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ひなた短編文学賞の作中作制作:ワイシャツがウエディングドレスに生まれ変わりました

「Life is Improvisation」
まさに今、この言葉がぴったりの心境。
人生、本当に何が起きるかわからないんですね。

嬉しすぎて長くなるのですけど、一言でいうなら、無職の主婦が文学賞もらって、しかも作ったウエディングドレスがベストドレッサー賞の授賞式会場に展示された、って話です。正直、いまだに意味がわからない。

ベストドレッサー賞授賞式といえば、受賞者も招待者も園遊会に招かれるような方々ばかりの場所……。私みたいな人間からしたら画面の外側から眺めるだけの遠い遠い、憧れの世界です。
そんな場所に行きつくことになった経緯や、これからに思うことなどなどを、良かったら読んでくださると嬉しいです。

こちらが展示の様子です。
MFU賞を受賞した彼方ひらくさんの『焦げ跡』も家族の物語。
登場したワイシャツはアイロンで焦がし加工されていて渋かっこいい!

きっかけ

ことのはじまりは『ひなた短編文学賞』という文学賞。応募して佳作に選んでいただいたのがきっかけでした。主催:フレックスジャパン株式会社 (ひなた工房)

作中にウエディングドレスを出した時点で、作りたいなとは思ってはいたんです。けれど保管場所もないし、日常の忙しさに紛れて作らずじまいというのが自然な流れだとも思っていました。でも結果が出たあと、作中のドレスを無性に作りたくなったんです。
というわけで、先方に一言連絡してからがよいのではないか、と、受賞のお知らせを下さった担当者K氏にメールで相談したところ……。

なんと、二つ返事で自社のワイシャツを山のように提供してくださった上、ベストドレッサー賞の授賞式の際に飾っていただけるというではありませんか!

今回の文学賞にメンズファッション協会が協力していて、MFU賞があったり、大賞の副賞にベストドレッサー賞の授賞式招待などともあり、無関係ではないことは知っていましたが、まさかと。
本当に震えましたね、いまだに信じられないくらいです。

いざ、制作へ

でも。そうと決まって、逆に怖気づきそうにもなりました。だって、ベストドレッサー賞ですよ! メインの授賞式ステージと別とはいえ、招待客の面々は現役のファッション関係者やおしゃれに敏感な芸能人、文化人ですよ。そんな人たちの前に自分が制作したものを、なんて、嬉しい以上に恐ろしいことです。

服飾の道を夢見て歩きかけたのは30年近くも昔の話。道を外れ、服作りは趣味で続けていましたが、出産・育児を機に遠ざかり、家を建てた際に設けたアトリエブースも娘のお絵描きデスクとなり果て、子供サイズのトルソーは次男に無惨な敗北を遂げボロボロ……という日々をようやく抜けたばかりでした。ブランク後の復帰第一戦がいきなりオリンピック出場決定みたいな状態ですよ。光栄だけど期待に添えないかもしれない、がっかりされる前に消えてしまいたい。そんな逃げ腰のスタートでした。しかも、義実家暮らしの期間にしまい込まれた制作用のトルソーが見つからない! 詰んだ! 無理! 白紙に戻したい!

とはいえ、もう逃げることも消えることもできません。意を決してとりかかることにしたのが10月の半ば過ぎでした。コ口ナ禍を経て来客がなくなったのをいいことに、茶の間を貸切にして制作開始。
決して開けないでくださいの鶴のような一か月に付き合ってくれた家族にも本当に感謝ですし、期間中、誰も体調を崩すことなくリスケが発生しなかったのも幸いでした。←これだけでも主婦にとっては奇跡!

