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ふくだりょうこ『お高いあのコはなんにも知らない』最終話

“お高いあのコ”のこれまでのお話はこちら▽
『きょうもお高いキミがスキ~さえないハジメくんのヨクボー』
『きょうもお高いキミがスキ~マジメなカズミくんはソンをする』
『きょうもお高いアナタとわたし~あのコになりたいウツキちゃん』
『お高いあのコのホントのコト~ジュンはヒミツを暴きたい』

*****

「すみませんねぇ、こんな朝早くから。こちら、唐橋一(カラハシハジメ)さんのお宅でよろしいですか?」

 ある冬の晴れた朝。うっかり寝間着のTシャツと短パンのまま玄関を開けて、体を震わせた。寒い。
おまけに目の前にいるのはケーサツ。
気分は最悪だ。

「そうですけど……なんなんすか?」
「ちょっとお伺いしたいことがありまして」

 あれだ、テレビで観る聞き込みってやつだ。本当に2人で行動してんだな。と、思ったところでテンションは上がりはしない。憂鬱だ。ああ憂鬱だ。

「なんでもどーぞ。俺、もう少ししたらガッコ行かなきゃなんで」
「ああ、大学生だったね。すまない。……こちらの男性のことは知っているかな」

 1枚の写真が目の前に突きだされた。

「知らないっスね」
「そうか。では、こちらは?」

 もう1枚の写真に写っていたのは女性だった。

「……知ってます」

 少しだけ緊張してしまった。俺の答えに、2人の刑事は顔を見合わせた。

「どういうご関係で?」
「友達……? いま、俺が口説いてる最中。でも、全然なびいてくれなくて、心折れかけてるところっす。サツキちゃんがどうかしたんですか?」
「ちょっとある事件の参考人としてね」
「どんな事件っすか」
「それは、言えません」
「あ~捜査機密をバラしちゃいけない、みたいな?」
「まあ、そういうことです。彼女とはどこで知り合いましたか?」
「SNSで声かけて」
「@kaguya?」
「そうそう。さすがケーサツ! なんか、『全男性の理想の女性』みたいに言われてて。そんなの聞いたら、気になるじゃないっすか。それでメッセージ送ったら会ってくれたんす」
「実際に理想の女性でしたか?」
「マジでヤバイっすね。かわいくて、ちょっとワガママで、あとエロい! ……ってもホッペにチューぐらいしかしてもらったことないんすけど」
「彼女から何か要求されたことは?」
「よくパシられましたね。なぞなぞみたいなの出されて、『この食材、買ってきて』つって。でも、俺、バカだから彼女に頼まれたもの、一度も買って帰れたことがなかったなあ」
「なるほど。最近、彼女には会われましたか?」
「会ってないんすよ~! もし会えたら、俺が寂しがってたって言っといてください!」
「ははは、分かりました」

 ケーサツの人が渇いた笑いを浮かべる。それではこれで、と言って立ち去るケーサツの後ろ姿を見送ってから、ドアを閉めた。それからしっかりと鍵をかける。チェーンも。

「これで、いいんだよな?」

 ベッドの影にうずくまっている男に向かって声をかける。

「ああ、恩に着る」

 ショージ、と名乗った男は薄く笑みを浮かべた。


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