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持ち家派と賃貸派の問答から炙り出される諸悪の根源

持ち家派「このまま毎月家賃を払い続けるより、毎月同じ額の住宅ローンを払って、将来自分の物になる持ち家の方が良いよ。」

賃貸派「そうかなぁ?ローンは将来の自分の財布から、お金を盗んでいるようなものだろ?それに新築一戸建ての買取り価格は、購入金額から年に8%ずつ減っていく。つまり将来の自分の財布からお金を取った変わりに残すものが、だいぶ価値が減った一戸建てになる。もし手元資金をETFに積立投資すれば、これまでの実績だと年に5%ずつ増えていく。積立投資はローンとは逆に、将来の自分の財布にお金を入れていくようなもので、さらに入れてたお金が増えていく。将来の自分に感謝されるのはどっちかなんて、聞くまでもないでしょ。」

持ち家派「積立投資って言うけど、家賃を払いながらの金額なんて、たかが知れてるだろ?それに、たとえ一戸建ての買取り価格が安くなっても、定年後に家賃を払い続けなくて済むのだから、将来の自分からは感謝されるよ。」

賃貸派「でも日本はこれから人口が減少して、住宅需要は賃貸も含めて減少するから、家賃も安くなっていくんじゃない?なら、返済額が決まっている住宅ローンより得になる可能性が高いよ。」

持ち家派「それでも、老後に家賃の心配をしないで済むのは大きいだろ?」

賃貸派「老後はさすがに終の住処を買うよ。住宅需要が減るから家賃も新築一戸建ての購入価格も下がる。今は家を買わずに、浮いたお金を国債やETFなんかの安全な金融商品で運用すれば、老後住むのにちょうどいい小さな家を買えるだけの額になってるよ。」

持ち家派「家を買わずに浮いたお金って言うけど、そうなるとは限らないだろ?だって家賃には大家の利益が含まれるんだから。」

賃貸派「家賃に大家の利益が含まれるかどうかは需要と供給に基づく市場原理が決めることで、大家は市場で決まった価格で貸すことしかできないよ。」

持ち家派「さすがに大家も市場予測をしてから値決めして、その家賃で利益が見込めるから賃貸物件のオーナーになったわけで。利益が含まれないなんて、あり得ないとまでは言わないけど、可能性はかなり低いんじゃない?」

賃貸派「そうかもね。ただ、少なくとも君に家を売った不動産のプロは、僕と同様に市場予測を厳しく見積もっていると思うよ。」

持ち家派「どういうこと?」

賃貸派「だって賃貸で利益が見込めるなら、君に売らずに賃貸物件にした方が儲かるだろ?」

持ち家派「儲かりはしないまでも、トントン位にはなるんじゃない?」

賃貸派「物件の説明会に投資目的の外国人がたくさん来てた?」

持ち家派「来てないよ。」

賃貸派「一戸建ての値段が、投資対象とならないくらい割高なんだよ。今は円安で割安なはず。それでも投資対象とならないのは、日本の新築一戸建てを持つより、日本円をそのまま持っている方が魅力的だからなんじゃない?。安くなっている円にも負けてるのが日本の新築一戸建ての現状なんだと思う。」

持ち家派「外国人が一戸建てに投資しないのは、申請や管理が外国からだと煩雑過ぎるからでしょ。」

賃貸派「確かに。海外からだと、手続き面のハードルが高いね。」

持ち家派「それに住宅ローン減税や低金利なローンの存在も大きいよ。賃貸じゃ控除は受けられないだろ?」

賃貸派「そうだね。でも、それらの優遇措置は銀行のためのもので、住宅ローンを借りた消費者のためのものではないよ。」

持ち家派「ええっ!そんなことないよ。実質、所得税と住民税を払わずに済んでる。金利によっては若干のプラスにもなる。」

賃貸派「そうだろうね。見方を変えると住宅ローンを通じて、税金を銀行に還流させているようなものだよ。そう言う意味で銀行のためのものなんだ。それにローンは変動金利で借りただろ?」

持ち家派「そうだよ。過去の状況を見ても変動金利の方が有利だったし。」

賃貸派「あまりに長期間続いたせいで感覚がマヒしてしまっているけど、低金利をもたらしたゼロ金利政策は、本来は異常な政策なんだ。だから近い将来、金利が存在する正常な状態に戻るのは既定路線だよ。」

持ち家派「でも住宅ローン金利が上がったら、破産したり生活に困窮する人が出てくる。政府がそんなことをするとは思えないな。」

賃貸派「確かに選挙が絡むから政治的に利上げは無理だね。ただ、そんなときのために日銀やFRBのような中央銀行は、独立した機関になってる。日銀が今後も政府の意向に従うかどうかはわからないよ。」

