのように煮えたぎった執着を抱えて「誰がなんと言おうと幸せに暮らしてやる。お前らには見えない景色を見てやる」という気持ちでいようと思っています。

生き抜こう。

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