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私だけのタカラモノ

美しい花は私だけのために咲くべきだ

貴女は美しい。
咲き誇る花のように視線を集めて離さなかった。
日の光のように温かな笑顔は人の心の壁を溶かし、堅物も含めて貴女を意識しない人はいなかった。
そんな貴女が私は憧れた。
少しでも貴女に近づけるように努力を惜しまなかった。学校の勉強、立ち居振る舞い、お花やお茶の練習から経済の話題まで、どんなことにも全力で取り組んだ。
しかし、私は貴女に近づくどころか、返って遠ざかるような気がしたのだった。私の周りには貴女以外の人たちが集まり、貴女以外の人たちが私の関心を求めようと生ゴミにたかる蝿のように煩わしかった。
私は遠くから貴女を眺めていた。今日も貴女は秋の夜の焚き火のように人の心に憩いの場をもたらしていた。そんなおり、彼女の温もりが少し冷えたように感じる時があった。蝿が以前よりもうるさく笑うものだから、黙って見つめると嬉しげに話し始めた。
衝撃だった。貴女を疎ましく思い、傷をつけ、毒をもろうとする下卑た考えが起こりうるということが私の思考の外の出来事だったのだ。
私は胸が酷く締め付けられるように痛むのを感じた。ああ、どうして貴女のような可憐で非力な存在が下衆に足を引っ張られるような目にあわねばならないのか。その不幸を思うと私は頬を濡らす熱いものを抑えることができず、自分の部屋で声をあげて泣いた。
貴女はいつしか周囲に疎まれるようになった。蝿たちが彼女の周りをぶんぶんと飛ぶようになったからだ。蝿を好む人は少ない。まして、有害な針を持って人を刺す蝿に身の危険を感じるのは自然なことだろう。
理不尽な罵声が貴女を襲うようになる。
貴女の微笑みが悲しげなものに変わり、人はいつしか貴女のそばを離れていった。
私はそれを止められなかった。
私に蝿を殺すだけの力がなかったわけではない。
むしろ、騒がしく迷惑だった。
私に蝿を払うだけの勇気がなかったわけではない。
むしろ、蝿たちは私の瞬き一つにすら注目して、私の機嫌を損ねないように気を払っていた。
そうだ、私は蝿から貴女を守ることができた。でもわざとそれをしなかった。なぜなら、蝿は貴女の周りから余計な人たちを追い払ってくれるから。

もう貴女の周りには誰もいない。
さあ、私がそのうるさい蝿をパチンと叩き潰してあげましょう。
これからは貴女は私だけのもの。

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