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【須田亜香里さんの軌跡】◆M37 アイドル須田亜香里の完成

 須田亜香里さんは,令和4(2022)年5月30日,9月末をもってSKE48から卒業すると発表しました。その発表は,翌日,多くのスポーツ新聞で,写真入りで大きく報道されました。その報道ぶりは,一流アスリートの引退記者会見で贈られる記者からの拍手に似て,須田さんの功績を讃える盛大なものでした。

ところで,須田さんは,なぜ,アイドルとしての絶頂期で卒業を決断したのでしょうか。中日新聞6月18日朝刊に掲載されたインタビューには,こう書かれています。

「中途半端にアイドルをやりたくなかったから。一つは体力の限界が大きい。SKE48のダンスはすごく体力を使う。年々身体を痛めることが増えた。また,以前はアイドルの引き出しの一つとしてお芝居や書く仕事などがあったのが,他の仕事が充実したことで,人間の自分の引き出しの一つがアイドルというふうに変わってきた。三十歳の節目で答えを出さなきゃと思っていて,三月末には卒業を決めた。」

また,別のインタビューでは,こう語っています。【1】

「28歳ごろから,肩や肩胛骨あたりの筋肉を痛めることが,ちょいちょいあったんです。(中略)ライブの翌日にベッドから起き上がれなくて,次の仕事に支障が出るから鍼に行ったり。20代前半にも疲れが溜まるとそういうことがありましたけれど,すごく頻繁になったので,限界に近づいているなと思っていました。(中略)自分の100%からレベルを下げたくなかったんです。昔できたことを年齢を理由にセーブするとか,私の中ではありえないので。たとえば蹴りの脚を下げたり、ジャンプを低くしたくない。良い自分しか見せたくない意地もありました。」「心配ベースで応援されるのは,アイドルとしてちょっと違うかなと。もっと純粋に楽しんでもらいたいけれど,今の状況では難しい。それでずっともやもやしていたのも,卒業の理由の一つでした。心配と応援をごっちゃにしてもらいたくなくて,けじめを付けなければと思ったんです。」

以下は私の感想です。

握手会だけではなく,劇場公演やコンサート,テレビやラジオへの出演,グラビアや文章・・・須田さんは,プロのアイドルとして、一人一人のファンを全力で楽しませるポリシーを貫いてきました。

また,「一人一人のファンを全力で楽しませる」という須田さんのポリシーは,13年間のアイドル活動を通じて,ただの一度もスキャンダルがなかったことにも現れています。

そうだとすれば,全力でのアイドル活動ができなくなったと悟り、アイドルへの未練を絶ち切って卒業を決断することは,須田さんにとっては,自分のポリシーから必然的に導かれる終着駅だったのかもしれません。須田さんの,一流アスリートに似た潔い決断には,「引き際の美学」という言葉がよく似合うように思います。

その後,SKE48の30thシングル「絶対インスピレーション」の発売が発表されました。このシングルで,須田さんは,27回連続選抜メンバー入りという,SKE48の最高の記録を残すと共に,ソロ曲「私の歩き方」を歌うこととなりました。作詞はもちろん秋元康さんです。

「私の歩き方」の歌詞には「私の歩き方で/真っ直ぐに道を行く/そう誰とも比べない/自分らしいペースで」とあります。須田さんの歩いてきた道は,決して平坦なものではありませんでしたが,この歌詞のとおり,須田さんは,過去のアイドルが一人としてできなかった方法で,ここまでたどり着き,そしてこれからも,人間須田亜香里として歩き続けるのでしょう。

また,須田さんは,この曲のMVで,一挙手一投足に思いを込めたコンテンポラリーダンスを披露しています。

その後,須田さんは,卒業を11月1日に延期すると発表しました。その上で,須田さんは,9月24日,日本ガイシホールで開催された卒業コンサート「君だけが瞳の中のセンター」に出演しました。

コンサート開始前の影アナから須田さんは涙ぐんでしまいましたが,ソロ曲「今の私じゃダメなんだ」に始まり,「恋を語る詩人になれなくて」では,最後列から徐々にポジションを上げていく演出を見せたり,「須田会」メンバーで「女の子の第六感」を披露するなど,変幻自在のパフォーマンスを続けました。そして,卒業生の松村香織さんとともに,2人のオリジナル曲「ここで一発」も披露しました。「孤独なバレリーナ」ではバレエを踊り,「パレオはエメラルド」では,紅白歌合戦出場時の振り付けを再現しました。そしてアンコールでは,「私の歩き方」をソロで歌った後に,ギターの弾き語りで「前しか向かねえ」を歌い上げました。須田さんがMC以外の全35曲に出演したこのコンサートは,須田さんのアイドル人生をすべて表現したものであったといえるでしょう。また,この日の須田さんの卒業ドレスは,ピンクを基調とし,背中を大きく開けたもので,コンセプトは「お嫁に来て欲しくなるドレス」というものでした。

須田さんもこのコンサートは納得のいく出来映えであったようで,コンサート終了後のインタビューでは「達成感でいっぱいです」と語りました。

コンサートを終えた須田さんは,これから,握手会やコール付きの公演への出演が予定されています。それは,「握手会が再開されるまで卒業しない」、「ファンのコールで送り出されたい」,というファンとの約束を果たすものとなります。

須田さんの卒業は,プロのアイドルとしての全てを完成させた上での卒業という意味でも,ファンに須田さんを推してきて良かったと思わせたという意味でも、もっとも幸福なものなのではないでしょうか。須田さん自身も卒コン2週間後のインタビューでこう語っています。【2】

「もう悔いはありません。最後にファンの方一人一人の目を見てありがとうを言うだけです」

(続く=須田さんがアイドルを卒業した後も,私は「人間須田亜香里」を追いかけていこうと思います。)

(補足)大場美奈さんが、メンバーの目から見た須田さんについて、暖かい文章を発表してくれました。

【特別寄稿】SKE48 OG大場美奈が見た須田亜香里「見てきた姿は笑顔と涙、半々ぐらい」

https://entamenext.com/articles/detail/20973/3/1/1

<ソースノート>

【1】SKE48を卒業する須田亜香里。「ブスから神7」への苦渋とノースキャンダルの本当のところhttps://news.yahoo.co.jp/byline/saitotakashi/20221001-00317295

【2】来月SKE48卒業の須田亜香里 悔いなし「最後にありがとうを言うだけ」スポニチに思い語る  
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/10/08/kiji/20221007s00041000722000c.html

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