概要

問題と目的

• 職場の対立とアウトカムの関係に関する研究は、課題の対立と関係性の対立を分離していない点で課題がある

• 対立の分離は長期的なチームのアウトカムに有益であると示されている (Gamero et al., 2008)

• また、モデレータが不明なために条件が定かではない

• 職場とプライベートの切り替えが対立とアウトカムの関連に影響すると想定して研究を行う

心理学的なdetachmentとwell-being

• 心理学的detachmentとはEtzion et al (1998) により導入された、職場とは別の環境にいるさいに精神的に仕事に関与していないと感じる体験を指す

• 心理学的にdetachmentされていない状態は望ましくないとされ (Kahn, 1990)

• 緊張からの回復に必要とされる (Sonnentag & Fritz, 2007)

心理学的detachmentと仕事の対立の相互作用

仕事と関係のない時間の心理学的なdetachmentは強い回復体験をもたらす (Binnewies et al., 2009; Ragsdale et al., 2011)

方法

サンプル

• ドイツの建設部門

• 大企業本社のホワイトカラー

• 612名に調査メール送付

• 291名 (回答率47.5%、女性25%、平均年齢40.8歳、平均就業歴12.8年) を分析対象とした

測定内容

①職場の対立 (Giebels & Janssen, 2005)

課題の対立は4項目5件法のリッカート尺度 (alpha = .86)
関係性の対立は4項目5件法のリッカート尺度 (alpha = .89)

②心理学的detachment (Sonnentag & Fritz, 2007)

4項目5件法のリッカート尺度 (alpha = .91)
項目例「During after-work hours I do not think about work at all」

③ウェルビーイング (GHQ: Goldberg, 1978)

④統制変数 (仕事のコントロール、仕事の負荷量)

結果

ウェルビーイングへの影響

年齢・性別・リーダーシップポジションは、総合的にはウェルビーイングに影響を及ぼさなかった
仕事の負荷はウェルビーイングを抑制し、仕事のコントロールウェルビーイングを促進した
仕事の対立・関係性の対立はウェルビーイングを抑制し、心理学的detachmentはウェルビーイングを促進した
ウェルビーイングの抑制効果は、仕事の対立 (95%CI = 0.011-0.247) と関係性の対立 (95%CI = 0.075-0.313) の間で差はなかった 

• 職場の対立と心理学的detachmentのインタラクションタームを加えた所、増分妥当性が認められた

• さらに、関係性の対立と心理学的detachmentのインタラクションタームは統計学的に有意にウェルビーイングに影響を及ぼしていた

• 傾斜分析 (Aiken & West, 1991) の結果、心理学的detachmentができている職員は関係性の対立が高まってもウェルビーイングに影響がないが (beta = 0.05, SE = 0.06, t=0.86, n.s.)、心理学的detachmentに乏しい職員は関係性の対立が高まるとウェルビーイングが低下した (beta = 0.17, SE = 0.06, t = 2.97, p < 0.01)

• しかし、職場の仕事の対立と心理学的detachmentのインタラクションは認められなかった

• また、インタラクションの効果は、関係性の対立 (95%CI=0.048-0.282) と課題の対立 (95%CI=0.018-0.111) の間で重複したため統計学的な有意差は認められなかった

文献

1. Aiken, L.S. and West, S.G. (1991), Multiple Regression: Testing and Interpreting Interactions, Sage Publications, Newbury Park, CA.

2. Etzion, D., Eden, D., & Lapidot, Y. (1998). Relief from job stressors and burnout: reserve service as a respite. Journal of applied psychology, 83(4), 577.

3. Gamero, N., Gonze ĺez Romá, V. and Peiro, J.M. (2008), “The influence of intro team conflict on work teams’ affective climate: a longitudinal study”, Journal of Occupational and Organizational Psychology, Vol. 81 No. 1, pp. 47 69.

4. Giebels, E. and Janssen, O. (2005), “Conflict stress and reduced well being at work: the buffering effect of third party help”, European Journal of Work and Organizational Psychology, Vol. 14 No. 2, pp. 137 55.

5. Kahn, W. A. (1990). Psychological conditions of personal engagement and disengagement at work. Academy of management journal, 33(4), 692-724.

6. Sonnentag, S. and Fritz, C. (2007), “The Recovery Experience Questionnaire: development and validation of a measure assessing recuperation and unwinding from work”, Journal of Occupational Health Psychology, Vol. 12 No. 3, pp. 204 21.

7. Sonnentag, S., Unger, D., & Nägel, I. J. (2013). Workplace conflict and employee well‐being: The moderating role of detachment from work during off‐job time. International Journal of Conflict Management, 24(2), 166-183.

コメント
心理学的detachmentが職場の人間関係の対立がウェルビーイングを抑制する効果を緩和する