大学教員のお財布事情:ホテル代で家計が死ぬ

大学教員が研究をするに際しては,学会などの用事であちこちに出張(業界用語では旅行)する必要があります。最近はオンライン学会も見られるようになりましたが,ぶっちゃけ学会は学会発表以外の人的交流が目的で行く場なので,オンラインで参加する意味はそれほどないと思っています(だって,研究成果についてはみんな論文で発表しますからね)。じゃあそのお金ってどこからでるの?という疑問が沸くと思いますが,

①大学から支給される研究費
②科研費
③科研費以外の研究助成金
④自腹

のいずれかから支出されることになります。このうち,①は近年びっくりするほど少なくなっているので,あまりアテにできません。筆者の知る限り最悪なのが新潟大学でしょうか。年に2万円という凄い年があったと中の人から聞いたことがあります。

ちなみに,逆に最も恵まれているのはOISTでしょう。中の人に聞いたことがありますが,書くのが憚られるようなぶっ飛んだ金額でした。
(OISTは厳密には私学ですけどね。事実上国立大学ですが・・・)

というわけで,なんとか頑張って外部の研究資金である②とか③を取ってくる訳です。無事に取ることができたら(あるいは①に恵まれたら),少なくともその予算がある期間はホテル代などは支弁できるわけです。はあ,よかったよかった・・・。

とはならないわけです。

結論から言ってしまうと,特定の地域へ出張すればするほど赤字で大学教員の財布が死にます。ここでいう特定の地域とは,具体的には東京と欧米先進国(一部のBRICSなども含む)の大都市です。

なぜかといえば,科研費などの外部資金は大学に振り込まれ,我々は大学経由でそれらの資金を使うからです。その際には,宿泊料などに一定の上限が定められているのが教員の財布が死ぬ原因です。ここでは,大都市から距離がある大きな国立大学ということで,岡山大学の規程を例に挙げて見ましょう。

https://www.okayama-u.ac.jp/user/jinji/syotetuduki/tei/form/ryohisikyuuyoukou.pdf

同規定においては,内国旅行(つまり国内出張)で1日あたりのホテル代は11900円(役職付きだと12500円)と定められています。
また,外国旅行については少しわかりにくいのですが
先進国の特定都市(シンガポール,ロサンゼルスなど)で1泊23000円,甲地方(≒前述の都市を除く先進国)で19700円となっています。

ん?結構十分な金額じゃないの?と思ったそこのアナタは甘い。

例えば,旅行者が少なそうな2024年2月2〜4日の2泊3日日程で(学会は土日が多いですからね)東京都内のホテルを検索してみましょう。一般的には「安めのビジネスホテル」と見なされるスーパーホテルの予約を楽天トラベルで調べてみると・・・

2024年10月3日時点での価格

はい,2泊でほぼ26000円。余裕で上記のホテル代(2泊分)を超過します。
実際には日当2200円/dayが出る(とはいえ,これは外食せざるを得ない分や,電車・タクシー等での細かい移動をまかなうという側面があるのですが)ので,真っ赤ではありませんが・・・。
勿論,場所を23区から外せばもう少し抑えられますが,逆に言えばそういうことをしない限り赤字になる,ということです。

国内旅行はまだいいですね。悲惨なのは外国旅行です。
上記で上がっている特定都市シンガポールで,2泊を46000円(規定の2日分)で賄えるホテルをbooking.comで,同じ日程で,かつシンガポール中心街から半径5km圏内で検索してみましょう。

2泊で5万円未満のホテルで高い方からトップ3(一番上はなんとドミトリー)


上記画像一番下のホテルの部屋の様子

ちなみにお風呂は共用です。
別に観光旅行に行くわけではないのですが,日本の平均的なビジネスホテルより遙かに劣るであろうという想像はつくのではないでしょうか。
(経験則でいうとシンガポールはまだマシで,パリ,バルセロナ,ニューヨークあたりが本当にキツい)

また,シンガポールは治安的にマシですが,あまり安いホテルは普通に身の危険を感じることがあり得ます。部屋に置いていた荷物を取られたなんてのはまあマシな部類です。
一番笑えない話は,売春が違法である中国でドアの鍵を開けてマッサージマッサージといいながら女性が入って来ようとしたという知り合いの体験でしょうか(録画しながら叩き出したそうですが)。はい,ホテルもグルというやつですね。安ホテルあるあるです。

というわけで,ある程度安全かつ学会に備えて休めるようなホテルを探すと・・・非情なことになるわけです。

これは何も岡山大学を含めた国立大学がケチってる訳ではなく,国立大学法人が準拠する国家公務員の旅費規程がそうなっているからです。

上記記事では「解消」となっていますが,(マシにはなりましたけど)解消されたとは言い難い現状です。どうも東北大学なんかはそのあたり頑張ってフォローしようとしているみたいですが,こういう大学はあまり聞いたことがありません。

([旅費]宿泊料の⽀給単価を超える宿泊施設を利⽤する必要がある場合における実費額の⽀給について(2023/7/28更新)という(恐らく内部向けの)リンクがあることから推定できます)

また,諸外国の場合は食費も中々ぶっ飛んでいますので,そりゃあもう大変なことになります。私の行ったことのある範囲で一番キツかったのはコペンハーゲンで,軽く二人で食事(サンドイッチ+コーヒー程度ですよ)をすると7000円位は吹っ飛びました。今は私が行った時よりも円安が進んでいますから,より悲惨ではないかと思います。

ただしフォローしておくと,飛行機代や鉄道代は,極端なことをしない限り必要なだけ支給されます(ビジネスクラス乗りたい!とかは役職付きでもなければ自腹ですけどね)。とはいえ,逆に言えばそれだけです。

大学の教員を目指すアナタは・・・旅行貧乏になることもあり得る,ということは心の隅に止めておいて下さい。知り合いの某国立大学Kにお勤めの教授は,東京出張はカプセルホテルで凌いでおられるそうですからね・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?