20240218 海

心に海が流れていることを知ったのは、直感的に選び取る色が水色ばかりだったからだ。秋の紅葉のような色が似合うということを理論で理解していても、私はくすんだ冬の空のような、灰色と空色を混ぜたような、泣き出しそうな水色が好きだった。

海のない土地で生まれ育った。海水浴場で幼い姉が迷子になってから、家族で海に行くことは殆ど無かった。東京ディズニーシーで海風に撫でられること、鎌倉の海に遠足で行くことはあっても、海を身近に感じたことは一度も無かった。

昔付き合っていた恋人は皆、海のそばで生まれ育っていた。彼らはいつでも海に逃げることができたのだと思うと、ものすごく惹かれた。一昨年まで付き合っていた恋人とはたくさん海に行ったけれど、結局私にとって海は特別な場所で、少しもそばに居てくれなかった。

インターネットの海で出会った友達と、初めて会ったのは水族館で、それから2人で海に行った。スニーカーの中に砂が入り込んでくることが嫌で、海の近くに行かない私を友達は許した。代わりに私が連れてってあげると言って、砂浜に私の名前を書いてくれた。素敵な子だなと思った。私を海に連れてってくれるひとはみんな素敵だった。だから水色が好きなのかもしれない。

海を超えた遠い国で暮らしている友達が、夏のひとときに帰ってくる。ブロンドが美しい猫のような友達と、寒い国にいる友達と、誰よりも赤が似合う友達と一緒に、最後の電車に乗って海に行こうと約束した。私の心の支えはそれだ。

夏に着るための、水色の服を探している。心の中に流れる海を、現実のものとして触れ合うとき、それに見合った私でいたいから。

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