すふにん

プロの小説家を目指しています。Twitterフォロワー募集しています。

すふにん

プロの小説家を目指しています。Twitterフォロワー募集しています。

最近の記事

始まりの丘

 僕は裕太の亡骸と向かい合っていた。  驚く程、綺麗な顔をしている。死に目にあったっていうのに、そうは感じさせない佇まいをしていた。 「死ぬときは苦しまずに済んだのかな……あの世でも元気でやれよ」  僕は、裕太の新しい第二の旅に冥福を祈っていた。 「裕太くん……」 「牧師さんは連れてこれなかったけど、裕太くんに、プレゼントがあるの」  すると、星羅さんは一冊の聖書を鞄から取り出した。 「私、クリスチャンになることに決めたわ。だからこれから一緒に勉強をしましょう。

    • 始まりの丘 No.12【小説】

       僕はただ、茫然自失していた。裕太が死んだ……? 一体どうして? 先ほど見た夢が原因しているのか?  もしかしたらさっきの犬は、裕太を暗示していたのだろうか。 「どうしよう、乃夜くん……私、何にも分からない。こんな時に何もできないなんて」  僕は彼女を宥める。 「落ち着いて、星羅さん。分かった、僕もテレビの中に行ってくる。残り二人の命が危ないかも知れないんだ、僕で役に立てるか分からないけれど……」 「ばか言ってるんじゃないの!」  そうして、彼女は遂に泣き出した。

      • 始まりの丘 No.11【小説】

         聖書に記載されている、巨大な穴というのがどこかで出来るらしく、そこからイナゴの大軍勢が世界中を覆う……。  霊的な隕石の様なものがどこかで落ちるのだろうか。聖書に寄ると北の方面かららしいが、宇宙から来るという可能性もある。 「全く想像できない……匠たちの行った世界は一体どこなんだろう?」 「分からないわ……」  僕も星羅さんもお手上げだった。つまり、裏の世界がテレビと繋がっていて、そこに匠たちが行ったことで、苦しんでいるとしたら、向こう側の世界はどうなっているんだろ

        • 始まりの丘 No.10【小説】

           毎晩、ずっと同じ夢を見る。  だから、よく眠ることができない。  何か高位の存在が、僕に語りかけて来ている様だ。 「お前は何を眠っているのだ」  ……。 「信仰から離れて、生きることがあなたに出来ると思っているのか」 「聖なる者を置いて、他に誰に頼ろうと言うのか」 「起きなさい、あなたの役目はまだ終わってはいない」  ……。  新しい朝、空を見てみると、晴れている。だが、僕の心は曇り模様だった。  子供の頃から満たされない毎日。何をすれば僕の心は充足され

          始まりの丘 No9【小説】

           ……。  これは一体どういうことだろう? 本当にテレビが声を発している。しかも、我々の世界に招待するとは何のことだ。危ない……これは、早くここから出ないと。 「匠、この声を聞いちゃいけない! 皆も早くここから避難しよう!」  その時、僕の耳から驚くべき言葉が聞こえてきた。 「なんでだよ、祈りを捧げれば、こことは違う世界に行けるっていうのに……なあ、俺は祈るぞ……皆も一緒に祈ってくれないか?」 「俺も祈ろうかな……ここは教会なんだから、悪いことが起こる訳はない気がす

          始まりの丘 No9【小説】

          始まりの丘 No.8【小説】

           情報を整理してみる。  バプテスマホーリークラブで、うちの研究員がワームホールを発見した。それはテレビであったということ。  そのワームホールが、こちら側に来ないか、と語りかけて来ているらしい。  しかも、彼は今、教会に居て、昨日の続きを試そうとしているらしい。  僕は、急いで駆けつけようかと思ったが、敢えて慎重に、他のメンバーにも相談した方がいいと思い、全員に連絡した。  事情を説明すると、割とすんなりと理解してくれたらしく、皆で教会に来てくれるとのこと。  

          始まりの丘 No.8【小説】

          始まりの丘 No.7【小説】

           こちら側に来ないか? そんなことが現実で起こり得るものなのだろうか。僕は、彼が半分冗談で話しているものだろうと、受け止めた。 「そうか、ワームホールはテレビだったのか。そのワームホールは他にどんなことを言っていたかい?」  自分の話が冗談で言っているのだろうと、僕が受け止めたことに、彼は文句を言ってきた。 「本当なんだって! そのテレビが言うにはな、どうも救いの日は間もなくやってくる。このテレビから、今すぐ霊界に来い。ワープの方法は後から教える。我を信奉せよ……という

          始まりの丘 No.7【小説】

          始まりの丘 No.6【小説】

          「単刀直入に聞くけど、何か良い情報は集まった?」 「あー、もしもし? 残念だけど、こちらは何も無いよ。ていうか久しぶり、昨日は研究会に集まれなくてごめんな。こちらも色々予定があってさ」 「そういう風にならないように日々、情報には目を光らせておけと言ったろ」  今度からは、しっかりするようにと言って僕はスマホの通話を切った。  やる気のない奴だ、だから動機が不純な奴の意見は当てにならないんだ……。僕は、心の中で彼を裁いてしまっていた。  続けて二人目のメンバーに電話を

