レインツリー

揺らされた水面の
くりかえし
くりかえす
波紋から届くうたごえ

雨の降る午後
今日は明るいと
ほそめた目に
ティーカップからたちのぼる

少しずつ染みが広がるように
喉がこまかくふるえる
伏せた視線が
深部をさぐって
いつか聞いた
遠い国の雨の音をよびおこす
(この雨には)
(名前があって)
ささやいてみれば
ずいぶんとなつかしい

その名を教えてくれた
真白な背中のひとは
花をたくさん抱えたまま
笑うのをやめてしまった
だれからも
あいされたいと
いいながら
一緒に
雨の音を聞いて
一緒に
ひとりぼっちだった

かわりに伝えた名
雨の降る前のにおいは届いたのだろうか
すっかり冷えたカップの中に
いくらかの心を落として
時計を見やる
約束の時間が近づいていた

雨の音はまだくりかえし
くりかえしている
そっと頬を寄せた日の
かわいた軽さを
静かに靴底におさめて
もう出かけなくては

くりかえし
くりかえす

ずっとやまないわたしのかたわら


ここまでお読みくださり、ありがとうございました