見出し画像

ホトトギスの君

後輩の存在が自分が成長したと教えてくれる

ホトトギスが鳴いている。風にそよぐ桜並木の影に二人の少女の姿があった。
木陰で寝転ぶ小柄な少女とそれに膝を貸して髪をもてあそぶ短髪の少女。
春ののどかさが日の光を心地よいものに感じさせた。
女学校では年長の生徒が年少の生徒の面倒を見るという姉妹制度があった。姉妹の枠を超えて情熱に身を焦がすもの、反発を覚えるもの、姉妹制度への受け止め方は人それぞれだが、親元を離れて学生寮で生活する上で親兄弟の代わりに生活の作法を教えてくれるものは先輩以外なかった。
穏やかな午睡を楽しむ二人はその中でも緩やかなものだった。よくも悪くも特別に意識している素振りが互いになく、それこそ本当の姉妹のようだった。
日が傾いてきた。
ホトトギスの声も聞こえなくなり、一番星が見える。
そんな二人の関係もこの月が終わるまで。
新しい学期が始まれば、新しい姉妹に組変わる。
「最後の日がお外でお昼寝でよかったの?」
長髪の少女は小柄な少女の頬に手を当てて問うた。
「まあ、私たちならこれが一番かな、と。」
「他の方たちはカフェにお茶しにいったり、お洋服を見立てに行ったりしているようだけれど。」
「いいんです。私はお姉と過ごす時間が一番なんです。」
「今になってかわいいことをいうのね。」
春でも日が暮れれば肌寒い。長髪の少女は微かに身を震わせた。
「帰りましょうか。」
「ええ、帰りましょう。」
二人は手を繋ぐでもなく、肩を並べて学生寮へと歩いていった。

あくる日、二人は姉妹ではなくなった。
学年が上がり、新入生との新しい姉妹が組まれた。
小柄な少女にも妹を持つようになった。
新しい妹はいかにも気が強そうなつり目で小柄な少女を睨みつけた。
はじめまして、と手を差し出すも、空気を掴むだけだった。
懐かしい、そして可愛らしい。去年の自分もこんな風に見えていたのだろうか。
つり目の少女の頬に手を添えて、小柄な少女は微笑んだ。
「私たち、きっといい姉妹になると思うわ。」
ホトトギスの声をまた聞くまでには、きっと。

私にカフェオレを飲ませるためにサポートしてみませんか?