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FF7の曲をサンプリングしたヒップホップ7選【FF7リバース発売記念】

こんばんは。ゲーム音楽DJ/キュレーターのすいそです。

『FINAL FANTASY VII REBIRTH』が2024年2月29日に発売されました!

記念に(?)、以前から収集していたゲーム音楽ネタをサンプリングしたヒップホップの中から『FF7』のBGMが使用されている楽曲を下記コンセプトのもと紹介していきます。

  • デジタルでリリースされている曲(正規ルートで購入/DLできる曲)

  • ゲーム音楽DJ(VGMDJ)で使えそうな程度には原曲の要素が残っている曲

  • 明示的なリミックスやファンアレンジの文脈にあるものは含めない

要は「音源がちゃんと入手できる」「ゲーム音楽ファン視点で楽しめる」かつ「なかなか検索では出てこない」(※)曲です。

WhoSampledというサイトを用いればある程度一望できるリストが出るには出るのですが、玉石混交な上にデジタルでリリースされているかどうかは1曲1曲調べる必要があったため、今回改めてめちゃくちゃリサーチし直しました。

簡単な楽曲解説とアーティストの紹介、ゲームに関連した補足がある場合はそういった情報も付記しています。深淵の世界のさらなる探訪への一助となれば幸いです。尚、ヒップホップのレビュー/キュレーションでは本来あるまじき姿勢かとは思いますが、リリックについては今回触れていません。語るにはコンテクストが膨大すぎる上、本noteの主目的からは逸れていくため割愛しています。どうか悪しからず。


01.【F.F.VIIメインテーマ / Main Theme of Final Fantasy VII】Lincoln Continental [Prod. brandUn DeShay] / Danny Brown

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BPM133。原曲メインフレーズの頭4小節分がループで使われています。ロービットなウワモノに馴染む太い808と、強めのハーフタイムスネアが特徴のビートに、あちこちからアドリブが入るマッシヴなトラック。一方フロウはレゲエのようなゆったりとした抑揚がありますね。

「Lincoln Continental」は、2010年3月にリリースされたDanny Brownの1枚目のスタジオアルバム「The Hybrid」のボーナストラックに収録されています。プロデューサ―のbrandUn DeShayはシカゴ出身のアメリカ人ラッパーで、Ace Hashimoto名義での活動も含めJ-POPアーティストとのコラボや日本在住の経験もある大の日本カルチャー好きミュージシャンです。

彼がプロデュースした楽曲ではゲーム系のネタも度々サンプリングされていて、Hodgy Beats「Memorex CDs」の『クロノトリガー』「みどりの思い出」、Dom Kennedy「From The Westside, With Love」の同「樹海の神秘」、TheRawShit「I Love It」の『テイルズ オブ シンフォニア』「Search a seal」など多数。さらに「Had Em All」という曲では『ベア・ナックルII』の声ネタをこすりつつ、ドラゴンボール、ポケモン、ジブリ、セーラームーン、メタルギアソリッド、NARUTO、任天堂といった大ネタをミームのようにとっ散らかしたMVもあるので日本人視点で見てみると味わい深く楽しめるかもしれません。

02.【旅の途中で / Ahead on Our Way】Mobile Suit Woe / Xavier Wulf

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BPM115。原曲から2小節分がループで使われています。ビートは8分と16分混合のハイハットに他の金物やパーカションも加わって、マイアミベースの趣もありつつR&B感が強め。フロウはオートチューンを薄く効かせたエモラップ系です。

Xavier Wulfはメンフィス出身のアメリカ人のラッパー。メンフィスというと、後のフォンクにも接続するダークで緊張感のあるヒップホップのイメージがありますが、この曲は不安定な雰囲気もあるもののどちらかといえばリラックスして聴ける曲調ですね。サンプリングの音使いはメンフィスラップによくある引き延ばしたピアノのような質感と確かに近いかもしれません。

