楽曲制作において“枠”を設定することについて

どうも。


いつもは作った曲の話をしていますが、今回は最近楽曲制作について考えていることを書き起こしてみます。

“枠”とは

タイトルにある通り“枠”についてです。

まずはなぜ“枠”という言葉を用いたのかというところから。臨床心理面接において“枠”という概念があります。ここで言う枠とは、大まかに言うとカウンセリングの中で設定する決まりごとや制限のことです。それは面接時間であったり、面接する場所であったり、守秘義務であったり。枠はカウンセリングをカウンセリングたらしめるものとされます。

では楽曲制作において何を以て枠とするのかという話ですが、かなり広義にわたると思います。

まずはそもそも自分でジャンルをある程度規定して作ることが枠となり得ます。

他には演奏・歌唱手法や使用楽器、歌詞の言語など。リスナーに楽曲を聴いてもらえるように曲の長さを調節することも枠かもしれません。

例えば提婆達多では、広義のメタル・ハードコアというジャンルに加え、ドラム、ベース、ギター×2、ボーカルで演奏可能な音楽の範疇を越えない、歌唱法を(基本的に)スクリームにする、ドロップAチューニング、(基本的に)ブラストビートは多用しない等の枠があります。

こういったあらゆる要素を選び決定することそのものが枠を与えていることになると思います。

そういう意味では、楽曲制作者は基本的に多かれ少なかれ制作する楽曲に枠を設けていると思います。(企業に依頼されて楽曲制作されるプロなどは特に多そうですね)

なぜ“枠”を設けるのか

結論としては、制作者の表現を保証するためだと考えます。

臨床心理面接において、枠を設定することによって、カウンセリングを行う場は、現実とは離れたものとして存在することが出来ます。それによってクライエントはカウンセリングの場で安心して自分を表現出来るようになります。

音楽は自由なので、究極何をしてもいいということになっています。西洋音楽のルールから逸脱しても良いし、ビートを感じさせる要素を全く排除しても良いし(アンビエントとか)、もはや何が鳴ってるんだか一聴してはわからない轟音を鳴らしてもいいのです。

しかし、何をしてもいいということは、何をしなくてもいいということにもなります。

その自由を究めすぎるとジョン・ケージの有名な4'33''みたいなことになるのだと思います。

なので、そもそも「音を一定の時間出す」という楽曲制作の大前提が枠となっていると言えます。

こうしていくつかの枠を加えていかなければ人は表現が出来ないのです。

日常を送るだけでは出し得ない音を鳴らし、自分の内的世界を表現することに没入していくことを可能にするのが楽曲制作における枠だと考えます。

誤解のないように書くと、ここで鳴らす音自体は環境音等の日常の中にあるものでも良いでしょう。自分が選び鳴らしており、ある意味では自分に内在する記憶を再生することにも通ずると思われるので。

わかりやすい例を上げると、提婆達多はメタル・ハードコアというジャンルを規定することによって、安心して演奏や歌詞の中に普段は表に出さないような怒りを表現してみたり、自罰的、内省的な陰鬱な感情を表現出来たりするのです。

楽曲制作における“枠”はポジティブでもネガティブでもある

ここまで楽曲制作における枠のポジティブな部分をたくさん書いてきましたが、ネガティブな側面として、単純に楽曲の新規性がどんどん失われていきます。

しかしこれは既存の枠をそのまま取り入れた場合の話なので、自分だけの新たな枠を見つけ、設定していくことが新たなジャンルの発展に繋がると考えられます。また、既存の枠を組み合わせることが新しい枠となることもあると思います。

そういう意味では、新たなジャンルが誕生した日というのは、表現者が安心できる枠を越え、不安を伴った表現で人々を魅了し、新たな枠を作ることに成功した日と言えるでしょう。



以上です。文献とか何も記載しておりませんし、調べてすらいないのですが、僕の中ではいくつかのことが地続きになった気がしています。またこんな感じのことをつらつらと書くかもしれません。

追記:臨床心理面接における枠は基本的に統一されており(チーム内守秘義務とかがあればちょっと変わる)実際にそんなにコロコロ変わったりすることはないので、カウンセリングと楽曲制作2つの場面で同じ“枠”という言葉を使うのは微妙に噛み合わない感じもちょっと感じますがご容赦ください…。

さらに追記:箱庭療法や風景構成法のようなクライエントの表現によって治療効果を得ようとする療法との共通性があるんじゃないかなとも思います。いつか作曲によって治療効果を得られるセラピーができるかもしれない…。なんなら作った曲からその人の状態の解釈が出来たりも…。

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