よゐこ「新米美容部員」

かつて、テレビバラエティにおける“シュール”という表現は、あまり良い意味を持たなかった。バラエティ番組でシュールという言葉を耳にするとき、大抵の場合、それは特定のお笑い芸人がスベッたとき。それも、イジることで笑いに変えようというのではなく、例えば「○○はシュールだから」と言い訳のようにして使われていた。面白くないのはシュールだから、僕たちのような庶民には理解できない笑いだから……と、いうように。

特にシュールと呼ばれていた印象の残っているのが、今や子どもに絶大な人気を誇るよゐこの二人。無人島サバイバル生活やゲーム実況のパイオニアとして高く評価されている彼らだが、かつては、愛嬌もなければ器用でもない、気の利いたことも言わないコンビだった。彼らに残されていたのは、若かりし頃に演じていた“シュール”なコントへの評価だけ……。だが、今にして思うに、彼らが呼ばれていたシュールという言葉の中には、期待の意味も含まれていたのではないか。

よゐこの最初期のコント『新米美容部員』の導入は、それだけの期待を持たせるに十分な破壊力を持っている。濱口の演じる新米美容部員・マサルが勤める美容室に、有野演じる怪しげな雰囲気の客がやってくる。マサルの「今日はどのようにいたしましょう?」という問いかけに対し、客は次の台詞を口にする。

「たくあんにしてー」

この後、客はたくあんをマサルに手渡し、頭に載せるように要求する。要するに、髪の毛をたくあんに置き換えているわけだが、そんなことはどうでもいい(いや良くはないのだが)。ここで注目すべきは、この第一声である。美容室を舞台に、客と思われる男が椅子に座って、開口一番に「たくあんにしてー」と言うのである。このインパクト。観客は、これから何が起こるのか、この時点ではまったく想像できない。分からない。その場には独特の緊張感が漂う。そして引き込まれる。次の一手を期待する。全ては、この第一声があってこそ。

現在のよゐこは、とてもシュールと呼ばれていたとは思えないほどに、親しみやすい存在のお笑い芸人となっている。老若男女を問わず、今の彼らには誰しもが気安く声をかけるだろう。そして彼らも軽やかにその声に応えるだろう。すっかり大衆ウケするコンビである。だが、彼らがバラエティ番組などで、さりげなく口にするガヤに注目してみてほしい。場の中心に身を置かず、徹底して客観した視点から、独自の切り口でもってツッコミを入れる。そこには“シュール”な笑いが、確かに今も息づいている。

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