ワイヤレスイヤホンの非対称性。

毎朝、片耳だけワイヤレスイヤホンを装着した状態で、ラジオを聴きながら出勤することを習慣にしているのだけれど、いつも使っている左耳側のイヤホンが、どうやら壊れてしまったらしい。ブルートゥースでスマホと連動させて、アプリを立ち上げて番組を聴こうとしても、音量が上がったり下がったりを繰り返してしまい、まともに聴くことが出来ないのである。このために、壊れたことを確認した当日の朝は、タイムフリーで聴いていた『オードリーのオールナイトニッポン』での若林のお別れのあいさつ「おやすミッフィーちゃん」が「お……ミ……ん……」としか聴き取れなくて、得も言われぬ不安に駆られてしまった。留守電に吹き込まれたダイイングメッセージっぽくないですか。

現在、私が使用しているワイヤレスイヤホンは、昨年九月にネット通販で購入したものである。ワイヤレスイヤホンの寿命がどれほどのものなのかは分からないけれど、電化製品として考えた場合、お亡くなりになるには少し早すぎるような気がする。確か、購入したときに保証書もセットで付いてきた記憶があるのだけれど、それも何処かへ消えてしまった。きちんと普段から管理・保存していないから、こんなことになってしまうのである。反省。

とはいえ、この状況はさほど、深く悩まなくてはならない事態であるとはいえない。というのも、壊れてしまったのは、左耳側のイヤホンだけだからだ。その相方である右耳側のイヤホンには、特にこれといった支障はなく、使用するうえで問題が見受けられない。なので、ひとまず、このまま右耳側だけを利用室し続けていけば良いのではないか、という話になるわけだが、そうなると、ひとつ気掛かりなことがある。今後、もう二度と使うことが出来なくなってしまったかもしれない、左耳側のイヤホンをどのように処理すればいいのだろうか。

まず思い浮かんだのは、充電器に常駐させる方法である。ワイヤレスイヤホンの充電器は、両耳のイヤホンを同時に充電することが出来るようになっている。右耳側のイヤホンと左耳側のイヤホン、それぞれのイヤホンを挿入するための穴があり、そこにはめ込むと充電を開始する。そこに使えなくなった左耳側のイヤホンを差し込んだままにする形で、ひとまず乗り切ってしまおうという考えである。ただ、これはあまり、良い対策とはいえない。というのも、ワイヤレスイヤホンの充電器もまた、USBケーブルを通じ、パソコンなどの媒体から電気を得ることでバッテリーを充電しているからだ。つまり、その電力には限界がある。にも関わらず、左耳側のイヤホンを差し込んだままにしていると、その限りあるワイヤレスイヤホンの充電器内のバッテリーから、少しずつ電力が消費されてしまう。もっとも、それは大した量ではない。右耳側のイヤホンを充電する上で支障をきたすこともないだろう。ただ、使われないもののために、無惨にも電力が失われていくというのは、なんだかどうも心持ちが良くない。

それならば、左耳側のイヤホンだけを自宅に放置すればいいではないか、という考えに至るのはごく当然の話である。しかし、これはこれで、些か具合が良くない。ワイヤレスイヤホンは耳の穴にはめ込んで使用することを目的としているため、その形状はとても小さい。小学生が文房具を入れてランドセルに突っ込む筆箱にすっぽりと収まってしまうようなサイズである。こんなにも小さいものを単体で自宅に置いておけば、いずれ紛失してしまうだろうことは容易に想像できる。無論、使えなくなってしまったものであるから、紛失してしまったところで痛くも痒くもない。ただ、左耳側のイヤホンが失われた後、右耳側のイヤホンを充電器に挿入する際に、本来であれば左耳側のイヤホンが収まるべき空洞がふと目に留まって、もう何も入ることがないという現実を突きつけられたたとき、私はその空虚感に耐えられる自信がない。この寂しさをなんと言葉にしたものだろうか。

というわけで、死なばもろともという言葉の通り、左耳側のイヤホンと右耳側のイヤホンをともに葬り去り、新しいワイヤレスイヤホンの購入に乗り出そうと思い立ったのだが、今しがた、試しに左耳側のイヤホンを何度かブッ叩いた後にブルートゥースで接続、再生したところ、特に問題無く聴けるようになってしまったので、もうしばらく頑張ってもらうことにした。昭和の家電か、貴様は。

追記。結局、左耳側のイヤホンは使えなくなってしまい、右耳側のイヤホンだけをずっと使い続けていたのだけれど、先日、右耳側のイヤホンのバッテリーが壊れてしまったらしく、充電いっぱいにしていたにもかかわらず、一時間程度で切れてしまうようになってしまった。買い換え決定。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?