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どうしても会いたい人と、才能や理想と。

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 明るくにぎやかなキッチン。妻は料理をしている。義理の母は台所の片付け。娘は眠りながらうなっている。僕はテーブルに座ってコーヒー豆を挽いていた。セロニアス・モンクが演奏するジャズミュージックが僕らを包んでいた。義理の母が背を向けたまま話しかけてくる。

 「ねぇ、コーヒーが好きでこういうジャスが好きなら、ダイボー行ったことある?  あの表参道にあった」

 「 ( …黙考 ) あー、大坊ですか?  喫茶店の?」

 「 そうそう! あそこのマスターのコーヒーを淹れる姿は芸術的よね。うっとりと見入ってしまったもの」

 彼女は興奮ぎみに話してくれるのに応じて、僕は答えた。

 「わぁ、羨ましい! 行ったことあるんですね。僕は行こうと思ったときには閉店していて飲めなかったんですよ…ほんとうに残念です」

 どうしてもお会いしたかった人というのはいるもので。大坊珈琲店の大坊勝次さんが淹れる珈琲はいちど飲んでみたかった。大坊さんが書かれた書籍対談を読むにつけ、お会いしたい気持ちと飲んでみたい欲求はつのるばかり。こういうのって苦しいものですね。

 そういうことがあった夜。ひとりお風呂に入りながら考えた。さて、ほかにもお会いしたかった人は誰だろう? 考えるまでもなく、すぐにお顔が浮かんでくる方がいます。それは、

河合隼雄先生

 その人です。心理学者として日本一有名といっても過言ではない方ではないかと思います。いくつかの書籍は高校生か大学生のときにお読みした記憶があります。が、しかし。浅瀬でパシャパシャ遊んでる、くらいの深みしか理解できていなかったと思います。

 本格的に河合先生がすごい、と思えたのは、ここ最近のことだ。一年前くらいに村上春樹さんとの対談を読み、数ヶ月前に吉本ばななさんと対談を読んで、つい昨夜は茂木健一郎さんとの対談を読みおえた。そこからあらためて、河合先生単著の本数冊をKindleで購入し読みなおすことにして、娘のお世話のあいだにちくちくと読みすすめている。

 平易な言葉の奥にひろがる宇宙のごとき広大さと奥行きにただただ圧倒される。大げさな言葉で表現したが、その大げさな言葉に負けない内容が河合先生の本にはつまっている。きっと10年後、20年後、30年後に読んだときには、より一層にそういった気持ちが強まるのであろうなと、そう思う。

 お会いしたいという思いの奥には、自分が大切にしていることや自分の理想や才能の一端がひそんでいる。それらを鏡のようにうつして僕やあなたに教えてくれる貴重なものなのだ。

 たとえば、昨夜読みおえた『こころと脳の対話』のなかで、「離人症性障害」という大変なノイローゼをわずらった人が河合先生のところにきて5年ほどかけて治ったとき、その人が河合先生に言った言葉が書かれていました。

 「何をしておられたかというのは、すごくむずかしいんだけれども、あえていうなら、もし人間に『魂』というものがあるとしたら、そこだけを見ておられました……」

 その深遠さに胸を打たれ、しばらくのあいだ放心していました。こころが喜ぶと同時に、河合先生がいらっしゃったであろう場所との距離に気が遠くなりました。きっと事あるごとに読みなおす一冊になりそうです。僕自身の北極星のような存在として。

 「あなたがどうしても会いたい人は誰ですか?」

 今日もnoteを読みにきてくださり、ありがとうございます。さて、明日から月曜日。ひさしぶりにちびまる子ちゃんを見ながら、THE・週末感を味わっています。

 定期購読マガジン読者のみなさんには、今日読んださいこうの一文をおすそ分けいたします。あと、運命を変えるちっちゃな習慣も。

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