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「竜とそばかすの姫」は?米アカデミー賞長編アニメーション部門一番早い予想

■ノミネート4枠は固まっていそう、最後の1枠が焦点

「映画賞シーズンがやってきた!」とばかり、2021年度の米国アカデミー賞長編アニメーション部門のノミネート予想をしてみました。
「アワードシーズン? まだ1年の2/3も過ぎていないよ!」との声も聞こえてきそうですが、今年のアカデミーは何が起きるか分からない状態で大注目なのです。早めに状況を理解しておくと、きっとアカデミー賞長編アニメーション部門も2、3倍楽しめるはず。
そして細田守監督の『竜とそばかすの姫』の活躍も期待できるのも、大きな理由です。

先に結論から入ると、今回の米国アカデミー賞長編アニメーション部門のノミネートは、ピクサーの『あの夏のルカ』はほぼ確実、『ミッシェル家とマシンの反乱』『ミラベルと魔法だらけの家』『竜とそばかすの姫』がほぼ固く、すでに4枠が埋まったと考えています。
残りのひとつが現段階で全く読めず、大激戦中です。

【第93回アカデミー賞長編アニメーション部門ノミネート予想】
◎『あの夏のルカ』(ピクサー)
○『ミッシェル家とマシンの反乱』(ソニー/Netflix)
○『ミラベルと魔法だらけの家』(ディズニー)
○『竜とそばかすの姫』(スタジオ地図)
△『SING/シング: ネクストステージ』(イルミネーション)
△『Flee』
△『ラーヤと龍の王国』(ディズニー)
▲『ロン 僕のポンコツ・ボット』(20世紀)
<以下、取り消し>
△『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』(Netflix)
*すみません! 本作、シリーズ作品と気づかず。とてもよい作品ですが、当然オスカーの対象外です。訂正します。

■有力2作品は劇場未公開、配信独占

『あの夏のルカ』が有力なのは、ピクサー・アニメーションスタジオの圧倒的な評価の高さです。これまでに15本のノミネートと11回の最優秀賞を獲得しています。『カーズ/クロスロード』や『アーロと少年』といったノミネートに至らなかった作品もありますが、『あの夏のルカ』は評価が高く安定のピクサーです。最優秀受賞も視野にいれた有力候補でしょう。ただ気になるのは圧倒的な評価にいたってないこと、劇場公開をせず「Disney+」独占としたことで話題性に欠けたことでしょう。

『ミッシェル家とマシンの反乱』も配信オンリーで、Netflix独占でやはり話題になることが少なかったのは残念です。2018年に『スパイダーマン: スパイダーバース』でオスカーに輝いたソニー・ピクチャーズ・アニメーションのチームの最新作で実験的な映像を盛り込だ意欲作になりました。アカデミー投票者の居住が多い米国西海岸を舞台にし、主人公が大学の映画コースを目指すギークな女の子との設定も投票者の共感を持たれるでしょう。ただ作品が『スパイダーバース』と較べられると弱さも感じます。

『ミラベルと魔法だらけの家』は、現時点では未公開のため少し先走った選択でした。アカデミー賞に強いディズニー作品であること、久々に劇場公開を先行するとした点で好感がもたれるはずです。
未公開は他にイルミネーション制作の『SING/シング: ネクストステージ』もあり、公開後の評判でここら辺りの作品は入れ替わるかもしれません。

■ディズニー系が抱える作品が多過ぎる問題

一方で当初はアカデミーを充分狙えたと思えたドリームワークスの最新作『ボス・ベイビー2 ファミリーミッション』は公開後の評価がかなり低く、興行も厳しい結果に終わりました。オスカー候補から遠のいたと見られます。
3月5日に公開した『ラーヤと龍の王国』も海外興行が厳しく、作品の評価があまり聞こえてきません。ノミネート候補で挙げた9作品のうち4作品(ディズニー2本、ピクサー1本、20世紀1本)がディズニー・グループの作品という問題もあります。票の分散を考えれば、ディズニーは『あの夏のルカ』『ミラベルと魔法だらけの家』に集中させたいかもしれません。
20世紀スタジオの『ロン 僕のポンコツ・ボット』もディズニー・グループですから、同じ理由でノミネートのハードルは高く感じます。

ここで浮上するのは『FLEE』です。アヌシーアニメーション映画祭グランプリなど、各国の映画賞を獲得し評価の高さは折り紙つきです。インディーズであるため他作品と質は異なりそうですが、近年のアカデミーは『失くした体』や『生きのびるために』『父を探して』などインディーズ作品のノミネートが増えており無視できません。
今年はエントリー出来るインディーズ映画が少なく、競合作品がないのも有利な点です。12月公開を予定しています。

