おとなの快感のぼる

不躾 (ぶしつけ)ということばが好きだ。


まず音としても、鮮烈なはじまり、「ぶ」という、空気と喧嘩しながら"出(いで)よ!"とわざわざ現れた感から突如の「し」「つ」で風のような、無印良品の家具のようなシンプルでありながらしっかり、唇と舌を巧妙に使い鳴らさねばなこの2音のあと、とつぜん、ひろく遠く真っ白に解き放たれる、「け」の潔さがやばい。ぶ し つ け!


そしてこの言葉のなにが本気でぐっとくるかというと、
この言葉、「大人しか使えない」感が半端ないのだ。


社会人になって、「恐れ入ります。」や「お手数おかけ致します」「お世話になっております」からの読めない「添付」、なんなら「拝」「敬具」など、大学を卒業して会社に入っていきなり(特に私がそれまでまったく作法に疎かったからだろうが)そんな大人しか知らない使わない言葉を浴びるほどインプットされ、圧倒され、恐る恐る、使い方あってますかと思いながらメールにそれをのせたりだとかをくり返し、日常にとりいれ使うたびに、わたしはどこか興奮していた。(今でも。)

これはお酒がのめるようになった大学生が、ことあるごとに「やっぱビールうまー!」「ビール最高」と言いたい、もしくはSNSにアップしたくなる気持ちと似ている。

子供の頃一切つかわなかった、ふれなかった、わからなかった、すこし覗いてみたかった、そんな世界にあきらかに"いま""わたしが"いるのだという背伸びの快楽。これを思う存分味わえる最高潮の単語が、わたしにとって、そう、冒頭触れた「不躾」なのだ。ぶしつけ。こんなん2歳児は絶対いわんし、大学生も知らんやろ。使うだけでぐんっと、「若かりし幼き何かども」への優越感で手や視界がいっぱいになるのだ。

あいにく、あるいは、ともすると、さて、いうなれば。
こんなかんじもニクいい。


だからこれからもわたしはすこしだけ各所で背伸びをした自分を感じ、いつのまにかその背伸びが本当の身長になったことをしっかり噛み締めるような、そんな素振りや単語や振舞いを繰り返す。これは脱皮した、ぬいだあとのシワシワの皮を眺めながら夜風にあたるような大人のとっておき。そろそろ、相手に歳を聞くとき、いちいち「失礼ですが」ってつけようかな。

ああ「バッセン(バッティングセンター)いきたい」という気持ちを抑え、「今週もゴルフ」っていうためのゴルフ、嗜もうかな。

ああ、シミが、ふえて来ちゃった↘︎ (!♡)




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