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こころのちからになる話7 世界のジョーシキ「GDP」を疑え! ~これからのGDPのお話~


サトコは大学三年生。タバコはせず、お酒の味をようやく覚えたお年頃だ。

曽倉(そくら)は大学二年生。サトコと学年は違うが、誕生日は四月をまたいで近く、既に二十歳を迎えている。

二人は、同じゼミの学生だった。今年の四月からは授業がオンライン一択となったため、仲が良かった二人は個人的にオンライン飲み会をやるようになった。

今日の話題は、経済について。GDPという、誰もが知るほどポピュラーな「国内総生産」の意義について、サトコがかみついたのだ。

「だいたいねえ、曽倉くん。今どき家事やボランティアのことも数値に入らなくて、わたしたちがものすごくお世話になってるラインとか電子メールサービスとか、IT産業の付加価値もろくに数値化できてない、ふっるい錆びついた値なのよ、GDPってやつは!」

サトコはパソコンの前で雄たけびに近い声をあげて、クイッと度のすこし高めな焼酎をコップで飲み込んだ。

「はあ。でも、今日の新聞にも出てましたよ、中国のGDPが、新型コロナウイルスの影響でマイナスになるって……」
「そうね。だけどさあ、ひとだって物だって、年月が経てば、いずれはボロボロのよれよれになるわけよ。それが自然なのに、ずっと今まで右肩上がりだった計算方法がおかしかったと思わない!?」
「うーん。マイナスになっても怯えるなってことですか」
「そうそう。第一、GDPの算出方法は、国家機密に当たるから公開はされてないのよ? どんな数式が裏にあるか知らないけど、もやもやした謎の計算値で出された値を、やれ上がった、やれ下がったで一喜一憂するのがおかしいのよ」
「まあ、そう言われればそうですよね」
「でしょ? ググってWiki先生に聞いてみ? いかにGDPが意図的で恣意的で、当てにならないものなのか熱弁をふるってくださってるから」
「後で調べてみます。でも……それだけGDPが当てにならないものなら、僕たちは何を指標にすればいいんでしょうか」
「そうねえ。あっ、GDPはGDPでも、Gross Domestic Productのことじゃなくて、Good Do Pointならどうかな」
「グッド・ドゥ・ポイント?」
「今、わたしが考えた」
「なんですか、それは」
「言葉の通りよ、良いことをしたらポイントになる考え方」
「はあ……」
「曽倉君。もう、既にね、国内総生産っていう考え方自体が古いの。たとえば日本でこれまでなんとか元気だった車産業ね。トヨタを始めとした色んな会社は、全世界的に展開しているじゃない。当然、工場や会社を置いている国ひとつづつに、儲けがあって、その国に納める税金を払ってる。部品の流通や従業員のことを考えたら、本来これは国内総生産だけで考えられる値じゃないでしょ?」
「確かに」
「わたしたちが日常的に使ってる、ツイッターやグーグル、ラインだって、どこの国のひとですか、って問われたら困るでしょ」
「えっと……イメージ的にはシリコンバレーの……っていうアメリカとか、ラインだったら韓国のネイバーが浮かびますけど、日本で行うサービスに対して、個別にツイッターjapan株式会社とかがありますもんね」
「うん。そういう、無料でサービスを展開してくれて、広告収入やOSとかアプリケーション、ハードを流通させることによって成り立つ商売は、GDPには正しい値なんか出ないわよね」
「むちゃくちゃ身近で、むちゃくちゃ儲けているイメージがありますけどね」
「でしょ。その、最初の善意の『無料』の部分がきちんと評価されないって、おかしくない!?」
「うーん……」
「今だったらさ。トヨタとかソフトバンクグループがマスク作ったり製作を依頼したり、それを利益度外視で流通させるとか、社会の問題に善意でもって動こうとする企業があるわけ。ここをきちんと評価する、自分の中での『グッド・ドゥ・ポイント』を大切にするのよ」
「なるほど」
「今、医療崩壊を起こさないために奔走してくれている医療従事者の方々とか、介護施設のひとたち。毎日の流通を守ってるドライバーや宅配のひとたち。お店を営業してくれている、コンビニやスーパーのひとや、食べる基本を担ってる農業のひとも『グッド・ドゥ・ポイント』はものすごく高いと思う」
「そうですね……彼らの頑張りによって、今の僕らの生活が成り立っているんですもんね」
「これからは、そういう個人に対する信頼の時代が来るって! 商売をやっていて、信頼できるひとのところへはどんどん仕事が来ると思うよ」
「はー。信頼の時代ですか」
「どっかの大富豪も言ってたよ。人間、信頼が一番大切だって」
「そうすると……株式会社じゃなくて、オンラインにも適応する、信頼できる個人の時代なんですかね」
「あっ。信頼できる会社は残ると思うよ? だから、今まで実績を上げてきた企業は、その信頼を損なわずに維持するための、地域ボランティアとか、今大事な環境問題に資する姿勢を見せることとか、ものすごく重要になってくると思う」
「環境問題ですか……」
「GDPを利用している学者さんたちも、森林とか綺麗な海とか、次の世代にちゃんと残すべき自然の資源をどう数値としてとらえるべきか、悩んでいて、結論がなかなか出せないみたい。でも、海の中で会社名のラベルが付いたプラスティック製品が大量に見つかると、その企業としてはものすごくマイナスイメージだよね」
「そうですね……僕たちもそんな会社を就職先として選びたくないな、って思います」
「ね。少子高齢化で、就職氷河期の頃に比べたらよっぽどマシな学生有利のときよ? 今は新型コロナウイルスの影響が出るから、短期的な雇用控えは出るだろうけど……わたしたちが就職活動をするときには、きっと落ち着いてるよ。そんなわたしたちが未来の会社に、良いことをしているところを選ぶ。これからはまさに『グッド・ドゥ・ポイント』の時代なのよ」
「サトコさんが言うなら、なんだかそんな気がしてきました。僕も、これからGDPは『グッド・ドゥ・ポイント』って考えることにします」
「よし! それでこそ我が可愛い後輩だ! 乾杯しよう。これからの『グッド・ドゥ・ポイント』の時代にっ!」
「乾杯! ……ってサトコさん、それ何杯目ですか!」

 へべれけな顔のサトコに、曽倉は思わずツッコミを入れた。

 


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