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バドミントンのゲーム分析って?

今回はバドミントンのゲーム分析について、僕が実際にどうやって情報を収集し分析をしているのか実際のデータを用いながら紹介していきます。


1.試合データの収集

まずは勿論、データを集めるところからです。
データ収集には特別な分析ソフトなどは使用しておらず、基本的にはExcelのみで行なっています。追加の情報や映像も欲しい時には大学でライセンスを契約しているSportsCodeも使用していますが、今回はExcelでの作業に絞ってご紹介していきます。

※分析の前提として、あくまで平面での処理しかできていません。
打点もかなり重要になる競技なので三次元での分析を行いたいのですが、僕にはソフトを開発したりプログラムを組む技術はないので、そのようなものを作成してくださる方いらっしゃいましたらご連絡ください!

※メインは配球の分析です。
フォア奥に集めてくるなどの配球傾向だったり、相手バック前からのロブを狙っているなど、エースを取る過程に使うエリア、ショットを探ります。

では、簡単にデータ収集について説明します。

  1. コートを9分割し、その9分割したコートの中で誰がどこから何のショットを打ったかを記録します。(例:フォア奥からスマッシュ)

  2. ショットの種類は処理の関係上、8つに絞っています。

  3. エース・エラーなど、どのようにラリーが終わったのかを記録します。

以上です。

コートの分け方は等しく9分割です。
とは言っても入力は人間なので誤差はあります。
コートを縦にRight、Center、Leftで3分割、横にRear、Mid、Frontで3分割。
そしてそれぞれの頭文字を取ってRR,CR,LR,…LFとしています。

左:コート割と名称 右:ショットの分類

実際にデータを打ち込む画面がこちらです。

試合データの入力画面

マクロを用いた入力フォームを利用しています。
このフォームは、バドミントン部の顧問であり学部時代のゼミでもお世話になった先生のお知り合いの方に作成していただいたものです。
収集する情報は「誰がどこからどこへ何のショットを打ったのか」です。
これをラリーが続く限り繰り返し、最後にラリーの結果、シャトルの落下エリアを入力することで、1ラリー分のデータが完成します。


選手A:RR→LM スマッシュ
選手B:LM→RF レシーブ
選手A:RF→RR ロブ
選手B:RR→LM スマッシュ
選手A:LM→RF レシーブ ネット 

この作業をひたすら繰り返し、1ゲーム分、1試合分のデータが完成します。

収集作業は以上で、集めたデータを見やすくまとめていく作業に移ります。


2.分析用スコアシート

まずは馴染みのあるスコアシートを分析用に作り直したものに転記していきます。佐藤、中島という名前は偽名ですが、データ自体は実際に使用したもので、S/Jリーグ1部所属選手同士の女子シングルスの試合です。

分析用スコアシート

このスコアシートは点数と共に、その点数が誰の何のショットのエース・エラーなのか、それはどこからどこへ打ったのかを記録しています。
ショットの頭文字だけの時はエースで、Nが後ろに付くとネットエラー、Mが後ろに付くとサイドアウト、バックアウト、ネットまで届かなかったなどのミスショット、というように記録しています。


P:プッシュのエース
SN:スマッシュのネットエラー
CM:クリアーのミスショット

例えば佐藤さんの1点目は、佐藤さんのセンター前からのロブ(CF・L)に対して中島さんがバック奥からストレート(LR-RM)に打ったスマッシュがネット(SN)にかかり、佐藤さんにポイントが入っています。
このように記録していくことで、ポイントの推移だけでなく、どのように点が入ったのかをすぐに確認することができます。

スコアシートだけはリアルタイムでも入力が間に合うので、即時的かつ簡易的にデータが欲しい時は会場で打ち込み作業をしていました。
例えば、2回戦の相手の情報が全くない、選手自身も試合に入るのでその選手の試合が見れない、なんてことはよくあると思います。そんな時にはビデオを回しながらこのスコアシートを記録するだけで、その選手の傾向を掴めるだけでなく、スマッシュで点を取った場面などポイントを絞ってビデオを見ることができるので非常に効率が良いですし、対戦相手と比べるとかなりのアドバンテージを持って試合に臨むことができます。

