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Japan Open ChainとWeb3の未来予想(妄想)図

ちょっと面白い記事がありました。Japan Open Chainという日本産のブロックチェーンがβ版をローンチしたそうです。

このニュースについては、主に既存のWeb3クラスタ系から批判的な声が上がっています。今日は、その理由を深ぼっていったらWeb3の未来を予想(妄想)できる気がしたという話です。

ちなみに、Web3やブロックチェーンの基礎用語をなんとなく把握している前提の内容なので、そうじゃない人が読んでもあんまり面白くありません。すいません。


Japan Open Chain(JOC)ってなに?

まず、JOCとはなんぞ?というところから話を始めます。JOCは、電通、みんなの銀行、ピクシブといった有名企業が参画しているブロックチェーンのプロジェクトで、ブロックチェーンの種類としてはパーミッション型に分類されます。Web3原理主義的な考え方からすると、このパーミッション型という時点で批判の的になります。なぜか。

これは端的に、パーミッション型というのがWeb3の理念に反するという考え方があるから。そもそもWeb3という単語自体が単なるバズワードで色々な概念を含んじゃってるのでWeb3の理念というものを定義するのが難しいのですが、ここでは「中央集権的にデータやサービスを管理する特定のプレイヤー(=サービサー)がいないこと」をWeb3の理念としておきます。

JOCは、先ほど述べたとおり、特定複数の企業がノードを管理しており、彼らが実質的なサービサーとして振る舞います。これでは結局のところ、Web2.0におけるサーバーがブロックチェーンになっただけで、JOCは分散化されていない中央集権的なサービスだと見ることができます。なので、Web3の理念とは真っ向から対立するんですね。


なぜJOCはパブリック(パーミッションレス)型でないのか

次の疑問は、なぜJOCがパブリック型で設計されていないのか、です。ブロックチェーンの特性を活かそうと思ったらパブリック型にすべきであるというのは割と単純な話で、ブロックチェーンの知識があれば誰でも理解できます。JOCのメンバーがこれに気づいていないはずがありません。なのに、あえてパーミッション型にしたのには明確な理由があるはずです。

それは上記取材記事を見てもらうと書いてあるのですが、簡単にまとめると

①(既存の)パブリック型では処理スピードが遅くコストが高い
②グローバルに展開すると様々な国の法規制にひっかかってまともに運営できない
③パブリック型ではビジネス利用に不都合

の3点です。


処理スピードやコストについては解決の目処が立っている

まず①処理スピードとコストの点については、ICOバブル以前から指摘されていた問題です。Ethereumプロジェクトにおいても当初からPoSへ移行することが予定されていました。現在までの間に当初のPoS移行計画(Serenity)に不具合があることがわかり、より抜本的なアップデートであるEthereum 2.0の開発がされているところです。

この問題は、コンピューターやインターネットの発展とパラレルです。昔のコンピューターは処理能力がめちゃくちゃ低くて簡単な3Dゲームすらできず、ネットも弱くて画像一枚表示するのに時間がかかっていました。これが、技術の発展により高性能なPCが手に収まる大きさになって、動画やビデオ通話まで楽しめるようになりました。

ブロックチェーンも同じです。ブロックチェーンの様々な問題はいくつもの技術開発によって克服され始めており、その解消はそこまで時間のかかる話ではありません。


各国の法規制

一方、②各国の法規制にひっかかってまともに運営できないというのは、ブロックチェーンネットワークにとってはもう少し本質的な問題です。これは③とも絡みます。

Web2.0の世界でグローバル展開しているサービスはいくらでもあり、FacebookやGoogleといった企業は各国の法規制を遵守しています。どこに司法権があるのか、準拠法はどうするのか等、考えなければならないところが結構あって大変ですが、Web3のサービスでも既存のインターネットサービスと共通する問題が多いのは事実です。Web3特有の問題は、

・そもそもCrypto法制自体が不明確で予測可能性がない
・誰でもノードになれてデータが世界中に分散する(データを管理する特定人・場所がなくなる)ため、データの所在が掴めず管理しきれない

といったところにあります。

記事でも触れられていますが、ブロックチェーンに乗っかるデータやトークンの取り扱いが各国で異なります。真面目に法を遵守しようという前提であれば、ノード参加者が不特定多数というのは、少なくとも現時点においては非常に都合が悪いです。パーミッション型にすれば、ノード参加者がどういう人・団体なのかある程度分かった状態で運営できるので、守備範囲が明確になり、サービスを安定的に運営することができるという寸法です。


Web3原理主義はそもそも法規制を気にしない?