          始まりの丘 No.6【小説】

          始まりの丘 No.5【小説】

           窓を開けると、不気味な曇り空が辺りを包んでいる。    まるで世界が終わってしまう一日前といった感じである。     終末時計は、二〇二三年になって残り九十秒となった。去年より、十秒も短くなっているのである。  人類の終末まで「残り九十秒」世界が過去七十六年間で最も破滅に近づいたことを示唆している。  原因は、ある国の侵攻が起こったり、隣国の挑発、新型コロナウイルスのような感染症が起こったことが原因している。  だが、僕はもっと根本的な問題。人間がどんどんと、悪くなっ

          始まりの丘 No.5【小説】

          始まりの丘 No.4【小説】

           僕は携挙の時期について、正確な情報を掴もうとしていた。  パソコンの電源を付けてYouTubeを開いた僕は、いつもの通り、リサーチを開始していた。  携挙の日について、関係しそうな動画をあらかた検索する。  僕はこういう時、探すのに工夫を凝らしている。信仰が深そうな、あるいは心が綺麗な人物がアップした動画を探すのだ。  そういう人の動画は非常に説得力がある。参考になる以外にも、その人の考え方が入ってくる。結局はこれが、一番、為になることが多いのだ。  探してみると

          始まりの丘 No.4【小説】

          始まりの丘 No.3【小説】

           そもそも、携挙なんてものが、本当に起こるのかどうかなんて怪しいところである。  しかし、すべてのクリスチャンは、このことに希望を置いている。  救われる日を待ち望んでいるのだ。聖書において預言というものは絶対で、必ず成就されなければならないものだからだ。  主イエス・キリストの復活を待っているという訳である。  だが、どの様にして来るのか? あるいはどの様な方法で? これは専門家でも分析するのが難しいところで、解釈できた者はいない。だから、それを僕が解き明かそうと言

          始まりの丘 No.3【小説】

          始まりの丘 No.2【小説】

          「確かに、考え事がすべての元凶だとしたら納得がいくわね……」 「そういえば、人間が武器を作ったことや、戦争を行ったのも考え事が原因なのよね」  僕は、その通りだと頷いた。 「武器も戦争も、人間が考えた妄想の産物だからね」 「妄想って怖い世界なんだね」  今日のところはこれで終わろうか。他のメンバーも帰ってくる頃合いだろうし。 「ええ」  このサークルは五人で構成されている。聖書研究会……とは名ばかりの、普通のサークルである。僕たちにもちろん、信仰なんてない。それ

          始まりの丘 No.2【小説】

          始まりの丘 No.1【小説】

           主なる神は、土の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。主なる神は、東の方のエデンに園を設け、自ら形づくった人をそこに置かれた。主なる神は、見るからに好ましく、食べるに良いものをもたらすあらゆる木を地に生えいでさせ、また園の中央には、命の木と善悪の知識の木を生えいでさせられた。  主なる神は人を連れて来て、エデンの園に住まわせ、人がそこを耕し、守るようにされた。主なる神は人に命じて言われた。 「園のすべての木から取って食べ

          始まりの丘 No.1【小説】

          弥勒物語No.56【小説】

          私の名前は音夢。  私も今日から大学生です。幼い頃から不思議な声が聞こえたり夢を見たりすることがあった。その理由で、私は幼い頃より父親から仏教ばかりやらされているのです。  だからかもしれない。私は新しい生活に希望を抱いていた。 「よろしくお願いです」 「音夢さんは、あの有名な進学校を出たらしいんですって。期待株ってやつね。うちのサークルでも遂に大型新人が入ってくれたみたい」 「おお、どんな動機でうちに入られたんですか?」  すぐに仏教と違うことがやってみたくて…

          弥勒物語No.56【小説】

          弥勒物語No.55【小説】

          「行ってらっしゃい、音夢」 「はーい、ママ」  音夢が新入生になって、数日が経った。  僕は、まだ音夢が夢の中で観音様と会話ができるという事実を受け止められないでいた。 「あなた、いつまでもそんなことを気にしないの」 「だって、僕が若い頃に出来ていたことをこの歳で自然にやっているんだぞ。そりゃ心配になるよ……しかも観音様の真言なんて、ああ……」 「仏教の申し子ってことでしょ? いいじゃないの仏様にお預けすれば。悪いようにはなされないわよ」 「でも、僕は音夢にはも

          弥勒物語No.55【小説】

          弥勒物語No.54【小説】

          「音夢、ランドセルがとっても似合ってるよ!」 「そう、パパ」 「音夢にこんな日が来るなんてパパは夢を見てるようだよ」  音夢は今日から小学生になる。赤いランドセルがよく似合っている。愛娘にこんな日がやって来ようとは……。まるで極楽にいる様な気分である。僕はデレデレ顔を隠すことができなかった。 「パパー、学校に行く前に最後に抱っこしてよ」 「よしよし」  ほらっと言って音夢を抱き上げる。 「えへへ、パパ大好き」 「ほら、学校に行く準備しなさい。もう時間ですよ、あ

          弥勒物語No.54【小説】