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「タイタイ病」を広めちゃうひと(後編) ーOKKO YOKKO

偶然行き着いたタイのエネルギーに衝撃を受け、あっという間にタイにどハマりし、OKKO YOKKOを立ち上げた神田陽子さん。そんな「タイタイ病」にかかったよっこさんの仕事は、どのように広がっていったのでしょうか?

前編はこちらから。

ネットショップをはじめれば売れると思っていたのに…

ーOKKO YOKKOとして活動をはじめたのはいつから?

日本に帰って来てから、タイ関係の仕事を経て、元々働いていた眼鏡会社に戻ったのですが、今度は "取締役" という役職につくようになって。そちらの会社でしばらくお世話になっていましたが、こころの奥底で眠っていた独立心?がむくむくしてきた時期があり、会社をやめて独立しました。そして2010年にネットショップをオープン。そのときは、ネットショップって出せばどんどん注文が入ると思っていたんですよね…(笑)。

ーどうしたら売れるようになったんですか?

オープンしたものの、明けても暮れても売上ゼロな日々が続き、これはなんとかしないと大変だ…と、もんもんとしていた頃、何かのきっかけで雑司ヶ谷の手創り市に遊びに行ったんです。
もう、すごい活気で。出展者やお客様を見て、こういう方々にお店を知ってほしいな…と思いました。でも、出展するということは、私自身がモノを作らないと、ということだ。はて、何を作ろうか。

少数民族の伝統的な刺繍など、さまざまな端切れでつくるミニホウキ

ー「買い付けて売る」から、「作って売る」発想になったんですね。何を作ったんですか?

とりあえず、簡単なものからはじめてみようと思い、木の洗濯バサミに、タイのチロリアンテープを貼ってセットにしてみてはどうだろう?そう考えて準備しました。すると、出展のその日にいきなり350セット売れました(笑)。「作る」と考えると大変そうだけれど、ちょっとしたアイディアでヒット商品につながる場合があるんだ!と気づいて。それからは、自分の脳内でアイディアを耕す訓練を心がけるように意識しはじめました。

ー手作りをするというよりも、アイディアを売っている感覚なんですか?

そういう感じはあるかもしれません。例えばこれはタイのアカ族の脚絆(きゃはん)をリメイクしたipad-miniケースなのですが、こういう布も、ただ綺麗だなと眺めるよりも日常で毎日使うものに作り替えた方が布も喜ぶんじゃないかなと思って…。ミシンをひとつも使わない時代につくった全手縫いの刺繍。すごい手間と時間です。こういうあたたかい手仕事のものを現代の最新機器などと組み合わせることが結構好きです。

脚絆はスネとふくらはぎに巻きつける布で、
民族衣装の短いスカートでも虫や枝などから足元を守ってくれるもの

買い付けは「プールに飛び込む感じ」

ー現地での買い付けってすごく大変なイメージなんですけど…どうやってしているんですか?

向こうに行くとまずバイクを借りて、リュックサックを担いで一気に周ります。
朝は、地図を広げて自分ミーティング。「今日はあそこと、ここと、ここ。行くよ。」回る順番を決めていざ出発。エアコンのきいたホテルの部屋から1歩外に出ると、暑すぎて頭が回らなくなることもしばしば。市場も5時で閉まってしまうし、短期間の滞在の中で行きたいところがてんこもりなので、事前に頭の中でシュミレーションして、「えい!」とドアを開け、プールに飛び込むような気持ちで一気に買い集めます

買付の友。レンタルバイク

市場には歩いていくのですが、作家さんのアトリエや、郊外や山の方までいかないと買えないものはバイクで行きます。直接頼めると話が早いし、タイ語同士だと距離がぎゅっと縮まるので、この時ばかりはタイ語を勉強しておいてよかったなあと。

ーチェンマイとバンコクはどのように違うんですか?

チェンマイ市が、現地の人の生活支援と観光客のお楽しみをつくるという政策で「手作り」を応援していて、チェンマイ人はマーケットに無料で出店できるようなのです。だから元を取らなきゃ!という殺気がなく、普通のおばちゃんや大学生のような方がのんびりと気まぐれで出していることもあって、たまに面白いモノや人に出会えるんですよね。

チェンマイのモーニングマーケット。
よっこさん曰く、「雑司が谷手創り市のチェンマイ版」

ー出店している人はどういう生活をしているのか気になります(笑)

それも、疑問に思ってきいてみたことがあります(笑)。
平日は別の仕事をして週末だけこの仕事…ではなく、月曜日から金曜日まで作って、土日で売ると言うのを10年間やっているという方に会いました。チェンマイは世界中から観光客がくるので、それだけでも生計が立つのだそうです。もちろん他の仕事と並行してやっている人もいるとは思いますが、チェンマイはバイヤーも多いし物価も安い。これはタイならではなのかもしれませんね。

自転車を改造して移動式カフェを作ったチェンマイのおねえさん

イランのおばあちゃんの手編み靴下にどハマり

ーイランの靴下はどういう経緯で売ることに?