とにかくブロックチェーンまわりの法規制はやっかいなので、既存の企業がブロックチェーンを利用したサービスを企図した場合、基本的にパーミッション型を選択して問題を矮小化しようとするインセンティブが働くことは自然です。(ちなみにプライベート型(1社しかノード・バリデーターがいない)はサーバーがブロックチェーンに置き換わっただけなので選択する意味がほぼありません。)

これは、言い換えると、パブリック型のブロックチェーンを使ってWeb3の理念に忠実であろうとすれば、そもそも法規制という国の縛り自体が不都合ということになります。Web3にとっては国家の枠組み自体が邪魔という事実にたどり着くのです。実際、Web3の不可欠な要素として「各国法規制への耐性」、つまり「ある国との関係でサービスが違法と評価されたとしても、サービス自体に影響が出ないこと」を挙げる例もあります。

なので、「最初から法規制を気にしないでサービスを開始する」ことを考えたくなるのですが、そんなことは完全に匿名でサービスを作ろうとする場合を除いて不可能です。こういう事情を無視できる(できた)プロジェクトは、(少なくとも事後的に観察すれば)サトシ・ナカモトという空想を作り上げて最初から特定の管理者を置かず、しかも発案者のトークンが一切換金されていないという奇跡的な状況を作り出したBitcoinだけです。そうではなく、プロジェクト発案者が特定の人物や団体であれば、その動きを国家が捕捉しようとするのは当たり前の話です。

また、無視できないのは、国家が特定の人物の動きを捕捉したい動機として大事なものの一つである税収です。税の徴収は国家運営のために必要不可欠な資源なので、利益を上げているところには課税したくなります。日本でクリプトをやると期末含み益課税という形で、現金がないのに巨額の課税がかかるというトンデモ税制の攻撃を受けるので、クリプトをパブリック型で真面目にやろうとするスタートアップはだいたい課税が適正に整備されているクリプト先進国に移り、最初からグローバルに対応できるブロックチェーンサービスを設計します。


国家 vs Web3原理主義

ちょっと話が脱線してしまいました。Web3の理念を推し進めることは、分散化、つまり中央集権的に管理する特定少数のスポットがない状態を目指すということなので、国家という巨大な中央集権装置を前提とした仕組みとはそもそも相容れないことが分かりました。じゃあWeb3の未来は既存の国家から独立した仮想上の空間にしかないのかというと、そういうわけでもありません。パーミッション型であれば国家も誰を管理すればいいか分かるし、サービサーもブロックチェーンの恩恵を限定的にではあれ享受できるのでwin-winになります。どういうことでしょうか。


パーミッション型は将来のWeb3を先取りしている?

ここからは僕個人の見解がかなりの部分を占めますが、既存のシステムとの衝突をできる限り回避しつつブロックチェーンによるイノベーションを起こそうとすると、パーミンション型というのは一つの暫定的な現実解になりえます。

例えば、Facebook(Meta)が以前発表したブロックチェーンプロジェクトのLibra(Diem)も、パーミッション型のブロックチェーンでした。当時はVISAやMastercardといった国際決済ブランドもバリデーターとして参加する予定となっており、Web2.0の巨人がWeb3に乗り込んでいく一大プロジェクトだったわけです。ただ、Libraは将来的に既存システムに依存しなくなる独自通貨を発行し、全世界的な独自経済圏を獲得するというシナリオだったので、既存の国家システムとは相性が最悪で、規制当局と折り合いがつかず頓挫してしまいました。

ただ、このプロジェクトは、Facebookをはじめとした特定多数の企業がコンソーシアムを結成してプロジェクトを進めていました。そのため、規制側との調整がうまくいけば、分散化したブロックチェーンのエコシステムがWeb2.0の延長線上にできあがっていたはずです。

これをWeb3と呼ぶのかどうかは、もはや宗教戦争です。「Decentralized」を非中央集権と訳してしまうと、本当に誰も管理者がいない、純粋にアメーバのようなP2Pネットワークを想像してしまいます。実際、サトシ・ナカモトの論文の書き出し「A purely peer-to-peer version of electronic cash would…」という一部分を抜き出せば、純粋なP2PネットワークこそがWeb3に必要不可欠な要素だということになりそうです。

しかし、そもそもサトシ・ナカモトの論文では、一度も「blockchain」だとか「decentralized」といった言葉は出てきません。論文の主題は、二重決済問題の解決方法にありました。Web3という言葉を最初に使ったのはEthereumの共同創設者であるGavin Woodです。つまり、Web3=purely peer-to-peerというわけではありません。