今回はこの曲を取り上げましたが、「お前は…誰だ」をサンプリングした曲(「Public Announcement」)もあります。そして彼も相当なゲーム音楽フリークのようで、『スーパードンキーコング2』「Forest Interlude」(「Episode 9: I Say High and Bye」)、『エコーナイト』のテーマ(「Vain Village」)、『サイレントヒル2』「Null Moon」(「Dead Dragon」)、『サイレントヒル3』「Never Forgive Me, Never Forget Me」(「Thunder Man」)、『キングダムハーツ』「Hollow Bastion」(「The Report」)、『キングダムハーツII』「Magical Mystery」(「Switch Man」)、『FF13』「ライトニングのテーマ」(「The Ice King」)などのゲーム音楽がサンプリングされている曲を無数にリリースしています。ディグり甲斐のある人物です。

03.【お休み、また明日 / Good Night, Until Tomorrow】Stage Lights / Sir Michael Rocks

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BPM121。基本的に2小節分がループで使われていますが、元が短いジングルなので流し切ってアクセントにしている部分もあり洒落てます。チルい雰囲気がリバーブを効かせたクラウドラップの曲調とも相性がいいですね。文字通りベッドルーム系。

Sir Michael Rocksはシカゴ郊外出身のアメリカ人ラッパーです。多数のユニットへの参加経験がありますが、「Stage Lights」はソロデビュー作となった2011年のミックステープ「The Rocks Report」に収録されています。ちなみにこの曲のプロデューサーは前述のbrandUn DeShayです。

ここから少し余談。Sir Michael Rocksの「PERFECT」という2015年リリースの曲が『ストII』ネタ全開でMVが作られていて、キャラセレなど無駄に凝っているのでぜひ見てみてください。さらに脱線して超余談。彼が所属していたヒップホップ集団All City Chess Clubの中心人物であるLupe Fiascoは、グラミー賞受賞の経歴もある大物ラッパーなのですが、『ストリートファイターV』のエキシビジョンで梅原大吾を破った伝説を持つ筋金入りの格ゲーマーでもあったりします。

04.【お休み、また明日 / Good Night, Until Tomorrow】Good Night Until You Are Awake feat. CHICK Jr. / SANTACS

購入リンク(bandcamp)

BPM88。こちらも原曲ジングルの2小節分をループ。フェイザーがかった揺らぎのある音色が特徴です。ローファイヒップホップに接近するレイドバック感のある気怠いビートとフロウが心地いいですね。芯になっているリムの音が4拍目だけ無くなる瞬間があって、まさにまどろみのようなフィーリング。

SANTACS(Daichi SUZUKI)は仙台出身・タスマニア在住の日本人トラックメーカーで、bandcampやSoundCloudを中心に活動中。ほかにゲームネタでは、『スーパーマリオワールド』のゲームオーバージングルをサンプリングした「G​∀​M​E​W​∀​$​O​V​E​R」という曲もリリースしています(このジングルもよくサンプリングされています)。

CHICK Jr.(sugarloaf)も同じく仙台出身の日本人トラックメーカー兼MCです。近年でもEPをリリースするなど積極的に活動中。2015年に発表されたこの「Good Night Until You Are Awake」は同郷のふたりが地元在住時代にコラボした楽曲のようです。完全なる想像ですが、この曲の制作時にゲームの話題から始まったコミュニケーションがきっとあったはずで、そういったのを想像しながら聴くのもおすすめです。

05.【つづきから / Continue】Balaclava On The Beach / StreetManTV

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BPM126。原曲ジングルのほぼ全体にあたる8小節分がループで使われています。曲調はゆったりとしたチルトラップで、声色を変えながらのフロウがなんともコミカルで気の抜ける雰囲気。

StreetManTVはノルウェー出身・マルタ在住、バラクラバ(目出し帽)がトレードマークのYouTuberです。ビートを手掛けたのはKunxoというプロデューサーで、SoundCloudを中心に活動中ですが素性は不明。ただかなり日本のコンテンツに影響を受けているようで、アニソンやゲーム音楽、J-POPをサンプリングした楽曲も多数リリースしています。

