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世界樹リプレイ日記(第二階層)

(↓前回の話)


B6F(前編)

B6Fに降りた君たちはモンスターの強さに面食らった。
B5Fでは既に鼻歌を歌いながら散歩出来るほどの余裕があったが、ここでは慎重に進まなければ全滅しかけないほど敵の攻撃は痛かった。
その多くが毒性を持つ生物で、また、毒そのものも強力だった。

君たちは迷宮に入りたての頃を思い出した。
あの時は1日に数回の戦闘が限界だった。何日もかけ少しずつ先に進んだ。そうして第一階層を踏破した。
生きて帰ることが何よりも大事だと君たちは経験で学んでいた。
焦る必要はない。君たちは依頼をこなしたり、以前には倒せなかった敵を退治しながら探索を続けた。

パーティの戦法にしても、君たちは初心に帰ることにした。
前衛を一人にして盾役とし、パーティ全体の被害を抑える戦法である。
最初の頃と違うのは、その時体力のある者を前衛にさせるローテーション形式ではなく、ダークハンターのトルテを前衛に固定させることだった。

トルテは敵を眠らせる剣技を得意としていたが、B6Fのモンスターは睡眠耐性持ちが多く今ひとつ効果を発揮出来なかったこと、トルテはその他にも敵にダメージを与え自身を回復させるスキル―――ドレインバイトを習得していたことからそのような陣形が採用された。

君たちはトルテに負担をかけ申し訳無さを感じていたが、トルテは皆の役に立つのならと思っていた。
問題は、使用する技にあった。
ドレインバイトとは与えたダメージを快楽に変換する技。
相手がモンスターとはいえ剣で切りつけ快楽を得る行為が、お嬢様として貞淑に育てられたトルテにはよほど堪えたのだった。

ドレインバイトを多用するうちに、その快楽に溺れてしまうのではないか。技を使う為に自ら傷付くことを望むようになってしまうのではないか、誰彼構わず切りつけたくなってしまうのではないか…。
そのような不安を抱え、誰にも相談できずにいた。
ただ回復するだけでいいのに、とトルテは心から思った。

B6F(後編)

B6Fから先に進めない。
君たちは第二階層に降りて早々に詰まってしまった。
隠し通路を見逃してしまったのか。
うろうろ。うろうろ。
君たちは何度も同じ道を行ったり来たりしてさまよった。
そうして幾日か過ぎた。
…結果として、単純に地図の書き間違いだった。
地図に壁と記していた場所に扉があった。

前はここは壁だったんだよ!いつの間にか扉が出来てる!
ルゥは言い張った。
トルテは幼子をあやすように力強く頷き、ルゥに非は無いと励ました。
シトラは何も言わず胡乱な目つきでにやにやと笑っていた。
レンリは今日の晩ごはんは何かなと考えていた。
そのような感じで君たちは先へ進んだ。

B7Fに降りて探索を進めていると、不思議な力を感じる水晶のカケラが手に入った。
君たちはこれに良く似たものに見覚えがあった。
扉の前で宙に浮くツタの絡まった鉱石だ。
君たちはその水晶が扉の鍵になると直感した。
君たちはB7Fの探索をいったん切り上げ、前の階層に戻り未探索の場所を進むことにした。

君たちは順調の探索を進めた。
扉の向こうには強敵が待ち構えていることもあったが、その度に撃退していった。
B6Fで道に迷っていた期間にも戦闘を重ね経験を積んでいたことが功を奏したらしい。
君たちはここで強敵に打ち勝つことで更に力を身に着けていった。

成長した君たちは新たな戦法を編み出した。
レンジャーとアルケミストの連携による戦闘開始直後の高火力全体術式。
即ち、不可避の速攻である。
シトラの大爆炎の術式はいまだ練度が低いが、炎に対する造詣を深めたことで威力が増していた。
B6F相当の敵であれば即座に殲滅することが出来るようになった。

大爆炎の術式は強力な分、消耗も激しかった。
しかし、ルゥが新たに覚えた「安らぎの子守唄」によりシトラのみならずパーティ全体の気力を回復出来るようになっていた。
ルゥは子守唄が得意だった。
被弾が少なくなり、ドレインバイトの使用頻度が減った前衛のトルテは、内心で胸を撫で下ろしていた。

B7F〜B8F(卵泥棒編)

B7Fに到達した君たちは執政院から新たな依頼を受けた。
飛竜のタマゴを入手せよ。
B8Fに棲むという伝説の竜の巣から、そのタマゴを持ち帰ってほしいとのことだった。

竜!君たちはその言葉に目を輝かせた。
いかにも憧れの冒険譚の様ではないか。
君たちは今まさにその渦中にいる事に身を震わせた。
特にレンリの食いつきは激しく、頭を揺らしよだれを垂らし腹から大きな音を鳴らしていた。
君たちはレンリが飛竜のタマゴをゆで卵にしてしまわないか注意する必要があった。

