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学校法人武相学園 (高校) 事件

ポイント

(1) 労働基準法第19条1項は打ち切り保証をする場合を除き業務上疾病により療養中のものの解雇を禁止する
(2) 退職には休職期間満了による退職だけではなく懲戒解雇も含まれる
(3) 諭旨解雇も類推適用の可能性がある
(4) また、教員の「失言」が業務上のミスにあたり「会社の経営に影響を与えるなど重大な仕事上のミスを犯した場合」の心理的負荷として扱われる

概要

経緯:

 Aは高校教諭に就任し、部活の顧問に就任した。文武両道を標榜する高校で、中学で実績を残し特待生として入学金免除を受ける者もいた。部活動の顧問には定額顧問手当と休日出勤手当が支給され、その範囲で顧問を行うこととなっていた。また、高校が加盟する高等学校体育連盟の役員をボランティアで勤めていた。労働基準監督署が認定したおよそ半年間の時間外労働は91時間-146時間であり大部分は部活の顧問または高等学校体育連盟の仕事であった。
 Aはスカウトして特待生として入学させた生徒が1年で退学した際、部活の生徒の前で「ここに刃物があればあいつを刺して自分も死にたいぐらいだ」と失言し、これを非難する投書を契機に副校長らから事情聴取がなされた。
 Aは不利益処分を恐れて部活の生徒に口止めしたが、副校長はその事実を把握し、進退を校長にゆだねるよう提案した。また同時期に、部活の保護者から部費など徴収費以外の任意の寄付があったと副校長が聞きつけ、会計問題の厳しい調査も始まった。
 その後、高校はAの顧問業務を禁止する処分を行い、授業の担当を禁止する処分も追加した。
 Aはメンタルクリニックでうつ病の診断を受けて同日より休職した。
 4か月後高校はAを失言・口止め問題及び公金の着服横領を理由に懲戒解雇し、労働基準監督署は労災支給を決定したため、Aは労働基準法第19条1項に反するため解雇は無効だと訴えた

判決:

  • 失言は仕事上のミスにあたり「会社の経営に影響を与えるなど重大な仕事上のミスをした場合」の心理的負荷に該当する。また、副校長の進退への言及及び部活動顧問禁止処分等の心理的負荷は大きくうつ病を発症させるにたりる

  • 学校の文化から顧問は対外試合で好成績を残すよう黙示的に努力目標とされていると感じ、学校もそれは認識していることから朝及び放課後の練習指導は長時間労働として強い心理的負荷といえる。

  • さらに県高校体育連盟役員の就任も踏まえると、うつ病は業務起因性があるとみとめられ、聴取調査及び時間外労働とうつ病発症に相当因果関係があるため、解雇は労働基準法第19条に違反して無効である

出典

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