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中国人のナメてはいけない「動員力」

中国にまつわる、すさまじい怪談を目にしました。

ぜひご自身の目で読んでほしいのですが、いちおう要約しておくとこんな感じです。

ある小区(団地)で、「制度が変わったので、今後は駐車場を賃貸ではなく購入してください」とそこの管理局からの通知が来る

不満ながらも従おうとする住民だが、いざ購入するとなると「大半の駐車場はもう買われているので、欲しい人は買主の〇〇さんに相談してください」と言われる。つまり何者かによる利権が発生していた

怒った住民は小区内でデモを決行するが事態は進展せず。地元政府に訴えるも、たらい回しのうえ結局は無為に終わる

こうなったらマスメディアに訴えようと行動を開始し、とあるローカルテレビ局が扱ってくれることに

住民代表者たちは取材予定日に集合してテレビ局を待つが、取材班はいつまで経っても来ず、代わりに来たのは地元の警察と武器を持ったヤ○ザ

警察に取り囲まれる中、ヤ○ザと住民代表者たちが衝突。そして住民代表者側の男性が腹部を刺されてしまう

ヤ○ザたちは去り、それまで沈黙していた警察が住民たちに解散を命令。刺された男性は「なぜか都合よくそこにいた」救急車で搬送され命は無事

恐怖に震える住民だが、その後事件の顛末を香港のメディアが扱ってくれることになり、小さいながらも香港で報道される

すると突如として駐車場の月極契約が再開が発表され、購入義務の話はなかったことに

ついに住民たちの勝利かに思えたが、その後代表者たちの身の回りには経営する店にぱったり客が来なくなる、会社から解雇される、息子が学校でいじめに遭うなど、そこでの生活を続けられないようなことが起き始める……

いやはや、圧巻です。小説が一本書けそうな内容です。

これ、いろんな側面から中国社会の理不尽さや特殊性を説明できるエピソードだと思うのですが、今回のマガジンでは中国における「動員力」の重要性や、その恐ろしさに的を絞って書いていきたいと思います。

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このエピソードにおいては、住民を恐怖の底に陥れた黒幕が存在していることが想定できます。その黒幕が事件の過程で、自分の都合で動かしてみせた人間は、少なくともこれだけいます。

・小区の管理局(利権に協力させた)
・地元メディア(取材に来るという話を握り潰した)
・地元公安(住民を取り囲み、ヤ○ザがコトを起こすのを黙認した)
・ヤ○ザ(言わずもがな)
・その他、事件後に住民代表者たちに嫌がらせをした数々の人々

これだけの人間が、ある特定の人物(もしくは団体)の利益と支配構造の維持のために動かされているのです。もちろん、ひとりの人物がすべての登場人物を直接動かしたわけではなく、中には間接的なものも含まれるのでしょうが、それにしてもとんでもない影響力です。いま日本で話題になっている土佐市の移住者カフェの話に出てきた、ケチな「地元の有力者」とはスケールが違います。

こうした力量は恐ろしいものですし、あまりにも前近代的と言わざるを得ませんが、しかしてこうした「動員力」の論理で動いているところが、中国の社会には多かれ少なかれあります。

このエピソードは「10数年前の話」であり、いまではヤクザなどが登場するようなことはかなり少なくなっているとは思います。特に習近平政権は反社会勢力の撲滅キャンペーンも熱心にやっているので、庶民が暴力によって理不尽な目に遭うことは減っているでしょう。それは習政権の人気の理由の一つかもしれません。

しかし、逆に言えばほんの10数年前にはこういうことが珍しくはなかった程度には、中国はこうした「動員」をかけられるものがすべてを思いのままにするというロジックが息づいています。

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なぜ「動員力」が中国人にとって重要なのか。それは「面子」との関連で語ることができます。

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