どうやら、この「Balaclava On The Beach」でも使われているNARUTOとマリオはKunxoのシグネチャーになっているみたいです。前述のbrandUn DeShay関連情報でも列挙しましたが、FF7がそういった日本のポップカルチャーと割と同じ括りになっているという海外の感覚が垣間見えるのは興味深いですね。

06.【星の声が聞こえる / Listen to the Cries of the Planet】Babylon / Scbp vs. Tkyd

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BPM89。原曲からピッチを上げたシンセリフのループを主軸に、チャーチベルやピチカート、和音のフレーズなど原曲の要素が効果的に使われています。1:16~からは「星に選ばれし者」のフレーズも。2:20~からは掛け合いのラップもあり、ビートはブーンバップ系ですが展開が多く比較的マキシマムな構成。

プロデューサーのAZAは、ブダペストのヒップホップレーベル・ScarcityBP(Scbp、Scarcity Budapest)所属のトラックメーカー。同レーベルからは『悪魔城ドラキュラ 闇の呪印』の「廃城 ~闇の呪印~」をサンプリングした「Edge of the Blade」という曲もリリースされています。

また、Tkydが所属するユニット・Dreamerzからは『Silent Hill』の「Fear Of The Dark」をサンプリングした「Égszínkék」という曲もリリースされています。こういったサタニックなモチーフ群と、FF7の曲がなんとなく結びついているように感じられるのは、彼らのリリースを調べていて面白かったポイントでした。

07.【片翼の天使 / One-Winged Angel】Kein Limit / Money Boy Ft. Spinning 9 & Hustensaft Jüngling

購入リンク(Amazon Music)

BPM120。クワイヤを中心にほどよく原曲の要素を残したチョップに、定番の引きずるようなハイハットとシンプルな37スネア。セフィロストラップとでもいいたくなるくらいスリリングな雰囲気がマッチしています。三者三葉のフロウも気持ちいいですね。特に1:06~辺りからの3連のパートが好きです。

Money Boy(YSL Know Plug)はウィーン出身のオーストリア人ラッパー。Spinning 9とHustensaft Jünglingは共に隣国ドイツのラッパーで、この曲が収録されているアルバム「Cash Flow」がリリースされた2015年当時はMoney Boyが主体のGlo Up Dinero Gangという自主レーベルでも活動していました。

ドイツ語圏のヒップホップシーンにおいても日本のプロダクトやカルチャーは度々参照されています。ゲームも例に漏れず、見つけられた限りでは『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』版の「ゼルダ姫救出」をサンプリングしたYung Hurnの「Nein」、『FF8』の「Find Your Way」をサンプリングしたChakuzaの「Größer & Stärker」など。きっと無数に存在するはずなので、これはこれで深堀りしてみたいですね。シーンのクロスオーバーでいうと、直近では『ストリートファイターVI』エドのテーマ曲「König oder Feigling」をデュッセルドルフ出身・ドイツ語ネイティブの日本人ラッパーBlumio(國吉史生)が歌ったというニュースもありました。


明らかに蛇足補足情報の方がリサーチに時間かかってしまったのですが、そういった周辺情報が次々出てきて止まらなくなるのも音楽ディグの楽しみのひとつ。

今回メインでは紹介しませんでしたが、Mega Ranの「Black Materia」というコンピやTeam Teamworkの「Vinyl Fantasy 7」というアルバムもイチオシです。特に後者は超有名ヒップホップアンセム×FF7マッシュアップというアクロバティックなコンセプトでできていて、その潔さも含め笑ったあとにクるタイプの味わい深さがあります。ちなみに「ヴァイナルファンタジー」だけでなく「カタマリ・ダ・エムシー」とか「オカリナ・オブ・ライム」とかそれが言いたかっただけだろシリーズが数作品リリースされているので、もの好きな方はぜひどうぞ。

ヒップホップのシーンでは、本当に無数のゲーム音楽が世界中で参照され続けています。『クロノ・トリガー』が2010年代に流行ったように、2020年代は『FINAL FANTASY VII』が来るかもしれません。事例を見つけたらぜひ教えてください。ありがとうございました。


参考・出典:


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