独立してすぐに、タイは夏のものが主なので、「そうだ…冬は何を売ればいいのだろう?」という壁にぶち当たりました(笑)。その頃、新潟で雑貨屋に嫁いだ妹が、仕事の都合で東京の展示会に行くというので同行したら…。そこで偶然、あの靴下に出会いました。これはイラン北部のマースーレ村というところでおばあさんたちが手編みしているものだと聞き、その場で数足手に入れて、「うーーーん、これは見れば見るほど可愛い…」とすぐに夢中に。私すぐにどハマりするんです(笑)。

ー偶然な出会いでどハマりして、それが実際お客さんにも響いたんですね。

そこから、思い切ってたくさん仕入れてみたのですが、それもあっという間に完売。検品していてもタグ付けしていても楽しい。何年やっても飽きるどころか、ますますこの靴下の魅力のとりこに。そのうち、編み手のおばあちゃんの、それぞれの好みのタッチや毛糸や柄までわかるようになってきて、一体どんな人たちが作っているんだろう…と想いはつのるばかり。

その頃、靴下を販売しながら、お客様に「その村はどんな村なのか?」と聞かれることも多々あったのですが、行ったことがないのでうまく説明できず、少し心苦しくなってきて。私の中の疑問の壺が満タンになったころ、決心しました。マースーレ村へ行こう!と。

ー初めてのイランはどうでした?

販売開始から7年越しの、2017年。あの旅は始まる前から異常なミラクル続きでした。私はペルシャ語もできないし英語もそこそこなので、せっかく行っても村のおばあさんと会話できないと謎は解決しきれないし、まずはガイドさんを探すことにしました。

その時、偶然紹介してもらったガイドさんがいて、LINEで繋いでもらいました。「あなたはイランのどこにいきたいのですか?」ときかれたので、「観光は一切いりません!オンリーマースーレビレッジ!」といったら凄く驚かれて。

なんと、そのガイドさんは、マースーレ村出身者だったのです(!)
その時は、お互いLINEのスタンプは驚きのスタンプ連発です(笑)。

マースーレ村に「呼ばれていた」

とても小さい村なので、ホテルがないと聞いていました。しかし、ガイドさんの親戚もそこにたくさん住んでいて、「叔父さんに言っておいたから泊まれますよ」なんて、村にも泊まることもできることになり…。行く前からおかしな出来事がいっぱいあったんです。…これは呼ばれてる!と強く感じましたね。

ー出国前からミラクルがすごい!(笑)

村に行く前日、ラシュトという北の街で、地元の博物館に行きました。
その時、学芸員さんに「あなたどこからきたの?」と声をかけられたんです。そこで、「私は、マースーレ村の靴下が大好きです。この靴下のことを知りたくて、靴下のためだけにきました!」と伝えたんです。するとその人もまた「ええ〜!?」とものすごい驚き顔。なんと、その方は、マースーレ靴下を何十年も研究してる靴下研究者だったのです!もう、鳥肌が立ちました。

ーもはや漫画みたいな奇跡ですね(笑)。

さらにその方が、長年かけて研究し、作り上げた貴重な資料を惜しみなく全部私にくれたんです。おばあさんは編めるけど文様の意味までわからない人がほとんどなので、学術的な側面の理由や歴史、文様の意味など、全部教えてもらえた。もう、本当に運がよかったです!資料はすべてペルシャ語なのですが…ありがたき時代、翻訳ソフトにかけるとなんとなく読み取れるので、SNSなどで少しずつ情報を紹介できるようになりました。

連なる三角形の文様は、「ヤギのツノ」または「羊のツノ」

ーなぜそんなに奇跡が起きたんでしょうね?

この7年間ずっと靴下に触れながら、どうして長い紐がついているんだろう?なぜこの柄?このカタチ?などなど、疑問がたくさん蓄積されていたんです。長年の知りたい気持ちを抱えていざ行動すると、それが一気にはじけて、助ける何かが現れたのかもしれません。こんな旅は生まれて初めて経験しました(笑)。もうこれは、絶対やめてはいけないなと、使命的なものさえ感じます。

幸せだと思うことは、やったほうがいい

ーイラストの仕事もされていますが、それはどういう経緯ですか?