制作風景

きっとこんなの誰も作ることないと思いますが、参考までに制作途中の様子も公開しておきます。ネットで軽く検索した限りでは、こういうワイシャツのリメイクドレスは見かけないので、初、もしくは先駆けのひとりの証としても記しておきたいです笑

ご提供いただいたワイシャツ。生地が良くて触っていて幸せでした。
襟芯の硬度を使ってコルセット風ビスチェに仕立てているところ。
襟そのままの形を生かすデザインにしたため裏地は手縫い。
細い糸(というか細い針)は厚みの関係でリスクだったので太めの糸で縫ったので仕上がりどうかな?と少し不安でしたが、目立つステッチが良いスパイスになりました。
背中のサイズ可変部分はアンティークドレスのようなイメージに。
ワイシャツの裾のカーブが可愛いです。
スカート部分は下3段と上1段が別仕立ての4段。
上1段と短いパニエで足首の見えるカジュアルスタイルにも着られます。
それでもウエストから80センチくらいあります。

※オーバースカートだけ着せている写真を撮り忘れたので、ちょっと脱線。
オーバースカートをケープのようにした写真です。

ちなみにですが、この白いバラは全部お袖です。
大きいバラはシャツについたままのお袖を肩まで捲って作ってあります。
ケープとパニエのシルエット、この角度で撮ると19世紀。

作中でも鍵となる青いバラは、襟を外したワイシャツ1枚をまるごと使いました。

最後のあたりの仕上げ方は若干変わりましたが、だいたいこの通りで作ってあります。
ワイシャツの可能性が無限大すぎますね。
固定は家用なら縫わないでも安全ピン留めでいけるので、お家で着ていないシャツがあったら、ぜひお試しあれ。

そして完成

正面から

出来上がったドレスが好きすぎて、大賞がとれなかったことは完全に吹き飛びました。

実は、応募作を書くにあたってデザインしたときはすっかり忘れていたんですが、メンズファッション協会が行っている東日本大震災の復興支援も『ブルーローズ』なんですよ。
それが潜在意識があったかどうかは自分でもわかりませんが、被災地の復興のために立ち上がった工房に寄贈するドレスに復興の願いが刻まれているって、偶然か必然か……素敵すぎませんか。

それから、青いバラの花ことばは『夢かなう』『不可能を可能にする』『奇跡』。(青いバラのお話:サントリー

冒頭で「Life is Improvisation(人生は即興だ)」と書きましたが、即興って行き当たりばったりとか当てずっぽうって意味じゃないですよね。
演技や演奏、ライブペインティングなどなど、即興といわれるものだって確かな技術や経験の積み重ねの上にあるもので。
それまでに自分がしてきたことの積み重ねと、一瞬の未来を選ぶ力というか。
選んだ結果がどこに行くかわからないから即興ではあるけど、選ぶという行動をしなければそのどの結果にも行くことはないわけですよね。
小説を書いて、文学賞に応募して、ドレスを作りたいと相談を持ち掛け、そして作った。すべて、自分が前に進もうと思って行動した結果なんですよね。

夢を見て、そして叶えたいと行動してこそ、奇跡のような即興が起きるのだと、このブルーローズが教えてくれました。

と、なんだかこじつけのような気もしなくもないのですが、青いバラには復興の願いを込めて作りました。
これを、出来たら双葉町で結婚式を挙げる誰かに着てもらえたら、最高に幸せかも……。

横から
後ろから

と、長くなりましたが、この一か月はこんなことをしていましたというご報告と、貴重な機会を頂けた感謝の気持ちを残しておきたく、急ぎ筆を執りました。

最後まで読んでくださった皆さま、ありがとうございます!

そして主催、共催、関係者の皆さま
この度は、過分な賞や貴重な機会を賜り、本当にありがとうございました。ひなた工房と共に双葉町、ならびに被災したすべての地域の皆さまが前を向いて、夢を見て進んでいけますようにと、願います。


私も、書いて、縫って、夢を見て、そして叶えていけるよう、精進します。


『ひなた短編文学賞』受賞作品はこちらから読むことができます。
大賞の『可愛がってください』をはじめ、日常、非日常の『生まれ変わる』ストーリーはとても親近感があり、人の息づかいをすぐそばに感じられる物語ばかりです。ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。


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