どこでもない場所_本データ_5

【連載】 第5回 「目標達成型」と「流れに身を任せる型」。(話す人:浅生鴨さん)

元NHK職員であり、現在は広告企画制作を手がけつつ、『伴走者』『猫たちの色メガネ』など幅広い作風の物語を書く小説家でもある浅生鴨さんの初のエッセイ集『どこでもない場所』左右社から出版されました。かもさんのご好意で取材の機会をいただきました。
個人的には、本を読んで不思議な世界に迷い込み、話を聞いてさらに迷いの森の深くへと踏み込むこととなりました(笑)。しかし内容は、主体性のない人生の楽しみ方や受注体質の人のための仕事の流儀をはじめ、文章の書き方のお話にまで広がり、読み応えのあるものになったと思います。お楽しみいただけると嬉しいです。

浅生鴨さんのnoteはこちら

第5回 「目標達成型」と「流れに身を任せる型」。

末吉
鴨さんは主体性がないとか、受注体質っていうことがひとつのテーマだと思うのですが。主体性ある人とない人、どちらのタイプが多いように見えるんですか? 周りの方たちを見ていて。

浅生
主体性がないのに、あると思ってる人が多い。

末吉
うわあ、それはつらいなぁ(笑)。

浅生
なんかね、自分で選んだつもりになってるっていう。ぜんぜん選んでないのに。

末吉
うっ…キツい、急に厳しい。いや、ぼくもそう思いますけど(笑)。

浅生
だって、ただ流されているだけなのに、自分でこの道を選びましたなんてこと言って。でもね、流されているってわかったほうが楽ですよ、そんなの。

末吉
はぁ、そういう視点なんですね。

浅生
とくに就活生にそういうのを感じます。就活している時点で流されているので、主体性なんてないんですよ、そんなの。

就活とか別にいらないんじゃないかと思うんです。行きたい会社があったら、そこ行って「ぼくこんなことができるんですけど採りませんか?」って言えばいいだけの話で。

末吉
決まった時期に、全員が、なんて必要ないかもしれないということですね。

浅生
うん、そういう時期とか関係ないじゃないですか。べつに学校卒業してから「こういうの得意なんですけど」って行って。向こうが、それいいねと思ったら「じゃあおいでよ」って言ってくれるだろうし。

まぁぼくには、そこまで行きたい会社があるっていうのが不思議ですけど。仕事なんて行かずに済むならそんないいことはないわけで(笑)。

主体性ないのに、あると思い込んじゃってる。だからぼくは主体性がないと言っているんだけど、積極的に主体性がないから、ある意味ではすごい主体性があるのかもしれない。強い信念を持って主体性がないと言ってる状態だから。

末吉
そうですよね、、、っていうのもちょっとおかしいですけど(笑)。

なんか、主体性があるって言ってる人のほうが、実はぬるく生きていたりして。そういう人たちって、結構いるんじゃないかなという気はします。

浅生
単にはっきりしているだけですけどね。

末吉
鴨さんは一周まわって、本当は主体性があるんじゃないかっていう(笑)。

浅生
自分ファーストってことなのかもしれない。

末吉
ああ、その言葉はしっくりきます。

浅生
やっぱり受注体質で、人の役に立ちたいとか相手の期待に応えたいって言ってるんだけど、それを確保するためには自分ファーストじゃなきゃいけないとか。

末吉
とても素晴らしい考え方ですね。

ぼくは『どこでもない場所』を読み終えたときに、自由というか、主体性なしに色んなことに巻き込まれる人生も悪くないなあ、っていうのはすごく思いました。

浅生
悪くないし、たぶんみんな大きな流れには巻き込まれているんですよ、実は。

末吉
そうかもしれませんね。

浅生
自分は流れに流されてるんだなって気がついているかどうかだけの差で。

だって、みんな携帯持ってるじゃないですか? それって20年前は誰も持っていませんでしたよね。携帯を使うというすごい大きな世の中の流れがあって、みんなそれを持つっていう時代の流れにはやっぱり乗ってるわけで。

末吉
うーん、確かにそうですよねえ。

浅生
なにかしら、そういういろんな流れがあって、その流れにちょっとずつ乗っかりながら生きているので。そこがわかると、たのしいというか、のんびり景色が見れるというか。

末吉
景色が見れる?

浅生
つまりぼくは、ぽかっと浮かんでぼーっと流れてるわけですよ。で、ぼくの横では同じ速度で同じ方向に向かって一所懸命泳いでいる人がいるんです。

だからぼくは、「この人がんばって泳いでるわ〜」って眺めてる。あっちには綺麗な山があって、そこには鹿がいるなとか景色を見ながら浮かんでる感じ。

末吉
たのしいなあ、みたいな。

浅生
あっちでは必死に泳いでるんだけど、わりと差はないんじゃないかと思うんです。川に流されてるわけだから。

末吉
なんだか肩の力が抜けました。

たとえば、目標を設定して自分で人生をつくっていくみたいなのって、ほんとは無理なんじゃないかって思うときがあります。実際にはその通りにはならないことが多いじゃないですか? 思いもよらない出会いがあったり、予想外のできごとが起こったり。

目標ばかりを見つめて必死に生きるより、むしろ流れに流されながらたのしく人生を眺めてたほうが…案外しあわせなんじゃないかと。

浅生
未来のことをね、考えてもしょうがないと思うんです。あれ、これ『どこでもない場所』にも書いた気がするな…。( 本のページをしばらくめくり )あぁ、あった。

予想している通りの未来など来ないとわかっているのに多くの人は未来を予想して、やがて訪れる未来とのギャップに苦しむ。だから僕はもう予想をしない。( 「まだ深夜にこの繁華街で」より )

末吉
うーん…。( 上を向いて考えこむ )

浅生
予想なんて当たんないから、してもしょうがないっていうか。

末吉
予想もそうだし、何かをつくろうとしても、なかなか思い通りにはならないっていう。

浅生
ただ大きな方向性だけ間違っていなければいいんじゃないかと思うんです。つまり西に行くか東に行くかだけぐらいしか、ぼくらには選べないんで。

末吉
はい。目標というよりは方向性。この話もありましたよね? 

あの…「すべての道は」ですね。

浅生
ぼんやりと方向性さえ合っていれば、まあだいたいそっちに行くんじゃない? みたいな。

末吉
ほんとに、これはこう、こっちはこう、って明確に決めていくというよりは、大きな方向性でこういうふうに生きていけたらなとか、生きたいなみたいなことだとか。

浅生
なんかそういうことなんだろうなあっていう。

末吉
そんな風に流れに身を任せていくというか。

浅生
がんばって泳いだ人のほうが、少し先には行くと思うんですよ、もちろん。少し先には行くんだろうけど、せいぜい80年ぐらいしか持ち時間がないんだから、そんなに差はないというか。

末吉
そうかもしれないですねえ。

浅生
何キロも先には行けないと思うんですよね。

末吉
あとは、人生の彩りというか豊かさみたいなものが違ってきそうな気がします。

おわりに、、、
鴨さん、ここって、ぼくの名前を書くところでは…(笑)?

そして、貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

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【『どこでもない場所』について】
できればお近くの書店に足を運んでご購入いただけると嬉しいです。( かもさん曰く、書店さんが嬉しいから僕も嬉しい ) ですけれども、置いてないお店もあるようで迷子になってしまうかもしれませんので(笑)、Amazonならば確実にお手元に届くと思います。どちらにしてもぜひ〜。

読み終わったあと、きっと世の中の見え方が少し変わって、( 不思議で愉快に )見えてくるはずです。


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