現在のWeb2.0で問題なのは、特定「少数/単一」に集権してしまうことです。特定でも「多数」であるなら、分散化の目的は充分に達成されうると言えます。ある程度のホットスポットができるのは許容しつつ、しかしそれぞれのスポットが互いに協力・牽制をしあってネットワークを維持していくという姿を想定することも可能なはずです。


JOCの選択は割と合理的

というわけで、JOCがパーミッション型を選択したのは、まあそうだよねと納得できるレベルの話です。そもそものスタートが「既存の企業がビジネス的にブロックチェーンを使ってサービス展開したい」なので、パブリック型を選択してリスクを取る意味がありません。

個人的には、最初はAirDropで大量に資金を集め、強力なガバナンスを効かせながらエコシステムを一気に創り、最終的には自身のガバナンストークンを全て売って純粋なDAOを作り上げる、というのがWeb3の理想形のひとつだとは思います。しかし、この場合でもある程度「派閥」のようなものができて分権状態になる可能性が高く、であれば最初から分権的なボードで始めることも充分に説得的です。

むしろ、最初から分権的であるという点を捉えれば、Web3の未来を先取りしているのがパーミッション型とすら言えるかもしれません。


JOCの本質的な問題

とはいえ、JOCが手放しで素晴らしいプロジェクトかというと、そうでもない。ポジショントーク的な要素が強くてあまり信用できないなぁと思ってしまいます。

勘の良い方なら分かると思うのですが、Web3のポイントは、「trust(信用)をいかに特定少数の人や団体から分散し他に移せるか」にあります。よく言われるトラストレス=信用が全くないというのはミスリーディングで、Web3原理主義的な発想でもブロックチェーンのコードに対する絶対的な信用があるということは自明です。信用がなくなったわけではなく、信用が分散したり移転したりしている、ということが重要になります。

JOCも、複数の団体が参加してJOCという一つのプロジェクトを立ち上げることで信用をそれらの団体に分散化する試みをしている一方、そもそもJOCというプロジェクト自体に対する信用がないというのが現状の問題なわけです。

それは例えば、EthereumのPoS移行計画を全く考慮していないとか、BitcoinやEthereumは誰が運用しているのかわからないという問題から51%攻撃の危険性を即座に導いている論理性の欠如だとか、「データの改ざんが日本の法律により保護される」というそれだけではイマイチ理解しえない記載にあります。ブロックチェーンに対する基本的な理解やWeb3全体に対する知見と価値観の共有ができていないと感じてしまうんですね。

パーミッション型が悪いわけでも、PoAが悪いわけでもない。JOCというプロジェクト自体に信用性を獲得させるプロセスが現状失敗しているということが真の問題なわけで、野球選手が急にルールもよく分かっていないサッカーをやろうとしている、みたいな違和感が拭えない。

せっかく素晴らしい企業が参画しているので、その辺の相場観とかもっと大事にやれば良いのにもったいないなと思います。今さら「実証実験」と言われても、もう世界的にはWeb3のインフラが整いつつあり、その上にどんなアプリケーションを載せられるかが主戦場になってきています。

たしかに、既存の日本企業がリスクを最小限にしてDAppsを載せられるガラパゴスなブロックチェーンがあるかと言われると難しいので、JOCがそこを取りに行くんだとすれば意味はあると思いますが、それにしても……


Web3の未来は非中央集権化ではなく分散化だと思う

JOCに対する意見が熱くなってしまいましたが、本題に戻ります。

完全にプライベートなブロックチェーンには意味がないとしても、特定多数による管理が効いたパーミッション型のブロックチェーンには一定意味があります。

パブリック型でスタートして完全なDAO化を目指すとしても、パーミッション型でスタートしてノードを増やしていくとしても、行き着く先はピュアなP2Pではなく適度に分権化/分散化したネットワークになっているはずだ、というのが、今のところの考え(妄想)です。

なので、しばらくは既存のWeb2.0的文脈の延長線上に登場するブロックチェーンサービスと、Web3の世界から生まれる純Web3的なブロックチェーンサービスが玉石混合で登場し、時間の流れとともに真に価値のあるサービスだけに淘汰されていくでしょう。

重要なのは、いかにWeb2.0とは違う信用を形成できるかという点で、それはプロジェクト自体がしっかりしており賛同者をいかに集められるか、つまりサービス自体の質にかかっています。


今日はここまで!

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