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こころのちからになる話8 プラスティック会社の新しい未来

ついに、先進7カ国会議G7において、各国の主要企業に対し気候変動が起こす経営への影響について、情報を開示するよう求める方向であることが分かった。

地元の主力新聞に書いてあったその記事を読んで、堅実な中小企業としてやってきた「ひなかプラスティック(仮名)」の社長、小畑(おばた)よしこは戸惑った。

「うちはプラスティックの生成と加工だけじゃなくて、使用済みプラスティックの回収と再加工もしていたはずだけれど……。気候変動とプラスティックって、何か関係があったかしら?」

息子で常務の一朗(いちろう)に聞いてみた。

「うーん。海のプラスティックごみの情報はよくテレビなんかで流されているから、影響が無い、という判断よりも、うちがプラスティックを扱ってる会社である以上、リスクを洗いだした方がいいとは思うけれど……僕も今までの短期スパンで経営判断は出来たけれど、遠い未来のロングスパンのことはね。そうだ! 新人の社員くんに、大学が環境畑の子がひとり入ってきているから聞いてみようか?」

「お願い出来る? 一朗」

「分かったよ、母さん」

そうして、ひなかプラスティックの期待の新人、三宅慎司(みやけしんじ)は急に社内VIP親子会議に飛び入り参加するように言われて会議室にやって来た。

内心、むちゃくちゃ緊張している。今年の春に入ったばかりで、社外はおろか、社内の人間関係もよく分かっていない。胸をなでおろしたのは、社長のよしこさんと常務の一朗さんは、ゴリ押しのワンマンタイプではなくて、よく社員の話を聞いてくれるひとたちだと分かってきていたことくらいだ。

「ぼく、違った、私が言うのも差し出がましいような気がするんですけど」

「いいのいいの。社長のわたしはもう60を目の前だし、息子の一朗も40を過ぎたわ。ちょうど、孫の世代のあなたが思っていることを存分に、ここで言ってみてちょうだい?」

「常務の一朗さんのおっしゃっている海洋プラスティックは、これまでは温暖化や気候変動とは別件で、海の生きものたちが間違ってお腹のなかで分解できないプラスティックを食べてしまうから希少生物が激減する原因だと言われていました。でも、今は浮かんだプラスティック自体が、農業用のハウスみたいに、海面の温度の高さをため込んでいるんじゃないか、と言われるようになってきています。この考え方が研究やAI予測をもって実証されるとするなら、温暖化と気候変動にプラスティックも確実に直結する、ということになります」

「そうなのね。一朗、うちでそのことに何か対処はしてきている?」

「短期スパンでは、まだ手をつけたばかりだよ、母さん。プラスティックの回収と再加工の技術を、リサイクルしていると印象付けて、うちのブランドをイメージアップさせようとはしている。それに惹かれて環境畑の三宅くんが入ってきてくれたんだから、まずまずの成功じゃないかな」

「えっ……ぼく……いえ、私はまだ何も」

「出来ていなくていいんだよ。会社に染まっていない今のほうが、もしかすると、より自由な発想が出来るかもしれない。君の世代の感覚で、愚痴でもいいからこのプラスティックの問題に対して思っていることを聞かせてくれないか?」

「……正直ぼくらの前の世代、考えなさすぎ。ここまで地球が悲鳴をあげなきゃ分かんなかったの!? って感じですかね」

「うん、そのくらい毒を吐いてくれた方が正直でいいわ。もう、プラスティックを作ることが悪くらいに言われているものね」

「……でも」

「なんだい、三宅君」

「プラスティックごみのAI搭載回収ロボットを作るとか、プラスティックの素材自体を生分解、つまり生きものが消化しても大丈夫で、今までよりも早く自然に帰せるものに変えていく技術があるのは分かっています」

「そうなのね。うちで取引するプラスティック素材を、その生分解のタイプに変えていくことと、寄付金か、スポンサーになることでその回収ロボットの製作を手伝うことは出来るかしら、一朗?」

「すぐに善処するよ、母さん。三宅くん、助かったよ。やはり未来を生きていくのは君たち若者だからね。こんな傷だらけになってしまった地球を手渡してしまうことに、プラスティック業で食ってきた僕としては本当にやるせない気持ちではあるんだ。出来る限りのことはするよ。だから、そのG7で多くの企業に求められるようになる気候変動の経営影響を判断する部署というか、僕らの企業規模だと小さなグループになるかな、そいつを作ろうと思っているんだが……。三宅くん、参加する気はあるかい?」

「えっ、何も分からないぼくがですか」

「環境畑でやって来たことをぜひ活かしてもらいたいんだ。分からないことは、調べてもらったり、僕やグループの人間に聞いてもらったりしてまったく構わないから」

「そうよ。これからは社員のあなたも、やりたいことをどんどんと言ってくれればいいの。若さは正しさよ。それはいつの時代も変わりはないの」

「……ありがとうございます。精いっぱい、やってみます」

新人の慎司にはそれしか言えなかった。しかし、こなさなければならない細かなことのその先に、ひなかプラスティックの未来に関わるグループで仕事をしていくのかと思うと、すこし、気分が上向いた。

(了)

※ 登場人物、会社名はすべてフィクションです。

※ 見出しの画像は、実装されているCanvaの機能を使って、無料素材で作らせて頂いたものです。ありがとうございます。

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