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その二文字をずっと待ってたんだよ

コロナ禍でどこにも出かけられなかったけど、元々私もモナリザも家の中でいくらでも過ごせるタイプの人間で特に問題はなかった。そもそもの前提として、私はただ好きな人を吸いに行ってるだけなので、別に何処で何したい、という希望もない。……強いて言うなら、一緒に行ってみたいところはあるけれど、それを強く望んでいるわけではなかったので。感染拡大前(まだCovid-19がなかったころ)は、映画館に行ったり食事に出かけたり、くらいはしていたのだけども。

アリスからモナリザに私の身柄が引き渡され、モナリザの車に乗り、モナリザのアパートへ。私は荷物があるので、アパート前で先に車から下ろされて部屋の鍵を手渡された。駐車場とアパートのドアまで距離はないから、全然、荷物持って歩けるのにそういうことされると好きになっちゃうからやめてほしい。(とっくの昔に好き)

この日は金曜日で、私はこの為に休みをとっていた。アリスも休みをとって会ってくれていたんだけど、何故かモナリザも休みをとっておいてくれていた。一人の時間が大事な人なので、日曜日は一人でゆっくり過ごしたかろうと、翌日の土曜日には帰ることにしていた。なので、私の気持ちはもうタイムアタック。早くお酒飲んで、私の前頭葉の働きが鈍ったところでアリス理論をぶつけなければ。つまり「付き合ったからと言って変わることなどないのだから付き合ってくれてもいいじゃない?」と、私は言わなきゃならない。15時くらいからワインを開けて、バトルシップを再生し(私はバトルシッパーなので)…その後シンゴジラを流したりし…いや好きな映画だけど、もうこうなると映画なんて見ていないわけだよね。それどころじゃないんですよ。かれこれ今まで3〜4回振られてきてはいるから、振られることに慣れてはいるし、今振られたからといってこの付き合い方が変わるわけではないのもわかる。けれど、振られたくはないので、もう、ほんとに、ワナワナしていた。そんな私の胸中など、モナリザは全然、考えてなかっただろうな。

さて。私はそこそこお酒を飲める体質でして。前頭葉の働きが鈍ったら言おう……とか思ってたら、もう夜なわけです。それもそこそこ、遅い時間。もう時間もないわけです。まだそこまで、酔ってない。酔って、もうパッパラパーにならないと言えないのに……。でもそんなこと、もう言ってられない時間になった。

「あのさ、最近割と、電話したりゲームしたりして、一緒に遊ぶ時間が結構あるでしょ。前にモナリザはさ、私が付き合ってほしいって言った時に『付き合ったからと言って何も変わらないんだから』って、断ったじゃない?」

と、ようやく切り出した。それに対してモナリザは相変わらず言葉少なく「うん」と相槌だけ打っていた。……と思う。普段からそんな感じで私ばっかり発言しているので、この期においてもそのまま続けさせてもらう。

「……何も変わらないんだったら、逆に、付き合ってくれても、よくないですか!!?」

言ったーーーーーー!!!!!!!!!!い、言った!言っちゃったよ!2年半ぶり!4回目ぐらいの交際申し込み!!!ハワワーーーッッッ!!……で、返事は?無言か?なんか、デジャヴだな。2年半前も申し込み後かなりの無言時間があったのを思い出した。もうこうなると怖くて顔なんて見られなくない?お辞儀しながら「付き合ってください!」と、相手がどんな顔をしているかなどは見えない中で手を差し出して、手を握り返されたらカップル成立!みたいな、テレビ番組があったような気がするな……あまりに沈黙が長いと流石に顔が気になる。

見てみたらとっても悩んでる顔してたので笑ってしまった。ねーいいでしょ!?おんなじだよ!なんもかわんないよ!……と駄々こねたような気もする。とにかく、返事を待っている時間が長いこと長いこと。聞きたいけど怖「はい」


んーーーーーー!!!???!!??!?

今「はい」って言いました?はいって言った?ほんとか。ほんとに!!??!!?

ある程度勝算がある状態で、大抵の人はこういう話をするんだろうけど、この時の私はどう思ってたのかな。いけるかなと、思ってた部分は勿論あるだろうけど、なにせこれまでの振られ実績がありすぎる。2年半前には「自分以外に気持ちを割く余裕がない」と言っていたこともある。そんなん、「お前のことは好きじゃない」という意味の常套句でしょう、そうやって私の好意をのらくら躱しているうちに、私の知らない誰かと付き合い始めたりして、私のアタックも封じられる日がいつかはくるのだろうと、そう思っていたのにな。

翌日起き抜けにスマホを確認したら、アリスと連絡をとった形跡があった。「よくわからんが付き合ってくれるらしい」と送った私に「!!??!?やったーー!!やったね須郷ーー!!!!!たとえ須郷が今記憶を吹っ飛ばしたとしても私が記憶したよーーーー!!!(あまりアテにならない)」と返事をくれていた。私はそもそも、自分では気付いていなかったけどめちゃめちゃ酔ってたようで、かつ起き抜けの頭だったこともあって、このやりとりを見るまで「そうなった」ことそのものを忘れていたのでとても驚いた。二度びっくりした。

それにしてもモナリザの様子が普段と変わりなさすぎるし、そもそも私の記憶が不確かすぎて、すべては私の妄想なのではないかと……。ほんとに「はい」って、言ったのかな…?と、翌日はずっとソワソワしてしまっていた。帰る時間ぎりぎりになって、ようやく「…昨日…『はい』って…言った…?了承…しました…よね…?」と絞りだし、それを肯定されたので安心して帰った。

その二文字、あなたからずっと聞きたかったんだよ。

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