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世界で一番かっこいいハーモニカ

大学生のころから30歳くらいまで、狂ったようにジャズのレコードを買い漁っていた時期があった。この前「僕が影響を受けた11枚のアルバム」というテーマでも記事を書いたけど、一時期はかなり高額な廃盤にも手を出していたものだ。

結婚した今は独身時代のようにレコードを買うことは出来ないけど、当時さんざん聴いてきた音楽はしっかりと自分の身になってるし、今でも好きなものも多い。

その頃聴いていた曲で今でも変わらず好きな曲の筆頭が、1960年代中期(実際にはほぼ64~66年)にリオ・デ・ジャネイロの通称「ベッコ・ダス・ガハーファス(酒瓶の袋小路)」で録音された一連のジャズサンバ作品群だ。

ベッコ・ダス・ガハーファスの天才たち

このベッコ・ダス・ガハーファスについては、ルイ・カストロという人が書いた「ボサノヴァの歴史外伝」という本の「ピアニストを撃て」という項に詳しく解説されているので、興味のある人は読んでみるといい。

当時のアルゼンチン独裁軍事政権に勘違いで殺された悲劇のピアニスト、テノーリオ・ジュニオールが話の中心だけど、それ以外の人や時代背景についてもよく分かる。

詳細は本を読んでもらいたいので端折るけど、要はこの路地裏のライブハウスに、当時のブラジルの天才ミュージシャン達が集まって日夜セッションを繰り広げてたって話だ。

テノーリオ・ジュニオール(p)を筆頭に、ドン・サルヴァドール(p)、ルイス・カルロス・ヴィーニャス(p)、エディソン・マシャード(dr)、セバスチャン・ネト(b)、J.T.メイレレース(ts)、パウロ・モウラ(as)、ヴィトール・アシス・ブラジル(as)、ハウルジーニョ(tb)あたりが凌ぎを削っており、その輪の中にはまだ渡米前のジャズピアニスト時代のセルジオ・メンデス(p)もいたらしい。

特筆すべきは彼らの技量。それぞれのプレイヤーをリーダーとしたアルバムが何枚か残ってるけど、全員信じられないくらい演奏がうまい。テノーリオ・ジュニオールのNebulosaや、リオ65トリオのMeu Fraco É Café ForteあたりはカフェBGMとしてもよく流れてるので、どこかで耳にしたことがある人も多いかもしれない。

彼らの技量の凄まじさが最も分かりやすいのは、多分ハウルジーニョ(tb)がサンバランソ・トリオを従えて、冒頭からラストまで高速でトロンボーンを吹きまくるこの曲あたりだと思う。

この人は一般的なスライド式じゃなく、トランペットみたいに音を出すタイプのバルブ・トロンボーンで演奏するトロンボニストなんだけど、いかにバルブとは言え、トロンボーン一本でどうやったらこの演奏が出来るのか未だに意味が分からない。

ハーモニカで高速ジャズ・サンバ

さて、「僕が影響を受けた11枚のアルバム」で名前を挙げているヴィトール・アシス・ブラジル(as)は別格として、このベッコ・ダス・ガハーファスにいたプレイヤー陣の中で次に僕が好きなのが、マウリシオ・エイニョルンという人だ。

担当楽器はハーモニカ。ジャズの世界ではハーモニカ奏者ってほとんどいないから、それだけで少し物珍しさもあるんだけど、さすが当時のベッコ・ダス・ガハーファスで演奏してただけあって、技術が半端じゃない。

本格的にリーダー作を出し始めるのは70年代に入ってからなので、60年代中盤のジャズ・サンバ黄金期に録音した曲は僅かなんだけど、その僅かな録音を聴くだけでも凄まじさが分かる。

再発もされてて、今でも手に入りやすいのはルイス・カルロス・ヴィーニャス(p)の1964年のアルバム1曲目に収録されてるこの曲。

曲全体にわたってエイニョルンのハーモニカがフィーチャーされてるけど、特に最初のソロに入るところのフレーズがたまらない。

そしてこの曲以上に素晴らしいのが、1968年のMusicanossa!シリーズのRozenblit盤に自己のリーダー名義で収録されてるSistemaという曲。この時期の彼のリーダー作は多分このコンピレーションに収録された2曲しかないはずだ。

僕としては、この曲のハーモニカが世界で一番かっこいい演奏だと思ってる。疾走するドラムやホーンの援護射撃含めて完璧。

このMusicanossa!シリーズは、カフェ・アプレミディのコンピにも収録されたフランクリンのMeu Fraco É Café Forteカバー(これもフルート演奏が激ウマ!)が収録されたOdeon盤が有名で人気あるけど、実はこっちのRozenblit盤の方にもこの曲が入っているので、ジャズ・サンバ好きはマストだ。


こっちのMusicannossaの方の曲は再発されてないんだけれど、こんなマイナーな曲までYouTubeにアップされていることを発見し、驚きついでについ記事を書いてしまった。

まぁオススメ音楽ってくくりの記事を書いてる人もたくさんいるし、たまにはこんな記事があってもいいかな。

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