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「Sweet Home -俺と世界の絶望-」 - 人を傷つけるのも癒すのも人

★★★★+

本来はホラーやグロい映像は苦手で避けているのですが、同じNetflixのゾンビドラマ「キングダム」は楽しめたのと、「恋するアプリ Love Alarm」のソン・ガンがすごく好きだったので思い切って観てみました。韓国で人気のweb漫画が原作のドラマですが、冒頭から終始グロテスクな怪物(と言うかゾンビ)たちが出ずっぱりで、待ったなしの崩壊を体現するような世界を壮大な製作費をかけて徹底的に魅せる力作。ゾンビも振り切っているとそう言うものとして受け入れられてしまい、もはやグロい・怖いとは感じないんだなと、思わず徹夜で一気見できる面白さでした。規模感や設定は映画的なのですが、10話構成のドラマだとよりキャラクターの内面を掘り下げることもできて味わいが増します。こういった作品を次々と送り出しているNetflixはやはり凄いなと思わされました。

事故で家族を亡くした高校生のチャ・ヒョンス(ソン・ガン)は、「グリーンホーム」というおんぼろの集合住宅に独り引っ越してきます。初っ端からちょっと様子のおかしい管理人さんに出くわしてオヤ?っとなりますが、学校で受けていた壮絶なイジメにより完全な引きこもりとして仕上がっているヒョンスは自殺することだけを考えています。すると、ある晩に隣の部屋の女性が訪ねてきて、インターフォン越しに会話していると突然大量の鼻血を流しながら怪物に変身し…。あとはもうあっちもこっちも人間が怪物になっていき、残った人間たちは怪物たちと闘いながら集合住宅の1階に立て篭もる、というストーリー。

この怪物化現象は明確な物理的理由ではなく、人間の欲望によって引き起こされるというのがこの作品の特徴かもしれません。欲望というよりは、強烈なストレスもしくは押さえつけられた怒りとも取れました。すなわち、怪物に噛まれたら怪物化するみたいな話ではなく、今は人間だから大丈夫だと思っているキャラクターもいつでも怪物化しうるのです。

そんな「どこから来たのか分からない」理不尽な敵に立ち向かわざるを得ないという、喉に小骨が刺さるような感覚が、不思議なやみつき感を生んでいる気がします。

そして心理的な理由から怪物化する人々には、みんなそれだけの背景があるわけです。大抵は、悲しくて切ない。どう見てもゾンビな外見すら、愛嬌を感じさせるほどです。また、人に怪物化するほどのストレスや怒りを与える人間が別にいることも示唆されます。怪物と出くわすほどに、そんな物語が積み重なっていき、ドラマは次第にただのパニックムービーにとどまらない人間ドラマの様相を呈していくのです。

最初は単なる情けない引きこもりのように描かれていた主人公のヒョンスも、実は思った以上に複雑な過程を経て現在に至っていることが分かります。そして彼が本質的に持っていた正義感や優しさが行動に示されていく。周りもそれを理解していくようになります。

実はヒョンスは最序盤から怪物化の兆候を見せるのですが、それに抗って人でい続ける稀有な存在として描かれます。自らの欲望、闇を押さえこむ精神力が彼の奥底には備わっているのです。この難解なキャラクターを、ソン・ガンは口数の少ない中、巧く表現していました。表情や目つきの些細な違いが、ヒョンスの人となりを分からせてくれるようでした。

そんなヒョンスを理解し、彼に恋する女子高生(バリバリの反抗期)を演じるのがコ・ミンシなのですが、彼女はLove Alarmではソン・ガンに横恋慕する勘違い性悪女子の役だったので、それに気がつくと、まったく異なる関係性のふたりがまた面白く見えました(と言うより同じ役者たちと思わないくらい違って見える)。

このテの作品につきものの「サバイバルに強いかっこいいおじさん」も2人ばかり出てきます。また特殊な存在感を放つサンウクを演じるイ・ジヌクや、女性消防官役のソ・イギョン、ウニュの兄で考えの読めないキレ者を演じるイ・ドヒョンなど、脇を固める役者陣も豪華。それぞれがそれぞれの人間味を持っているので、きっと誰かしらには感情移入できるでしょうし、群像劇として細かく連なるエピソードも飽きさせません。

極限状態で仲間を信じるのか裏切るのか、時には殺すのか、究極の選択が続く全10話は、いつ誰が怪物化するかも分からず、また時に人間の方がよほど怪物のように振舞うこともあり、心休まる暇を与えず進行していきます。

それでもヒョンスがグリーンホームの仲間たちとの関わりの中で何がしかの癒しを得て解放されていくラストシーンは、ここまでの時間が報われるような美しさを感じました。

Netflixあるあるで、確実にシーズン2の存在を伺わせる形で最終話は終わっていきます。シリーズ1はグリーンホームと言う閉じた空間だけで繰り広げられる密室劇でしたが、この先はグリーンホームを出て恐らく軍を相手に闘って行く流れになりそうなので、もう完全にバイオハザードですね。

怪物化の謎や個々のキャラクターの行方など、残された伏線があまりにも気になるので早くシーズン2を出して欲しいところですが、そう言えばLove Alarm2も待機しているはずなので、いずれにしろまた近いうちにソン・ガンと再会できることに期待してやみません。


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