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「ある春の夜に」 - ラブストーリーは身勝手なほどいい

★★★★★

ふとチョン・ヘインに浸りたいと思い立って観ました。「D.P. -脱走兵追跡官-」がとても良かった流れですね。「チョン・ヘインの I ♡ NEW YORK」(チョン・ヘインが友人とニューヨークを旅するドキュメンタリー)で、ニューヨークの街中でチョン・ヘインのファンだと言って声をかけるおじさんがこの「ある春の夜に」を観ていると言っていたのが妙に印象的で気になっていました。しばらくテンポのいいドラマばかり観ていたので、ひさしぶりにゆったりした大人のラブストーリーがいいなと思ったのもあり。とある男女の恋愛を質感のあるリアルさで描く面白い物語でした。

ある日、友達の家で酔い潰れたジョンイン(ハン・ジミン)は寝坊してしまいあわてて飛び出します。二日酔いのまま仕事に向かえないので途中で寄った薬局にいたのが薬剤師のジホ(チョン・ヘイン)。

二日酔いでボロボロな上に財布を友達の家に忘れてきたジョンインは、ジホにお金を貸してくれないかと頼んでみます。するとジホは代金に加えて交通費まで貸してくれるのです。

4年も付き合っているギソク(キム・ジュンハン)という彼氏がいるジョンインですが、最近はすっかり関係も冷めて完全に倦怠期。別れも考えていたところにこのジホとの出会いで、運命が変わることに。

ジホはジョンインがすっかり気に入ったようで早速アプローチをしてきます。恋人がいると告げるジョンインですが、情熱的で優しいジホに心が揺らいでいきます。その上、まさに運命のいたずらで思いがけず再会を繰り返すふたり。

関係が冷めてるとはいえ恋人がいながら他の男性に恋してしまうジョンインは、清廉潔白なヒロインとはまた違い、ある意味でリアルです。一方で他の男(しかも自分よりスペックは劣ると思っている相手)に彼女を奪われる格好になったギソクはプライドが許さずジョンインに対してものすごい執着を見せていきます。こちらはとてもドラマ的なドロ沼感を出してくるので、ジョンインとジホの平和で落ち着いた大人の恋愛との対比が面白いことに。

サブのストーリーラインとして、ジョンインの姉のソンイが結婚しているのですが旦那がなかなかイタいDV男で、途中からこの旦那とギソクがつるみ始めるとかなり鬱陶しいダメ男ユニットになり、ジホの爽やかさが際立つこと。さらにジョンインの父親が典型的な前時代的マウンティングおじさんで、物語を盛り立てる障壁として効いています。

クールにも見えるジホが突然恋に落ちてジョンインを深く愛するようになる姿は、大人の恋愛の中に見え隠れする普遍的なときめきを教えてくれます。ジョンインは美人だし芯が強く気も強い女性ですが、観ていて感情移入しやすい人間味があると言うか、完璧ではないし思い込みに振り回されるときもあって。それでもジホがそんなジョンインを大事に愛し、時に彼女を守るためギソクに正面からぶつかっていくことに、なんだか深い安心を憶えるのです。

ジホもひとつ秘密を抱えていて、その秘密はふたりの恋にとって乗り越えるべき壁を生み出していくのですが、同時に絆を深めてくれる存在でもあります。引け目のようなものがあることで時に人は自分の人生を犠牲にしかねない場合があるかもしれませんが、このドラマでは悩みながらも最終的にみんな自分の幸せをちゃんと貪欲に掴もうとするのです。見る人の視点が変われば身勝手なのでしょうが、ラブストーリーを動かすのはいつだってそんな身勝手さかもしれません。登場人物たちが自分に嘘をつかず気持ちに素直に行動するからこそ、愛情が沁みるように伝わってくるのだなと思いました。

場面場面も美しく、夜を縁どる桜や静かな音楽に癒されるドラマでもあります。何にせよ、チョン・ヘインという存在がもう。時にかっこよくて、時に大きく優しく、時に人としての弱さを見せる。最強の恋人を演じている一本だと思います。


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