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ばってん少女隊「虹ノ湊」 最高だから聴いてほしい

 ばってん少女隊、最新シングル「虹ノ湊」が最高です。

 この記事では「虹ノ湊」の歌詞について、あーだこーだ解釈しつつ、どうもこの曲は、ばってん少女隊が過去にリリースした「夏曲」のキーワードをちりばめて作ってあるように見えるので、そのあたり各曲の世界観をつなげて聴いてみると面白いよね、って話をします。

 「他人の解釈とか必要ないっす」という方は、ここでばいばいばーい。
 でも、人の見方を知ると、作品の楽しみ方が広がったりするので、気が向いたときにでも、読んでみてね。

ヘッダー画像について、よしおさん (※) から貸していただきました。どうもありがとうございました!
 (※) ◇今月の隊員さん◇ 第80回:よしお くまさん🍊さん


 最初に結論だけ書いておきます。
 この曲のテーマというか、主なメッセージは以下の通りだと考えます。

 どれだけ「情けない自分」に出会っても、 「人を愛すること」「誰かを好きになること」をあきらめないで生きていく。 


■曲の全体像〜主人公はどんなキャラクターか〜

「虹ノ湊」は「国道3号線を自転車デートするカップル」の情景が主人公の目線で描かれるところから始まり、サビで「夏ってイイよね!」みたいなことが歌われます。

 まず、主人公はどんな人だと思いますか?

海の音を置き去りにして 始まった僕らの恋は

 一人称が「僕ら」なので、さしあたり「男の子」と思われます。
 では、年齢は何歳くらいでしょうか。
 自転車でデートしてるから、中学生か高校生くらいでしょうか?

 私は、もう少し上の「20代前半くらい」だと思ってます。
 楽曲を作ったRin音さん:23歳、ばってん少女隊の大人組:20歳〜22歳あたりの年齢です。

 というのも、「虹ノ湊」の歌詞をよく見ると、
 冒頭の歌詞は概ね「過去形」になっていて、どこか俯瞰で、大局的に物事を見つめる、大人びた語り口になっています。
 それが、曲が進むと、歌詞はだんだんと「現在形」になり、「今の主人公の気持ち」が見えてくる構造になっています。

 すなわち、もう20歳を超え、大人になった主人公が「自転車デートとかしていた10代のころ」を回想しながら、現在の自分を見つめ直す、そんな曲なのだと思います。

 主人公は、20代前半の男の子。ただ、どんな人物かというと。。。後に話すように、大人となったと言っても、まだ経験値が浅く、不器用で失敗しがちな若者です。


■自転車のペダルを漕いで駆け出した恋

 歌詞を順に追って見ていきます。

海の音を置き去りにして 始まった僕らの恋は
都会より澄んだ空気 風景といえば聞こえはいいな
何もないが 愛はあった だけど皆んな無い物ねだった

 都会には「デートスポット」と呼ばれる場所がたくさんあって、そういう場所へ行くことを「デート」とイメージするんだけど、「始まった僕らの恋」には、そういうものがない。
 「何もないが 愛はあった」という歌詞で、自然豊かな宗像出身の愛ちゃん (希山愛) を想起させつつ、そもそも「デート」というものは。。。

自転車のペダルを漕いで 駆け出した行先なんて どこでも良くて

 そもそも「デート」とは、"何を、どのように楽しむか" が大切で、「行先」は「デートスポット」でなくても良い。

誰がいてってのが重要だった
つまり皆んな浮かされてるんだ 赤く火照った提灯のような

 自然豊かなまちで育った僕らにも「夏」という恋の季節がやってきて、そういう時期になると、誰がいて ( = "恋人の有無" ) ってのが重要になる。
 だけど、思春期のそういう "空気感" は「つまり皆んな浮かされてるんだ」と、俯瞰で過去を分析する主人公の「大人な視点」が垣間見えてきます。