バンコクに住んでいた頃、月2回発行される在タイ日本人向けのフリーペーパーでイラストつきのコラムを連載していました。

illustration: OKKO YOKKO
フリーペーパーWEB「ぴいよっこのバンコクわんだ~ライフ」より

絵を描くのは昔から大好きだったし、そのときにお金をいただいて仕事をした経験があったので、独立したときにイラストの仕事も受けようと思えたのかもしれません。今もいただくお仕事はタイ関係が多いですね。

illustration: OKKO YOKKO
北タイ名物料理「カオソーイ」

私、絵を描いてる時、ものすごく静かで幸せな気持ちになるんです。それでお金をいただくのはどうなんだろうと思うこともありましたが、これだけ幸せな気持ちになるのだから、続けた方がいいと、自分に許したというか。3.11のあとに自分を許すことに関してより強く思うようになりました。

ー偶然の出会いがいろんな方向に転んでいますね。人生的にも(笑)

タイもイランも元々はまったく興味はなかったのに、なぜかこれらの国とこんなにも縁がある人生になったのは不思議で。自分の意思とは違う次元の何かが動いている、というものを感じますね。

「小さいからこそ出来る事」を心を込めてやる

ーOKKO YOKKOの実店舗は持たないんですか?

私は同じ場所にずっといるというのが性に合わないみたいで、イベントであちこち行ってるのが向いているみたいなのです。イベント前のこれからはじまるワクワク感と不安感、そしてそれが終わったあとにその場所がなくなってしまう「夏草や 兵どもが 夢の跡」(「おくのほそ道」松尾芭蕉より)的な感覚が大好きです。先のことはあんまり考えてなくて、今を大事にやっていれば、最後は何かしらのカタチになるだろうくらいに思ってるんですよ。

タイ人の生活に欠かせない布「パーカオマー」からつくったポーチ

タイに住んでタイ人を観察していると、タイ人って一瞬一瞬のその日美味しいものを食べたい、面白いもの見たい、という人が多くて。日本人は何歳までには家も建てて…子供もいて…とか、人生計画がある人が多い国。しかしタイ人をみていると、そこまで遠い未来のことは考えなくても、楽しく生きていけるみたいだなと、気が楽になりました。日々、一個一個こつこつと、やるべきことをこなすというのがマイテーマです。

ーそれも職人気質な部分なのかもしれませんね!私は世界中にこれを伝えたい!とかではなく。

世界中というよりは身近な人が幸せなればいいかなと思います。手広くしたくないのが夢というか。「小さいからこそ出来る事」を心を込めてやっていく。自分にとってはそれが一番幸せだと思っています。

illustration: OKKO YOKKO


偶然の出会いの連続で、流れに身を委ねながら、その瞬間に大事なことを選んできたからこそ、今のOKKO YOKKOさんがある…。

そんなことをしみじみと思う一方で…

あれ…?

私、いつの間にか、タイに行きたくなってます…。

マースーレ村のおばあちゃんにも会ってみたくなってます…。

そのこつこつとした職人気質で、各地で出会ったものたちの魅力を、目の前の人に伝え続けている。これぞ、OKKO YOKKOさんの魔力。

旅に出たくなってしまった人は、一度OKKO YOKKOさんの作るものたちに会いにいってみませんか?きっと旅先のワクワク感に出会えるはずです。

*記事公開本日より開始!銀座煉瓦画廊での展示会にも参加されています。

【Salty Check〜チェックとストライプと塩袋展〜】
6/5(火) - 6/10(日)
11:00-19:00
銀座煉瓦画廊 (歌舞伎座横)
東京都中央区銀座4-13-18-2F
◆triBe  ◆marchenosnos  ◆OKKO YOKKO

FB ページ:https://www.facebook.com/events/1813602835610582/

OKKO YOKKO(オッコヨッコ)
タイとイランの「ココロアルモノ」を販売する雑貨店 兼 イラストレーター。春夏はタイのハンドメイド雑貨、秋冬はイランのおばあちゃんの手編み靴下を扱い、季節ごとに変化する雑貨店として、各地イベントにて活動中。店主は神田陽子。 
聞き手:絵はんこ作家「さくはんじょ」主宰のあまのさくや。誰かの「好き」からその人生を垣間見たい、表現したいという気持ちで、文章を書いたりものづくりをしたりしています。 




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