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君は笑えばそれでいい

人のために人は変われる


あの子は特別だから。
私がそう言われていることに気づいたのは、小学生の頃だっただろうか。
実際のところは少しばかり聞き分けが良かっただけだ。ただそのせいでノリが悪い、みんながやっているのに私だけやらない、ということが多少あった。
無視されるようなイジメにはつながらなかったが、なにか面白そうな、そした少し悪いことをする時には私は誘われなくなった。
そんな自分に少し違和感を感じていた。

集団から浮いてしまうことは変わらなかったが、私にも少ないながらも友達はできた。
高校の頃に出会った友人は型にハマらないやつだった。
悪気なく校則を破り、何気なく人の懐に入るやつだった。
彼は人に好かれる性質だった。
なんとなく周りに合わせられない私と自然に周りと違うことをする彼は不思議と同じ選択をすることが多かった。
お昼ご飯を食べる場所、部活を掛け持ちしていること、特別天気のいい日には学校をサボって公園で過ごすこと。
同じことをしても私と彼とでは周囲の反応が違っていた。
私が例によって距離を保った接し方をされたのに対して、彼は叱られ、彼なりの言い分を話しては呆れられ、そして一緒になって笑い合っていた。
私と彼との違いがどうしても気になって、私は下駄箱に向かう彼を呼び止めた。
「どうして貴方はそんなに人に好かれるの?」
「別に好かれてはない。ただこういうやつだって理解されてるだけだ。君は少し分かりにくいから、それでみんなどうやって君に接したらいいかをはかり兼ねてるんだろ。」
私は内心の疑問にズバリと答えられて驚いた。
返事に困っている間に彼は靴を履き替えていた。
「まあ、何かあったら笑って誤魔化すといいさ。」
「笑って…?」
「笑ってる人間は親しみやすいものだ。それに、君が笑えばきっとかわいい。」
じゃあ、と走り去る彼の後ろ姿を見送りながら、私は自分の胸に手を当てて考えた。
私が感じていた違和感はもうそこにはなかった。
代わりに胸が高鳴りと握り拳ひとつ分の苦しさがあった。
私は特別な自分を受け入れることができた。

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