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スーパーノヴァ・ショック

今から3年前、コロナ禍の無観客のリングで、清宮海斗は叫んだ。

「レインメーカーを体感したい!」

その2年後の、2022年1月8日、横浜アリーナ。
新日本プロレス vs プロレスリング・ノアの全面対抗戦のメインイベント。
棚橋弘至、オカダ・カズチカ vs 清宮海斗、武藤敬司のカードが実現した。

若い清宮海斗にのしかかる、期待と重圧。
清宮が体感したレインメーカーは、あまりにも大きかった。
”スーパーノヴァ” のプロレスが、IWGP世界ヘビー級王者に通じない。
圧倒的な力の差を見せつけられ、オカダの前に倒れる清宮。
まったく歯が立たない、崩せない。
惨敗した清宮は、号泣した。

「泣いてんじゃねえよ!とっとと帰れ!」

オカダの罵声が、横浜アリーナに響き渡る。

「清宮、泣くな!」

タッグパートナーの武藤敬司に肩を担がれ、引き下がる清宮。
こんな屈辱にまみれた清宮の姿を、誰が想像しただろうか?

そして今年、2023年1月21日、同じ横浜アリーナ。
再びタッグマッチで、オカダと清宮は対峙する。
清宮は、GHCヘビー級チャンピオンとして、オカダの前に立った。

「もう、悔し涙は流さない!」

“お前が来い!” と言わんばかりに、オカダに手招きをする清宮。
だが、オカダは目を合わせようとしない。
試合は、真壁刀義と稲村愛輝のマッチアップから始まった。

次に、オカダがリングイン。
コーナーの清宮に、敢えて背中を向ける態勢で、稲村の首を攻める。
オカダの背中に蹴りを入れ、カットに入る清宮。
微動だにしないオカダ。
ここまで無視されては、さすがの清宮も我慢の限界。
オカダの顔面に、清宮の左足が入った。
かつて、前田日明が、長州力の背後から顔面を蹴った試合が、頭をよぎる。

オカダの額に、血がにじむ。
次の瞬間、コーナーの清宮に向かって突進した。
リングの外で、馬乗りで、清宮に乱打するオカダ。

「これは、事件です!」

実況の村田晴朗アナウンサーが絶叫する。
清宮も一歩も引かない。
ドロップキックからジャーマンスープレックスで、オカダを圧倒する。

「こんな清宮は見たことない!」

危険を察知して、稲村が清宮を止めに入る。
また、“暴走キングコング” の真壁が、

「落ち着け!」

身体を抱きかかえるように、オカダを必死に止めている。

「こんなオカダも見たことない!」

二人の怒りは全く収る様子がない。
結果は、ノーコンテスト、無効試合。

「お前!次は、シングルで決着つけろ!」

その、清宮の言葉に、オカダは再び、怒りを爆発させる。

どんな状況でも、常に冷静なオカダがブチ切れた。
顔面を蹴られたからか?
格下と見ていた清宮の言動が許せなかったのか?
ただ言えることは、清宮の魂の奥に眠っていた闘争心が、まだ見ぬオカダの本性を、引き出したということだ。
これを受けて、2月21日の東京ドームでの、オカダ・カズチカ vs清宮海斗の対戦を正式発表。しかし、

「行く必要はない。顔面一発蹴ったぐらいで、シングルで対戦できるほど、安くはない」

オカダが、まさかのボイコット宣言。
行く末が注目され、実現しないのではとも、不安視された。

2月12日、エディオンアリーナ大阪。
メインベントで、清宮海斗がジャック・モリスを退け、GHCヘビー級王座を防衛した。
ベルト掲げる清宮の背後から、オカダがレインメーカーで襲撃した。

2月12日といえば、2012年の同じ大阪府立体育会館(現・エディオンアリーナ大阪)。
オカダ・カズチカが棚橋弘至を破り、初めての挑戦で、IWGPヘビー級チャンピオンになり、レインメーカー・ショックを起こした。
その同じ日、同じ場所で、レインメーカー・ショックの再現。
場内に渦巻くブーイングの中、大の字になった清宮を見下ろしたオカダは、

「ビビるわけねだろ。東京ドーム、やってやるよ!」

これで、正真正銘、オカダ・カズチカ vs 清宮海斗が決定した。

今の清宮海斗の姿は、在りし日の三沢光晴と重なる。
遡ること、1990年5月26日、全日本プロレス “スーパーパワー・シリーズ” の後楽園ホール大会。
三沢光晴、田上明、川田利明組vsジャンボ鶴田、ザ・グレート・カブキ、渕正信。
三沢が、コーナーにいる鶴田にエルボーを放ち、失神へと追い込んだ。
数分後、意識が戻った鶴田が、三沢に襲いかかる。
三沢は、シリーズ開幕戦で、虎の仮面を脱いで、タイガーマスクと決別。
打倒・ジャンボ鶴田を掲げ、覚悟を決める。
そして、シリーズ最終戦、日本武道館のメインベント。
鶴田からシングルマッチで、勝利を奪った。
誰もが “鶴田が勝つ” と思っていた。
でも、“きっと三沢がやってくれる” と信じたファンもいたはず。

1月21日の “横浜事件”から、2月21日の “決戦” へ。
全てのスチュエーションが、重なって仕方がない。
さらに、鶴田に挑んだ時の、三沢光晴は27歳。
オカダに挑む、今の清宮海斗が26歳。
何か、運命的なものを感じざるをえない。

2月21日は、武藤敬司引退の日。
日本プロレス史上最大の夜になる日。
その日に、日本プロレス界の命運をかけた “世紀の一戦“ が実現する。
アントニオ猪木の "闘魂" を継ぐオカダ・カズチカ。
三沢光晴の "自由と信念” の旗を託された清宮海斗。
この二人の戦いは、団体を越えた世代闘争。
あの、レインメーカー・ショックから11年。
今再び、プロレス新時代の扉は開くのか?
若き崇高なる王者・清宮海斗がスーパーノヴァ・ショックを起こす!
そんな予感がしてならない。
今から決戦のゴングが待ち遠しくて、ワクワクが止まらない。


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