こころのちからになる話1 ゴミ拾い革命

ゴールデンウィークのことだった。佐竹仁(さたけひとし)は家族を連れて、10連休にインドネシアへ渡った。目当てはとあるビーチ。妻の麻美(あさみ)も、14才になる娘の裕子(ゆうこ)も大喜びでついてきた。

佐竹は家族でホテルを出て、人でにぎわう浜辺に着いた。まだ太陽は高く上っていて、海に光が反射してまばゆい。

「さあ、泳ぐぞー」

佐竹はトランクスタイプの海パン姿で、麻美と裕子に声をかけた。

「ちょっと待って! わたし、泳ぐ前にやることがあるんだ!」

ビキニを着た裕子が、静止の声を放った。持っていたバッグから、大きなゴミ袋を取り出す。

「どうしたんだ、いったい?」

きょとんとした顔をする佐竹の前で、裕子は海に浮かぶプラスティックのゴミを拾い始めた。ペットボトルや、それが日や波にさらされて細かくなったものが海の表面を漂っている。それをひとつひとつ、裕子は丁寧に集めていった。

「ここまで来てゴミ拾い? 大変ね」

麻美も怪訝な顔をする。

裕子は、若々しい笑顔で答えた。

「パパもママも知らないの!? 今は、世界中でゴミを拾うのがトレンドなんだよ! ほら」

裕子はスマホを佐竹と麻美に見せた。ゴミだらけの写真と、それを集めてゴミ袋に入れた写真が、数え切れないほど、ビフォー、アフターという字とともに表示されている。

「わたしもやろうと思って。インドネシアって、世界で何番目かに海のゴミが多いって聞いたから」

休みなのに働くのか……?

佐竹はちょっとうんざりした気分になった。

「オー、グレート!」

声がかかり、振り向くと見知らぬ外国人たちが興味深そうに裕子を見ていた。そして、海のゴミを彼らも拾い始めた。

裕子が持つゴミ袋は、すぐに多くの人たちの協力でいっぱいになった。

「サンキュー、サンキュー!」

裕子が満面の笑みを見せた。

「パパ、面倒くさいって思ってたでしょ。そんなのもう、時代遅れだよ! ちょっとでも、未来の地球のために何かする人たちはどんどん増えているんだからね!」

娘に言われてしまい、佐竹は反省した。

「こりゃ、世界でゴミ拾い革命が起こっているのかもしれないなあ」

そして、彼もひとつ、海に浮いていたゴミを拾った。なんだか、久しぶりにすがすがしい気持ちになった。

(了)

#短編小説 #ヒューマンドラマ #爽やか #ゴミ拾い #環境 #海洋汚染






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