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顔面神経麻痺について

先日、歌手のジャスティン・ビーバーが、顔面神経麻痺を発症しているという記事を読んだ。ラムゼイハント症候群で、顔の半分の神経が麻痺しているとのこと。

人が(脳が)どんな人を美人と感じるのかというと、顔が左右対称であることらしい。もちろん、それだけでもないようだが、世の中の美しいといわれる人たちは顔の左右がほぼ対称であると研究結果がある。

自身の持つ歌の才能(中身)だけでなく、カッコいいねと、見た目でも世の中の注目を浴び続けた有名人が、突然の病によってその外見を失ってしまうかもしれないという恐怖や不安は大変なものだろう。
おそらく見た目だけでなく、聴覚器官などにもなんらかの症状がでてしまっているであろう状況に歌手としてはきついだろうと想像してしまう。

私も6年ほど前に、突然、顔の右半分の神経が麻痺し、顔面神経麻痺(ベル麻痺)と診断されたことがある。
何らかの原因により顔の右側の神経が死んで、顔の右側だけ筋肉が動かないので、右瞼や唇が動かせず、味覚や聴覚も麻痺し、めまいと頭痛にしばらく苦しんだ。


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もし、これを読んでいる方が万が一こういった状況になった場合の参考として、私の経験をもう少しシェアしたいと思う。
私が発症したときはネットでひたすら誰かの治療の様子や、予後のブログを検索しまくった。治った人の話を見つけて少しでも希望を持ちたかったのだが、予後のことを書いたブログは当時それほど多くは見つけられなかった。
だから今、治療中で不安の最中にあるという人がこれを読んで少しでも希望を持てたり、何かの参考になったらいいと思う。

私の場合はいつもの偏頭痛のようなものから始まって、瞼と唇の痙攣があり数日後に完全に麻痺がでて重症となった。気が付いたきっかけは後頭部から首すじに痛みあった翌日、昨日食べて美味しかった同じぶどうの甘みをいまは全く感じない、ということからだった。腐っているのかと思ったほどだった。

2、3日ほどかけて徐々に完全な麻痺に移行するのだが、割と早いうちに味覚の異変と顔の異変に気がつき近所の脳外科・脳内科のあるクリニックに行ったのだが、それが大失敗だった。
この場合は「耳鼻科」を受診して即ステロイドの点滴治療が良いとされているのに、頭痛や瞼や唇の痙攣だけでは耳鼻科を受診ということが思いつかず、訪ねた近所の脳外科クリニックの先生も大ハズレ。発症後数日以内の治療開始が必須というのに、次に受診した耳鼻科のある大きな病院も週末は入院ができないとのことで、数日間治療がずれ込む事態となり、入院までの数日間はあせった。

皆さん、こんな症状がでたら即、耳鼻科ですからね!!単なるいつもの偏頭痛か、疲れやストレスなどと思わず、すぐに大きな病院に駆け込んでください。

発症から7日目に入院してステロイドの点滴治療と抗ウイルス薬の治療のあと、鍼治療を週一回からはじめて次第に間隔を開けながら半年ほど通い、自宅で鏡を見ながら筋肉リハビリ運動を行い、徐々に回復し、運よく90-95%くらいは元に戻った。ほかのひとには、言わなければまったくわからない程度らしい。
初期の治療の遅れ、重度の症状からでもここまで回復できたので、今不安になっている方に希望を持ってほしい。
(※ 鍼治療やマッサージ、顔の筋肉運動のリハビリに関しては賛否両論があり、結局は何がよいのか悪いのかは誰にもわからないので参考までにとどめてください)

治療中の方を怖がらせるつもりはないが、正直に言うと今でも顔の筋肉の動きが少し悪いため、話すときやほほえみを作るときなどは若干左右対称ではないし、神経があらたにつながりなおすときに、つながる場所を間違えて、瞼を閉じるときに、唇が少し勝手に一緒にぴくっと動いてしまうとかの異常行動運動といわれるものが見られる状態だ(これも他人からはほとんどわからない程度)。
一度そのように間違ったところにつながってしまった神経は元にもどせないのだが、そう考えるとあたりまえのようにある私たちの体は本当にすごい奇跡の上になりたっていたんだな、失って初めて実感する。

