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少ない本を隅から隅まで丁寧に、何度も何度も読む。

ある日の仕事中、ぼくは家に帰るのを心待ちにしていた。「早くお家へ帰りたいよぉ」まるでホームシックの子ども状態だ。でも、寂しさなんて欠片もなく、たのしみという風船が胸いっぱいに膨らんでいて、いまにも弾けそうだった。すべての仕事が終わって、一目散に自宅への道を急いだ。

マンションに着いて真っ先に、宅配ロッカーのダイアルを回した。焦ってしまい、一回目は上手に開かなかった。カチャ・カチャ・カチャと丁寧に数字を合わせると、今度はキーッと音を立てて開いた。ピザや新築マンション、マッサージのチラシが押し込められてはいたが、ない。Amazonから届くべきはずの、お目当のものがないではないか。

うなだれながら玄関のドアを開き、たぶんきっと、パートナーにちょっとトゲトゲしい態度をとっていたことだろう。ふてくされながら、配達時間は過ぎているにもかかわらず、ドライバーに電話をかけた。迷惑なヤツである。反応なく鳴り響くコールにもめげず待つこと10コール以上、奇跡的にドライバーが出てその日のうちに、は無理だったが、翌朝一番で配達しますよと気持ちよく応対してくれた。

夜が明けてドライバーが告げた予定時間を過ぎてもお目当のブツは届かない。10分過ぎ15分過ぎたところで我慢の限界を超えて、iPhoneの履歴番号を押した。なんとしてでも、家を出る前に受け取りたかったからだ。ドライバーの彼によると、別の担当者に替わったらしく、新しい到着時間を告げられた。その時刻、出発タイムリミット10分前。道が混まないようにと、祈る気持ちで待っていると、ピンポーン。無事に届いた。破るかの勢いで開けたパッケージから顔を覗かせたのは、これだ。

『グレート・ギャッツビー』
スコット・フィッツジェラルド 村上春樹訳

アメリカ文学を代表する作品のひとつと言われ、Modern Libraryが発表した英語で書かれた20世紀最高の小説では2位にランクされている。ぼくはこれまで、「新潮社」より出版されている野崎孝さん翻訳の作品は読んだことがあったのだけれど、不覚にも村上春樹さん翻訳作品は不思議なことにこれまで完全にスルー。

ここから先の話を進めるにあたって、正直に告白しなければならないだろう。じつは、野崎孝さん翻訳の『グレート・ギャッツビー』は、読んだのは読んだのだが、あんまり印象に残っていなかった。名作であることは知っていたのだけれども。

しかし、村上春樹さん翻訳『グレート・ギャッツビー』を読めるというだけで、遠足を明日に控えた小学校低学年の子どもように心が踊った。表紙をめくり物語がスタートするに従って、ぼくはのめり込んだ。深夜の2時を超えてもベットの上で夢中になってページをめくった。

もちろんそれは、ぼくが村上春樹さんを好きで尊敬しているからだと言われればそれまでだ。それでもいいじゃないか。だけどそれだけではなく、村上春樹さんの『グレート・ギャッツビー』に対する向き合い方にも理由があるように感じるのだ。訳者あとがきを一部ご紹介したい。

『グレート・ギャッツビー』から多くのものごとを学んだし、多くの励ましを受けてきた。このどちらかというこぢんまりしたサイズの長篇小説は、小説家としての僕にとってのひとつの目標となり、定点となり、小説世界における座標軸のひとつの軸となった。僕は隅から隅まで丁寧に、何度も何度もこの作品を読み返し、多くの部分をほとんど暗記してしまった。

さらにこのタイミングで、糸井重里さんのほぼ毎日更新されるエッセイ『今日のダーリン』にて、こんなことが綴られていた。

一流との差がどれほど大きく見えたとしても、一流のやり方をなんとかまねしたほうがいい。実力がちがいすぎるのにまねをすると危ない? そうかもしれないですが、すくなくとも、へんなクセのある下手な人を手本にしちゃだめ。一流のまねができなくともよくよく凝視することです。

速読法が流行り、いかに効率的に情報を収集するかが重視されている時代。小説だって一回読んだらそれっきり、なんて人も少なくないはず。でもそれは、ちょっともったいない気もする。

その一冊を、とことん味わい尽くす。
そんな本があってもいいのではないだろうか?

きっと、人生を豊かなものにしてくれるに違いない。

村上春樹さんにとっての『グレート・ギャッツビー』は、あなたにとってはどの本になるだろうか?

この原稿を書いているちょうどいまも、『グレート・ギャッツビー』がぼくを誘惑してくる。「さぁ早く、こっちの世界に飛び込んでおいでよ」。この原稿を書き終えたら、スタン・ゲッツのサックスの音色を聞きながらページをなめるようにしてめくろう。

今回もコンテンツ会議の記事を読んでくださって、ありがとうございます。
音楽の世界も奥深くて、最近いろいろと堪能中です。スタン・ゲッツのやさしくて美しいサックスの音色がたまりません。

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追伸、、、
スタン・ゲッツのサックスの音色もどうぞ。


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