冷静を保ってたって 夏は異常 砂浜に公園
すれ違う人たちが 愛を持ち合わせる
妖怪幽霊も協力 肝試しよりも運試し同然
夢心地に釣った風船が パンと弾けてく

 そんな冷静な主人公も「夏は異常」なので、「夢心地に釣った風船が パンと弾けてく」ように恋をします。

feeling summer night まだ終われない 追いかけてく愛 なぜ届かない
湿る手 乾く汗 潤む目に夢の跡 このままでいいと思っても

 サビは自転車デートしてる情景と、主人公の心情です。
 ハンドルを握り汗ばんで「湿る手」、その一方で、走行中、体全体で風を受けて額から「乾く汗」、「潤む目に夢の跡」は、この自転車デートが、実はすでに過去の出来事である匂わせ。
 「まだ終われない」「追いかけてく愛 なぜ届かない」「このままでいいと思っても」など、気になるワードが出てきますが、このへんはちょっと後で書くのでいったん保留して、次の章へ。


■「YOIMIYA」とのつながり〜花火デート〜

 この曲は、ばってん少女隊が過去にリリースした「夏曲」と世界観をつなげると、より楽しめる構成になってると思います。
   (楽曲制作の際に、Rin音さんが過去の作品を丁寧に調べ、各曲の「キーワード」を組み込んで「虹ノ湊」を作成された、と私は勝手に思っています)。

 「虹ノ湊」2番の歌詞は「YOIMIYA」の世界観とつながっていて、「花火」というキーワードが両方の曲に登場します。

 
 「YOIMIYA」の主人公は、女の子です (「お気に入りの浴衣 引っ張り出し」や「浴衣の着付けも 友達同士でチェックして」の歌詞から推測) 。
 もっと言えば、きいなちゃん (春乃きいな) みたいな子です。
 きいなちゃんは、アイドル活動を行うため、高校へ進学するころから地元:長崎を離れて、福岡という都会で一人暮らしをしていました (「春乃きいな 20歳のライブ。」でのMC: ダイジェスト動画の31:57〜 より) 。
 そんな「地元を離れた女の子」が夏休みに久しぶりに帰ってきて、宵宮 (夏祭りの前夜祭) で、幼馴染と偶然の再会をする (「不意のタイミング  出くわした幼馴染」の歌詞のところ) 。
 2人はもうずいぶん会ってないから「昔の約束 もう覚えてないと思うけど」もともと好き同士で、もしかしたら、この再会がきっかけで「花火デート」とか、しちゃうかも。。。みたいな「高まる思い」を感じながら、「YOIMIYA」は終わります。

 で、
 「虹ノ湊」では、2番の歌詞で「花火デート」の描写があります。

駅前の露店 好物の甘い甘い香りがする飴を頬張り
ただいま打ち上がりそうな花火に 気づかないふりをするんだ
意味はないと分かっているのに また駆け引き 懲りてないな

 つまり、1番と2番では「時点」が違います。
 1番は「自転車デートしてた回想 (過去) 」で、2番は、久しぶりに再会した女の子と男の子が「花火デート」している「現在」です。

 が、しかし。。。
 肝心の花火が打ち上がる場面で、男の子は「駅前の露店」で買った「甘い甘い香りのする飴」に夢中になってるふりをして、打ち上がる花火に、つまり女の子の「高まる思い」に、気づかないふりをする。
 そんな「ヘタクソな恋の駆け引き」は、実るはずの恋をダメにすることを、経験から分かってるはずなのに「懲りてないな」。


■「無敵のビーナス」とのつながり〜甘いだけじゃ もう足りないの〜

 そして、「無敵のビーナス」にもつながります。
 世界観をつなげるキーワードは「私ひとり泳ぐ 夏の向こう」「甘いだけじゃ もう足りないの」。


 「無敵のビーナス」は、ざっくり言うと「ちょっとずつ 大人へのファスナーが下りていく」青春の成長過程を歌った、サマーアンセムです。
 ただ、女の子の方が、男の子より「成長のスピード」が早い。
 だから、曲の後半で、女の子は男の子の前から去っていきます。
 「私ひとり泳ぐ 夏の向こう」

 一度は離れ離れになった2人ですが、夏祭りで再開し「花火デート」へ、というのは、さっき「YOIMIYA」の文脈で書きました。

 かつて「3号線の上を自転車で駆ける、そんなデートしたよなぁ」と、回想しつつ。。。今年の夏も、駅前の露天で甘い飴を頬張りながらデートをしていて、男の子は、今も青春の真ん中にいます。