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顔面麻痺(ベル麻痺)は、誰にでも突然起こるものらしい。

原因ははっきりしていないといわれていて、私の場合も検査の結果、原因は不明だった。耳のあたりを通る顔の神経の束がウイルスで腫れて、骨の間で圧迫されて麻痺がおこってしまうことが原因なのだが、疲れやストレス、妊娠、あとは寒冷地や、ドライブ中などに窓から入る冷たい風に顔が長時間晒されて発症することもあるそうだ。
私自身の見解では、その数日前にとてもストレスを受けた出来事があり、それが原因で免疫機能が落ちて起こったことではないかと思っている。

正直、完全な麻痺が起こった時はびびったが、素晴しい友人と家族に支えられたおかげでそれほど落ち込むこともなく快方に向かった。

顔のことだし、完治するのかもわからないので年配の男性だったとしても、かなり精神的にダメージをうけるらしい。女性ならばうつ病を発症する人もいるとか。

動かすたびに片側にひきつる変な顔でも、これまでと変わらずに一緒に笑ってサポートしてくれた友人たちには本当に感謝している。

唇や口の筋肉が動かないせいで水をコップから飲めなかったりしたのだが、それでも、これまで通り気分転換にとラーメンを食べに誘ってくれた友人とは、私が思うように麺をすすれないのをみて、二人で思わず笑ってしまった。

ほかにも耳の筋肉が動かないせいで、耳に入ってくる音の調節ができないという聴覚過敏となるので、普段なら大丈夫な音量のもの、たとえば車道を普通に走る車の音や、食器同士があたるような音が耐えられなくなる。
味覚もなくなるので食べ物の味が感じられないとか(例えていうと、歯医者で麻酔をしたときに起こる、舌や唇が何か触っているような気がするけどいまいちわからない感覚)、瞼を閉じることができないから目が乾くとか、とにかく物理的にしんどいことも多かった。地味にイライラしたのは、歯磨きのあと、口をゆすいで吐き出すときに上手くできないこと、食べ物を食べるとき、口でホールドできないからうっかり口から出そうになるので、手で口を抑えなくてはならなかったことだった。

しかし、この顔がこのままだったら、これから私に会うひとは私をどう見て、どう思うのだろう、と考えたときが一番つらかった。しかもその時は絶賛恋人募集中で、将来が真っ暗に感じられた。
そもそも右上半身に大きな血管腫を持ち、高身長で、なかなかニッチな需要のところにこの顔面か!と。
人は他人から見かけで判断されるべきでもないし、自分自身も、自分の見た目によって、しかも変えようもない見た目によって気持ちや人生が病気に支配されるべきではないとは思う。

だが、他人の気持ちを変えることはできないし、自分がひたすら気持ちを強く持っていたらいいっていうことでもない。

ジャスティン・ビーバーが今後どれだけ回復するのか、音楽活動に戻れるのか。そして、カッコいいからということもあって好きだといっている人たちがこの病気になった彼を、見た目をどう受け止めるのだろうか。

人が誰かを見た目で差別をするのは、その背景やその人を知らないからだ。
それが自分にとって安全なのか危険なのかをまずは視覚でとらえたものから判断しようとするのだから自然なことだ。しかし、その病気に対して知識があれば違うと思う。

とても有名な彼がこの病気を公表したことで、認知が高まり、病気を知らずに症状のある人をみて恐れてしまうようなことが減ったらよいなと思う。
また、さまざまな病気によって、外見が他の人と違うから、という人が辛い思いをするような差別がない社会になってほしい。

そして自分でできることとして、本当はそこにあるのに、見えなくなりがちな自身の内側にある強さと輝きを失わないように、また、周りには支えてくれる素晴らしい家族や友人がいることを忘れないようにしたい。



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