このゲームで言うと、佐藤さんが19-16から5連続失点で負けていますが、5本ともエラーで点を取られたことがわかります。そしてその内容もドロップ、スマッシュ、レシーブ、クリアーと、様々なエラーをしています。
点数を意識してポイントを取り急いでしまったのか、悪い方に余裕が生まれ隙ができてしまったのか、何か感覚に狂いが生まれてしまったのか。そこは実際の映像だったり、選手やコーチと話しながら探っていく必要がありますが、その材料としては十分なものになっていると思います。


3.エース・エラー分析

記入したスコアシートから、COUNTIFS関数でショットごとのエース・エラーの数をゲームごとにカウントします。
ショットの頭文字を取っていて、上からクリアー、ドロップ、スマッシュ、ドライブ、レシーブ、ロブ、ヘアピン、プッシュ、サーブです。

ショット別のエース・エラー表

今まで100試合くらいのこれを見てきましたが、エラーの方が多いことがほとんどで、エースはスマッシュとプッシュ、エラーはスマッシュとレシーブ、クリアーやロブが多い傾向にあります。
男子シングルスだとヘアピン、女子シングルスだとドロップも点に絡むことが多い気がします。

この試合も例外ではなく上記のショットが多い傾向ですが、佐藤さんのスマッシュエラーと、中島さんのロブエラーが多いことが気になります。
佐藤さんのスマッシュエラーは8本と多いですがエースも8本と比較的多く、プッシュでのエースが極端に少ないので、攻撃型の選手でひたすらスマッシュネット!というよりは「点を取るのも取られるのもスマッシュ」みたいなタイプの選手なのかな〜と思います。そこを警戒してロブのミスが増えたり、佐藤さんがアタック型の選手ということでヘアピンも上手く、ロブをエラーさせられたのかな〜など、これだけでも様々なことが考えられます。
これを見た後に、例えばロブのエラーはフォア?バック?というのを調べるためにスコアシートを見直したり、そのラリーだけを抽出して映像を見返したりします。

実際ロブエラーだけをスコアシートで見てみると、中島さんのロブエラー6本のうち5本は相手のヘアピンに対してのエラーでした。ショートリターンやドロップに対してのロブエラーでは無いので、「スマッシュを打った後が遅い」とか、「前への反応が遅く、弱点だ」というわけでは無いので、どちらかといえば「佐藤さんのヘアピンが良かった」と言うべきでしょう。


4.スマッシュのエース・エラー分析

やはりシングルスはスマッシュで点が動くことが1番多いので、スマッシュに絞ってコース別にエース・エラーを見ていきます。
効果率はバレーの効果率と同じように計算していて、(エース-エラー)÷総数です。どのくらい効果があったのか一目で見やすいので、算出しています。
Rearコートからのスマッシュに限定していて、Midコートからなど、浅い位置からのスマッシュは除いているので、上のエース・エラー数と誤差が生じることが多々あり、今回もそうです。

スマッシュのコース別エース・エラー

まず総数で2人に大きな差が出ています。佐藤さんは41本、中島さんは81本と、佐藤さんが全然スマッシュを打てていません。佐藤さんはロングサーブ、中島さんはショートサーブだったので、その差ももちろんありますが、やはりスマッシュが厄介な選手で、中島さんがなるべく打たせないように配球していたのだとと思います。また、佐藤さんはバック奥からのエラーが目立ちます。
41本のうち13本がエースかエラーなので、「スマッシュは3本に1本くらいの割合で点が動いている」と言われるとイメージしやすいでしょうか。
女子シングルスということも考えると、なかなか居ないタイプですね。
この試合は19-21,17-21とかなり接戦なので、もし佐藤さんのスマッシュエラーをもう少し減らせていたら…。全然勝敗は分からなかったですね。


5.ショット別スタッツ

ショットごとの総数や、オーバー、サイド、アンダーハンドに分類したり、得点が入りやすいショットのみを抜粋して、効果率を求めています。

左:ショットごとの総数 右:ショット別効果率

ストローク数で気になるのは佐藤さんのロングリターンが23本とかなり多いことです。男子でもここまで多いのは珍しいです。ロブも93本と多いです。
それによってリアコートからのショット総数は佐藤さんが132本、中島さんは208本と大きな差が出てしまっています。相手に打たせてレシーブから展開を作り、スマッシュを打ち込むというプレースタイルなのは分かりますが、この試合に関しては相手に打たせすぎてしまったというのが敗因の1つにあると思います。あくまで1試合だけの分析なので、相手がラリー型の選手ということでこのような戦術を取った事も考えられますし、スマッシュがこの日はなぜか入らなかったなど、考えられることは沢山ありますが、共通してこのような試合だと、スマッシュが決まらない日は勝てない、相手の方がアタック力があったら勝てない、そんな選手になってしまうので、スマッシュの精度を上げるだったり、得意パターンまでのレパートリーを増やすなどが今後の課題になってくるのかと思います。