持ち家派「政府の意向から独立だとしても、インフレや円安の現状の中で利上げを積極的に実施するとは考えにくいよ。」

賃貸派「お金を貸し出す銀行側の目線で見ると、年収が同じでも非正規雇用の人に貸すより正社員に貸す方が安心だろ?安心だと感じるのは、正社員に付随した終身雇用、年功序列、退職金といった雇用慣行によるところが大きい。」

持ち家派「正社員だと収入が安定してそうだからね。貸すなら正社員の方だ。」

賃貸派「銀行側からすると、これらの雇用慣行ありきで、お金を貸したわけで、この雇用慣行が壊れたら資金の回収に狂いが生じる。」

持ち家派「?・・・それだと利上げしにくいって話しにならない?」

賃貸派「厳しい解雇規制を含む日本型雇用慣行は、日本経済の長期低迷の要因とも言われている。」

持ち家派「?・・・話しが見えないなぁ?」

賃貸派「勿体ぶって悪いね。ゼロ金利政策で大量に貸し出された住宅ローンが重い足枷となって、これら日本型雇用慣行の改革を阻んだ。そして経済の長期低迷を招いた。そう考えられないか?ならこれを逆回転させるには、金利を正常な値まで引き上げればいいだろう?雇用慣行の改革は政治が絡んで進まないけど、政策金利なら建て付け上、政治は絡まない。つまり、金利は上がると言うより、上げるしかないと思うんだ。」

持ち家派「ゼロ金利政策は景気を良くするために行ったんだろ?これだと真逆じゃないか。」

賃貸派「その矛盾は、ゼロ金利政策の目的を『景気のため』から『銀行のため』に変えると辻褄が合うんだ。低金利を謳って大量にお金を貸し出し、変動金利で後から高くして回収する。安さで引き寄せて、たくさん売りつける、商売の基本、合理的だよ。」

持ち家派「そうだとしても、金利を上げるだけで雇用慣行が変わるなんて、ちょっと飛躍し過ぎじゃないか?」

賃貸派「金利を上げれば銀行も住宅ローンの審査を厳しくせざるを得ない。そうなると容易にローンを組めなくなるし、ローンの金利が高ければ、家の購入を諦めざるを得ない。これまで正社員という身分で得られてたプレミアムが徐々になくなって、雇用形態の違いによる差が縮まれば、政治的にも雇用慣行の変革に手をつけやすくなるんじゃないか?」

持ち家派「でも金利が上がって、ローンの返済が滞ったり、生活が困窮したりする人が増えれば、政治も黙っていられないんじゃない?日銀だけの判断で進めるのには限界があるだろうし。」

賃貸派「確かにそうだね。金利のコントロールを誤れば大惨事だ。」

持ち家派「政治的なブレーキが存在する以上、金利を上げるのは今後も難しいよ。」

賃貸派「内側からは確かに難しいけど、外側からならどうだろう?例えば円安とか。」

持ち家派「今の円安は悪い円安とか聞くね。」

賃貸派「アメリカはすでに利上げしてて、金利が高い。金利の低い日本で大量にお金を借りて、そのお金でドルを買ってアメリカの債権なんかを購入すると金利差だけで儲かる。この際、ドルを大量に買うから円安になる。こんな濡れ手で粟のスキームをいつまでも許すと思う?」

持ち家派「確かにそうだろうけど、そのスキームが今の円安の主要な要因ではないよ。」

賃貸派「そうだね。ただ、日銀は為替介入を度々実施してるから、少なくとも行き過ぎた円安は是正すべきと考えてる。でも為替介入に必要なドルなどの外貨はいずれ底を尽く。日銀は円の発行はできても、ドルなどの外貨の発行はできないからね。」

持ち家派「まあ、それは確かに。ただ、金利を上げれば当の日銀も大量の国債を抱えているからダメージを負うでしょ?」

賃貸派「そうだね。日銀はかなり繊細で複雑なオペレーションを行わないといけない。ただ、『金利がある政策』に取り組むという方向性は今後も維持すると思うよ。」

持ち家派「そうなのかぁ。家を買ったのは失敗だったかなぁ。」

賃貸派「持ち家には、賃貸にはない良い点がたくさんあるよ。ただそのせいであらゆる面でパーフェクトだと思い込んでしまう。一戸建ては時間とともに傷んでいく生鮮食品のようなもの。持っているだけで価値が上がるようなことは滅多にない。資産面では不利なのだと一度受け入れてしまえば、何の問題もないよ。」

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