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リミックス・ワークにおけるコーネリアスの変遷

大晦日の「SUPER DOMMUNE YEAR END DISCUSSION」をご視聴いただき、ありがとうございました。

私は第4章のコーネリアスの音楽について語るパートに「続コーネリアスのすべて」のメンバーとして出演しましたが、その前からの収録の章の放送が大幅に押していたのと、直後のカウントダウンとの兼ね合いもあってトーク部分が短くなり、生放送の難しいタイミングにまったく慣れていないせいで用意していた曲やコーネリアスの魅力についてもほとんど喋れずに終わってしまい、番組側が与えてくれた大事な機会を生かしきれず、自分の不甲斐なさを思いっきり痛感しています。

でも終わってしまったことについてはしかたがない。せっかくなので当日話したかった内容を少し拡大して文章に残しておきます。

リミックス・ワークの素晴らしさとその流れ

自身の作品もさることながら、コーネリアスはリミックスでも才気あふれる数々の仕事を残しています。年代を追っていくつか紹介しながら、前後の活動への影響も見ていきたいと思います。

今夜はブギーバック(smooth rap)Remixed  by 小山田圭吾 / スチャダラパー(1995)


スチャダラパーのリミックス集『サイクル・ヒッツ』の1曲目に収録された最初のリミックス仕事。曲の始まりと終わりにコーネリアスだとわかる音を少し足しただけでトラックはまったくいじらずに小沢健二の歌の部分を小山田圭吾が歌うという、愛とユーモアといたずら心とサービス精神に満ち溢れた問題作。『69/96』期のパロディ精神が如実に現れている。


Windy Hill(Cornelius Remix)/The Pastels(1998)


それまで日本国内のアーティストのみだったリミックス仕事が1997年発売の『Fantasma』以降、海外のアーティストからも依頼がくるようになった頃の作品。「Star Fruits Green」にも似た、穏やかで眩しい音色が散りばめられたファンタズマサウンド。アレンジの質感の心地よさはもちろん、かつてパステルズ・バッヂをつけていた小山田圭吾がパステルズと相互リミックスを行ったこと自体に当時は何より歓喜した。

【リミックス集『CM』に収録】


Tender(Cornelius Remix)/ Blur(1999)


コーネリアスが海外で認められたことを証明する代表的なリミックス。デーモン・アルバーンの歌声を綺麗に活かしたうえで、途中からドラムンベースが土足でドカドカと入ってくるような、いわゆるサーフライダー手法をうまく使いこなした成功例。

【『CM2』に収録】


Mixed Bizness(Cornelius Remix)/ Beck(2000)


1999年頃までのリミックス作品では『Fantasma』に寄っていた音が、2000年を迎えたあたりから次第に『Point』へと変化していく様子がうかがえるリミックス。自身の作品で使用している印象的なフレーズを随所に散りばめ、コーネリアス印をさりげなく押すスタイルを少しずつ定着させていった時期の貴重な記録。

【『CM2』に収録】


EKOT(Cornelius Remix)/Sketh Show(2003)


スケッチ・ショウの名曲もコーネリアスが少し手を加えると、エレクトロニカやフォークトロニカの枠にとどまらないナチュラルな響きに変わってしまう。静かな驚きを与えてくれるのが2000年代のコーネリアスの特徴。このサウンドの延長線上に坂本龍一の「War&Peace」のリミックスや、2006年発売の「Breezin'」のカップリングで披露したYMOの「Cue」のカバーがあり、直後の『Sensuous』へとシームレスに繋げていく。

【『CM3』に収録】

Make Some Noise (Cornelius Remix)/Beastie Boys(2011)


YMOやオノヨーコなど大御所のサポートを努め、ギタリストとして頭角を現していた頃に手掛けたリミックス。一聴するとものすごくファンキーなのにひとつひとつの音が絶妙な配置で鳴っていて、聴けば聴くほど面白さがわかるスタイリッシュなコーネリアス流ミクスチャーロック。

【『CM4』に収録】

ミュージック(Cornelius Remix)/サカナクション(2014)


2010年代の邦楽ロックの四つ打ちダンスの象徴的な曲を歌本来の持つ性質はまったく損なわずに、まるでコーネリアスfeat.サカナクションのサウンドのごとく反転させながら丁寧に仕立てた見事なリミックス。歌だけを入れ替えただけのアイデア勝負のリミックスや、ロックをダンスミュージックへ豹変させることが基本だった90年代のリミックスの手法を振り返って比べてみると、ここには優しさが含まれていることがはっきりと伝わってくる。それまで同世代や上の世代を中心に絶大な支持を得てきたコーネリアスが、2011年から担当した「デザインあ」の音楽やこのリミックスを通じて、子供たちや若い世代にも充分アプローチできる素晴らしい音楽家にいつのまにか進化を遂げていたことに気づかされる重要な作品。そして『攻殻機動隊』でのsalyu × salyuや青葉市子や坂本真綾とのコラボで磨きあげた言葉や歌声のよさを楽曲でうまく引き出す力は、2017年発売の『Mellow Waves』でも存分に発揮されている。

【『Constellations Of Music』に収録。】



※Beckの「Mixed Bizness(Cornelius Remix)」はサブスクに無し。


今回あらためてコーネリアスの初期からの28年間の作品を時系列に沿って聴き返しながら感じたのは、長年の音楽活動のなかで点のように置かれたオリジナルアルバムと、合間を縫うようにこなして続けてきた膨大な量の作品があり、それらの音を順に追っていくだけで、他者との関わりを通じて培ってきた感覚を音に変換させて表現しながらゆっくりと変化を重ね、自己のスタイルを確立していった小山田圭吾の音楽家としての歴史が目に見えてわかるということ。シンプルなサウンドにも人格のような性質があり、私たちリスナーが知ることができる範囲での小山田圭吾そのものがコーネリアスのすべての音楽に反映されていて、親しみやすい優れた才能があるからこそ世界中の様々な年代の人々に支持され、誰もが惹かれているのだと思います。

昨年の7月に起きたオリンピック音楽担当にまつわる騒動で何よりも辛かったのは、コーネリアスの仕事が世の中から次々と消えていき、ミュージシャンになる以前の彼の人物像や憶測ばかりが話題の中心になり、彼の音楽の魅力についてまったく語られる機会がなくなってしまったことです。しかし世の中の酷いバッシングに心を傷めたあとでもコーネリアスから心の距離を取らずにいられたのは、当時は目を背けてしまった該当記事について様々な角度で検証し、手を尽くしてくださった人たちと、小山田圭吾本人が発した真摯な声明文のおかげで、そこが25年前とは明らかに違うところです。
今回の件の影響がまだまだ続き、この先しばらく新しい作品が世に出されなかったとしても、コーネリアスが今まで残してきた功績は決して変わるはずはないと信じています。それを証明し、価値を残していくために、これからも音楽の話をし続けること。それはコーネリアスの復帰を願うリスナーができる唯一の方法ではないかと私は思っています。

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