■『竜とそばかすの姫』ノミネートが有力なわけ

今冬との時期のみで公開日が発表されてない『竜とそばかすの姫』ですが、公開時期がクリスマスシーズンと重なり、プロモーションがきちんと行われればノミネートはかなり有力です。ノミネートだけでなく、最優秀賞のチャンスもあるのでないかと思います。
カンヌでのプレミア上映で評価をされ、現在は数は少ないながらも英字メディアの評価はかなり高くなっています。インターネットや児童虐待といった今日的なテーマにストレートに向き合ったことも好感を呼ぶに違いありません。
さらにもうひとつ9月30日からのアカデミー博物館がオープンし、宮崎駿展が杮落しで開催されるのは追い風です。日本アニメが映画のジャンルとして確立し、評価されていることを確認することは『竜とそばかすの姫』にとっても有利でしょう。

2021年は現在まで傑出した有力候補がありません。今年は新型コロナ感染症の影響があり、公開作品数が減少しているのも理由です。
劇場動員数の減少を避け、公開延期やネット配信移行が増えたためです。加えて、前回のエントリー期間を2020年1月~21年2月に延長したことで、今年は2021年3月~21年12月と対象期間が逆に2ヵ月短くなって10ヵ月しかありません。

賞レースに必ず絡んでくる米国のライカ、ヨーロッパのカートゥーンサルーン、アードマンといった独立系の有力スタジオのいずれもが新作を発表していないのも大きいでしょう。この辺りの作品は、日本作品と支持層が重なっていると見られます。
近年、勢い増しているNetflixもこれまで有力作品がなく、今後配信される『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』が傑作であれば急浮上する可能性がないわけではありません。現状は独占配信するソニー・ピクチャーズの『ミッシェル家とマシンの反乱』が有力との印象です。

■どうなる『鬼滅の刃』『ヒロアカ』

日本からはやはり日本作品の行方は気になります。例年日本アニメはノミネートにならずともエントリー作品数では海外最大です。『竜とそばかすの姫』以外の作品はどうでしょう。
実は現時点でアカデミー賞のエントリー基準を間違いなく満たす公開をした日本作品は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』しかありません。さらに『竜とそばかすの姫』、10月29日に1500スクリーン以上の公開が決まっている『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の3本だけです。

しかしテレビアニメシリーズを前提とした映画のノミネートは極めて難しいのが現状です。Netflixのシリーズ作品から映画化された『トロールハンターズ: ライジング・タイタンズ』を有力作品から外しているのと同じ理由で、ノミネートはないと考えています。

逆にアワード向きの劇場オリジナル企画作品では『ジョゼと虎と魚たち』『犬王』『鹿の王』『漁港の肉子ちゃん』などがあります。しかしこれらの作品はアカデミー賞のエントリー資格を持っていないようです。
『ジョゼと虎と魚たち』は限定公開のため、ロサンゼルスなどの都市で一週間1日3回以上の商業上映の条件を満たしていない可能性が強そうです。海外映画祭で好評を博している『漁港の肉子ちゃん』も、米国公開・配信の予定にあがっていません。
『犬王』『鹿の王』は早くから注目され、すでに『竜とそばかすの姫』同様にGKIDSが北米配給権を獲得しています。しかしいずれも米国公開は2022年とみたほうがよいでしょう。

■波乱を呼ぶか配信作品

2021年の波乱は配信です。新型コロナウィルスによる劇場興行の縮小を理由に、アカデミー協会は前年に続き配信作品のエントリーをOKにしました。有力作品のうち『あの夏のルカ』『ミッシェル家とマシンの反乱』『ラーヤと龍の王国』は配信独占タイトルです。
ただしアカデミーが公表するエントリーできる配信作品の条件は非常に曖昧です。劇場公開を前提として制作された作品で、アカデミー会員が鑑賞できる環境を準備することとしています。

この基準でいけば、例えば『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もエントリー資格を得られる可能性があります。劇場を前提とした作品であり、かつ新型コロナ感染症拡大を背景に期間中に北米でAmazon プライム ビデオでの配信を開始したからです。
こうした例は日本以外でも数多くあるはずです。今年はインディーズ系作品の公開が減ってますが、この条件をもとにエントリーする作品が増える可能性もあり、実は今回のアカデミー賞の行方が予測しにくい理由です。

Amazon が買収したMGM傘下のユナイテッド・アーティスツの『アダムス・ファミリー2』がどうプロモーションされるかも気になるところです。
中国作品からのサプライズなエントリーもあるかもしれません。中国には今年『姜子牙』や『白蛇2:青蛇動起』といった大ヒットした話題作があります。映像クオリティの評価も高くなっています。年末に向けロサンゼルスで一週間興行をすればエントリーは可能です。
ただしこれまでも中国で大ヒットした映画がエントリーしたことはありますが、ノミネートされたことはありません。一般的な知名度の点では壁はまだ高く、敢えて挑戦するかは予想のしがたい部分です。

9月初旬の状況で予測をまとめてみましたが、今年は例年にも増して流動的な賞レースになっています。
今後状況が変わりましたらあっさりと前言をひっくり返したりしますので、その時はあらためて最新情報をまとめてみたいと思います。

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