こころのちからになる話6 雪かき体験ツアーin限界集落

北日本の僻地に、とある村があった。いわゆる限界集落というやつで、若い世代はほとんどが都会へ出ていき、住んでいるのはじじばばだらけ。それでも力を合わせてなんとかやって来たが、最近はそろそろ、ある作業がとても大変になってきていた。

雪かきだ。山間にあるこの村には、ドカ雪が襲ってくると言ってもいいほど積もる。地球温暖化も何のその、この村には冬になると必ずたくさんの雪が降った。

雪かき体験ツアー。

村役場の、村おこし担当者として採用された青年、彦田(ひこた)が発案したこの企画が通り、ネットで参加者を集めたイベントが、この日、始まろうとしていた。

雪かきをしたら、村の温泉入浴券と、じじばばとの語らいと、彼らが作った甘くておいしいぜんざいが付いてくる。この素朴な企画には、意外と多くの若者たちが興味を示した。

沖縄。台湾。ベトナム。インドネシア。

雪の降らない地域に住む、若者たちにとって、雪かきとは憧れの仕事だったらしい。

ブロオオ、じゃりじゃりじゃり、とバスがやって来た。彼らが乗る貸し切りバスだ。

「あっ、来た来た。ようこそー!」

村役場の青年、彦田が歓迎用の小さな日の丸の旗を振ると、彼を囲むじじばばたちもいっせいに同じ旗を振った。

バスからは、良い表情の若者たちが次々と降りてきた。

「コニチハ、コニチハ! ウワアー! 雪、キレイデスネー!」

道路の左右に分けられ、大きな壁となった雪を、若者たちがこぞって写真を撮る。

「なんとまあ、こんなものが珍しいかねえ」
「よく来てくれたねえ」

村人たちもニコニコ顔で出迎える。わざわざ、交通費を払ってまで来てくれたのだ。じじばばは精一杯のおもてなしをしようと考えていた。

村役場の青年、彦田が、さっそく雪かきの手順を各国の言語で記したパンフレットを渡し、スコップや手袋などの道具のあるところへと案内した。

「ワアー! タノシミデスネ!」


いざ、実際に作業をするとなり、温かな地域からやって来た若者たちは興奮していた。

限界集落、とひとは言うこの北日本のとある村で、そうしてはるばる遠くからやって来た若者たちと、現地のじじばばたちとの心温まる交流が、これから開かれようとしていた。

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