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インタビュー調査が進化できない構造

インタビューの都市伝説がずっと都市伝説であるのは、既述の通り一言でいうと、「定性調査に対しての認識不足」からなのですが、分析してみるとそこにはさらに複雑な構造があります。特に調査業界とクライアントの関係性がこの問題を拗らせています。企画のところで論じましたが、調査をより良くするためには業界がその認識を高めると共にクライアントの発注態度と業界の受注態度が共に変わる必要があります。今回はその構造について触れておこうと思います。

なお、この分析は発注側と受注側との双方を行き来する中で図らずも体験した、私の人生を賭けた本物の「エスノグラフィー」で得てきたことで、まさに定性調査の成果でもあります。下図はその「エスノグラフィー」の結果を簡潔に「因果対立関係分析法」により分析、可視化したものです。その実際の分析例としてもご覧になっていただけると良いかと思います。

定量調査の場合多少なりとも「統計理論」を知っていないと調査ができないのですが、定性調査の場合もここまでで説明してきたような知識が必要です。具体的にはマーケティングの実務知識、心理学、社会学などなどであり、またメタ認知能力というものも必須です。それらはむしろ統計理論よりもはるかに広範かつ複雑なものなのですが、「話を聞けば良い」という表層的な理解、認識から、
①定性調査に関する体系的教育が行われていない。
②定性調査に関する体系的研究と正しい認識が欠如している。
③普段は定量調査をやっているノンプロのエキストラによって実施されている。

などが嘆かわしい実態です。一言で言うと「定性調査をナメている」のです。これは冒頭に書いた通りです。

その結果、多くの関係者は実は
④正しい知識と真の成功体験を持っていない
ことになります。「真の成功体験がない」とは要は「良いものをやったり見たりした経験がない」ということです。C/S領域に侵入して「大発見」をしたような経験がないわけです。後述するループ構造と相まってこれは

⑤繰り返され一般化する間違った方法で調査が実施されている
という実態を生んできます。端的に言うとこれは「リスニングではなく一問一答のアスキング」や「分析ではなく分類」が一般化しているようなことです。

それは必然的に
⑥低クオリティの調査が繰り返され、一般化する。
という実態を生みます。具体的にはC/S領域に侵入できずにS/S領域がインサイトできないとか、具体化、構造化されていない情報しか得られないといったことです。

しかし、必然的に完全連結型になるように仕組まれたリスニングのインタビューや構造化分析などを知りもしなければ見たこともない人たちが、それを実施しようと思うはずもありませんし、自分たちがやっていることを間違っていると認識をすることもありませんから、実態は⑤であるのにもかかわらず

やっていることが間違っているとは思われていない(正しく行っていると認識されている)。

という問題を生んでいます。これは深刻な問題です。何故ならば、正しくやっているはずなのに⑥のように「会心」の結果を生んでいないことにより
⑧「こんなものか」というあきらめや手法、モデレータ、対象者などへの責任転嫁、言い訳を生じさせる
からです。この責任転嫁や言い訳こそがまさに各種の「都市伝説」の正体です。この責任転嫁や言い訳は例えば、調査の現場でふと上司や先輩が漏らす「今日の対象者はハズレだな」とか「男子高校生はしゃべらないからなあ」といった一言となって顕れますが、それを漏らした本人も、それを聞いた部下、後輩もそれで「話さなかったのはしょうがないこと」だと済ませてしまうので、それ以上その問題を深く考えようとはしません。すなわち世代を超えて伝承される都市伝説となるということです。

それは、
⑩取り組みのモチベーション欠如と進歩の停滞
を生んでいるということでもあります。都市伝説が伝承され、取り組まれず、解決されず進歩が停滞するわけですから④にループします。

⑥が繰り返されると当然クライアントは不満を持ちます。そして調査会社に一言申すようになります。すなわち調査設計や運営への介入です。そもそも抗えるだけの体系的な知識や経験がないということもありますが、クライアントとの力関係において調査会社は忖度しそれには抗いません。すなわち
⑪不満なクライアントにより繰り返される調査設計・運営への介入と忖度
という現象を生んでいるわけです。調査会社も⑩から自らが考え提案することを怠りクライアントの指示、要望を仰ごうとします。むしろその方が一周回って⑧の責任転嫁先が増やせるから、という穿った見方もできます。しかしそもそも大半のクライアントも経験や知識は調査会社以下であるわけですから、やはり④にループします。冒頭に述べたようにこの現象が問題を拗らせている大きな要因であると思われます。しかしそれもそもそもが定性調査に対しての認識不足から発生する問題であることに違いはありません。

⑧において手法に責任転嫁された場合、「青い鳥」探しのように別の手法探しが始まります。例えば近年もMROCやエスノ、行動観察、ニューロが注目されてはブームが廃れていきました。グルインとデプスのワンダリングというのも昔からあります。すなわち
⑫手法のワンダリング・ショッピング(MROC、エスノ、行動観察、ニューロ・・・)
という現象です。しかしこれもそもそもの定性調査への認識不足の中で、より未知未経験なことをやろうとする「不遜」なことに他なりませんからやはり④にループします。その結果⑥のように不本意な結果を生むからこそ、「ブームと廃れ」が繰り返されるということになるわけです。

これがエスノグラフィーの結果特定された「定性調査停滞の無限ループ」の構造ですが、この無限ループは①~③に対応する「定性調査に関する体系的研究とメソッド化、それによるプロ教育」ができれば断ち切ることが可能だということもこの分析図は示しています。新手法もその「基本」があればこそ、その持ち場で役立てることができます。

この連載は実はその野望、志の下に続けてきているものであり、前回の記事のように定性調査への認識や定義を変えようと提起しているのもそれによるものです。




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