効果率を見ると、佐藤さんの取り柄はアタック力のはずですが、この試合では相手の中島さんの方がスマッシュもアタックも高い数値になっています。
他のスタッツは大差ないので、やはり佐藤さんのスマッシュエラーが決め手になった試合と言えるでしょう。
アタック(スマッシュ、プッシュ、ドライブ)とレシーブプレーを除いたショットの効果率である、その他効果率は佐藤さんの方が高いので、クリアーやロブ、ヘアピンなど、得点に直接関与しにくい繋ぎの意味合いが強いショットに関しては佐藤さんの方が優れていたということなので、スマッシュが入らない状況だったことも考えるともう少しラリーを続けてみても良かったんじゃないかと思います。


6.配球分析

続いてはメインで使用する配球の分析です。
収集したデータをどこからどこへ打ったのかという表にしてまとめます。
左は本数、右は割合で表しています。

どこからどこへ表

数字だけ並んでても見づらいので、コートを模した図にもします。
これが個人的にはイメージもしやすくて面白いと思います。

エリア別配球表 佐藤

佐藤さんの配球の特徴として目立つところはあまりなく、オーソドックスな4隅に振るタイプです。どのエリアでも基本的にストレート多めです。
強いて言うならRRからのクロスクリアー、クロスロブが少し多いですね。

エリア別配球表 中島

対する中島さんは、結構偏りがあります。
まずLRからはストレートがほとんどで、スマッシュかクリアーの2択。クロスクリアーとドロップがここまで少ないのはかなり珍しいです。
LMもRMもストレートのショートリターンといいう基本のプレーがほとんどで、どちらも約70%を占めています。
反対にネットプレーは偏りがほぼなく、綺麗に散らしています。
レシーブプレーの7割がストレートのショートリターンで、ロングリターンはほぼ無いということは、佐藤さんのスマッシュがやはり良かったのか、それとも中島さんの戦い方がこうなのか、ロングリターンが出来ないのか。
正解は分かりませんが、少なくとも戦術の示唆として、ここを狙うと言うのは出来たと思います。
佐藤さんはプッシュを打った回数がこの試合たったの2本と、スマッシュから前に詰めてプッシュというプレーをしていたわけではありません。なので、スマッシュでエースを狙うのではなく、次のショートリターンを狙うという戦い方もアリだったのでは無いでしょうか。


7.サービスレシーブ分析

配球分析の中でもサービスに対する返球に絞った分析です。
バドミントンにおいてサービスレシーブは唯一止まった状態から打てるので、その選手のクセや狙い、特徴が出やすいです。また、サービスサイドで得点を重ねることはバドミントンにおいても重要なので、この分析も非常に大事にしています。映像も一緒に見ながらミーティングをして、この球にはどう対応するか、などを話し合っていました。

左からサイドライン側、センターライン側、合算です。

2球目コース 佐藤

佐藤さんの特徴としてはクロスへのロブが多いことです。右コートからは相手のフォア奥に、左コートからは相手のバック奥に。左右にロブかシンプルなネットかという、よく見るパターンの配球傾向です。

2球目コース 中島

対する中島さんは、サービスレシーブはスマッシュを多用する選手でした。ストレートが少し多く、ボディにもクロスにも満遍なく打っています。ドロップも打っていますし、相手フォア奥へのクリアーも打っています。
バック奥へのクリアーを1本も打っていないので、そこの警戒を薄めて基本的にはスマッシュ、次にドロップへの対応という意識で良さそうです。


8.まとめ

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

今回ご紹介したデータがデフォルトで作成しているもので、大体試合時間の2.5倍〜3倍くらいの時間がかかります。ここから得失点のパターンを時系列で分析したり、映像を切り抜いたり、ラリー時間を調べたりと、更に細かくやる事もあります。

もし、このような分析をやって欲しい!自分の配球だったりライバルの配球を見てみたい!って方がいらっしゃいましたら是非、僕のX(Twitter)のDMまでご連絡ください。

疑問点や感想などコメントお待ちしております!

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