 で、きっと女の子は都会で、さらに大人に成長しています。男の子、「甘い飴」を頬張ってる場合じゃないよ。
 「甘いだけじゃ もう足りないの」


人生がもし2回あるのなら 今のままでもいいだけど
そうじゃないどうしたい 悩ます頭を抱えて

 露店で飴を買う以外にも、デートの道中では色んな選択肢があるので「悩ます頭を抱えて」試行錯誤する男の子の姿が想像できます。

 そして、この歌詞からは、その日の「花火デート」だけでなく、もっと広い意味で、地元を離れる選択とそうじゃない選択があるように、これからどんな未来を選択するか、常に「悩ます頭を抱えて」生きていく、という問題が提示されています。


■愛してた夏 続いてくはず

青春の1ページ的なもん 2度とないこの日さえ溶けてく
3号線の上風を切って 熱い視線交わし交わされてく

 「3号線」が登場する、ここの歌詞については、数字の言葉遊びが仕掛けられていることを、隊員さんが見事に発見されているので、下のツイートを参照ください。


宿題もやらなくていいや ステップ踏むように愛を繋げ出す
チェーンが外れて押し歩く2人 距離はこれ以上縮まりやしない

 「自転車デート」は、結局チェーンが外れてしまい、帰る時間が遅れちゃったからか「宿題もやらなくていいや」ってなります。
 そんなことより、もっと大事なことがある。
 男の子は歩調をあわせて (=ステップ踏むように) 、2人の時間を大切にしようとする (=愛を繋げ出す)  んだけど、どうやら、うまいこといかなかったようです (チェーンが外れた、とは2人の時間を繋げられなかった、ことの比喩) 。
 「距離はこれ以上縮まりやしない」


 「虹ノ湊」は、「自転車デート」でチェーンが外れちゃうし、「花火デート」では甘い飴に夢中なふりをしちゃうし、「情けないエピソード」が何度も出てきます。

feeling summer night まだ終われない 追いかけてく愛 なぜ届かない
湿る手 乾く汗 潤む目に夢の跡 このままでいいと思っても
feeling summer night まだ終われない 追いかけてく愛 なぜ届かない

 無責任な言い方をすれば、結局、全ての物事は "タイミング次第" なので「あせるな、青年」と、おじさんは簡単に言いがちですが、当人にとっては、かけがえのない青春のひと夏なので「まだ終われない」「追いかけてく愛 なぜ届かない」と真剣です。


 少しだけ脱線しますが。。。GRAPEVINEの「ナツノヒカリ」にこんな歌詞があります (MVのリンクはこちら) 。

 あのままで 他に何もいらなかった
 だからさ ねぇ
 君が好きと言えなかった

 一緒にいて心地いい「今の距離感 (=友達以上恋人未満) 」を壊したくないから、「君が好きと言えなかった」。
 「虹ノ湊」の歌詞にも「このままでいいと思っても」や「人生がもし2回あるのなら 今のままでもいいだけど」と、主人公が「現状維持」のままでいいんじゃないか? と心が揺れているような歌詞があります。
 一歩踏み出して、もし失敗したら、傷つくのが怖いですからね。

 しかし、最後の歌詞で、主人公はこう締めくくります。

すれ違う数 愛してた夏 続いてくはず これからもあぁずっと

 つまり、どれだけ情けない自分に出会っても、人を愛することは「続いてくはず」。
 「人生が2回」あっても「悩ます頭を抱えて」、誰かを好きになることをあきらめないで生きていく。

 分かりやすい「デートスポット」など無い地元で生きることを選択し、相変わらず不器用でデートでは失敗ばかりだけど、それでも愛し愛され、「自分の決断」で生きていこうとする若者の姿が見えてきます。
   (余談ですが、Rin音さん自身も、東京ではなく、自らの選択で福岡在住で活動されている、とお話しされています。
【TV Bros. WEB】初の同い年ゲスト!Rin音さんをお迎えしました【2022年4月hime連載「社会人でびゅ〜」】


 単に夏サイコー! 恋して生きるって楽しい! と歌うことにとどまらない、色んな失敗を乗り越えて生きていこうとする若者の姿を描いた名曲で、聴いている人に爽快感と勇気を与えてくれる、最高のサマーアンセムだと思います。

 YouTube公開からMVは約1週間で16万を超える再生数 (7月6日朝時点) 。すごい勢いで伸びていますが、もっともっと多くの人に聴いてもらうべき作品です。

 「虹ノ湊」最高だから、みんな聴いてください!



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