かくして、君たちは竜の巣に辿り着いた。
樹海の中に広大な空間が存在し、その奥のほうに飛竜の姿が見える。
圧倒的な存在感。
しかし、飛竜はあたりを見回してはいるものの、君たちの気配に気付いた様子はなさそうだ。
抜き足。差し足。忍び足。
君たちはおそるおそる、竜の巣の中へと足を踏み入れた。

巣の中を探る。見つからないよう慎重に。
巣の中は明るくない。手探りで探す。
がさごそ。がさごそ。
レンリがむずがゆそうに鼻を鳴らした。
くしゃみ一歩手前。
は、は、ハックシy―――盛大に飛沫が噴出されるかと思ったその瞬間!
ルゥが鼻をつまみ、トルテが口を抑え、シトラが首を絞めた。
きゅっ、と音が鳴った。
振り返る。
竜は気付いていなかった。

君たちは安堵のため息を吐いた。
レンリは首を絞めてきたシトラに抗議の視線を送った。
シトラは片目を瞑って舌を出した。
頭に血が上りかけたレンリを、どうどう、とルゥがなだめる…と、その間、巣の中をまさぐっていたトルテが指先で円形の大きな物体に触れていた。
これこそ、君たちが探し求めていたタマゴに違いない!

さて、あとは無事に街へと帰還するだけだ。
君たちはアリアドネの糸を取り出そうとして…やめた。
目の前には竜。憧れの冒険譚のような。
しかし、これほど至近距離にいながら君たちにも自分のタマゴが盗まれたことにすら気付いていない。
―――もしかしたら、鈍いのかも。
君たちの冒険者としての血が騒いだ。

元々、出来るなら戦ってみようという意見で一致していた。
君たちは竜に踊りかかった。
レンリが一撃で吹っ飛ばされた。
これは無理だ。
君たちは一目散に逃げた。
逃げおおせた君たちは無事タマゴを持ち帰ることができたのだった。
…これを機にレンリがしばらく卵料理を食べれなくなったのはまた別の話。

B9F〜B10F(ケルヌンノス戦)

何やらとても強いモンスターがB10Fで通せんぼしているらしい。
その所為で冒険者達はB11Fより下へ進めず困っているとかなんとか。
なんとも迷惑な魔物だ。
迷宮踏破を目的とする君たちにとっても障害となるだろう。
懲らしめてやらねばなるまい。
君たちは二つ返事で討伐依頼を受けることにした。

君たちは樹海を進み、そして出会った。
密林の最奥。
森の中に自然と出来た小部屋のような空間。
緑の木々の中心に、それは居た。
いかにも「通せんぼしています」といった佇まいをしていた。
なるほど、これは邪魔なわけだ。
君たちは納得した。
君たちが倒すべき魔物、ケルヌンノスに違いなかった。

密林の王。
古き神の名を冠した獣。
多くの冒険者を屠ってきた最凶の魔物。
その強さは如何ほどか。
君たちは緊張した面持ちで挑み、そして…拍子抜けした。
思い出したのはB8Fで一瞬だけ剣を交えたあの飛竜。
明らかにそちらの方が格上だった。
君たちはケルヌンノスを見下ろした。
捕食者の目をしていた。

飛竜には遅れを取ったものの、君たちは第二階層においても成長を続けていた。
ルゥは『癒しの子守唄』を極めていたし、新たに『蛮族の行進曲』を覚え既に熟達の域にあった。
これにより普段なら耐えられないようなダメージを受けても平気でいられるようになった。
ケルヌンノスの攻撃も、痛くなかった。

密林の王が何度も仲間を呼ぶ。
助けを求めるかのように。
しかし、現れる度にシトラが即座に焼き払った。
あえぐようにトルテに襲いかかる。
トルテはドレインバイトで即座に回復した。
決死の形相で睨み付ける。
トルテはさらりと受け流す。
…既に大勢は決していた。
雷の術式を受け、密林の王は地に伏した。

迷宮は弱肉強食である。
強い者が生き、弱い者は死ぬ。
その差は簡単に縮まることはない。
しかし、そのような世界で、君たちの牙は、既に密林の王を難なく下すほどまでに磨かれていた。
実感はなかった。
君たちは内心驚いていた。

なかば呆然としながら、ケルヌンノスが立ち塞がっていた場所を見やる。
第三階層への階段だ。
この街では、二人の例外を除き第三階層へ到達した冒険者はいないと言う。呆然としている場合ではない。
殆どの冒険者が見たことのない景色が見れるのだ。
逸る気持ちを抑えながら、君たちは下へと下った。

美しい。
君たちの胸に去来した想いは、それに尽きた。
薄暗い迷宮にあって、色とりどりの花や枝が鮮やかに煌めき、それぞれがぼうっと光を放っている。
珊瑚礁の海。
それはまるで蒼玉《サファイア》や紫水晶《アメジスト》のような。
君たちは息を呑み、その美しさに我を忘れてしばし見惚れるのだった。

→(閑話・樹海の戦士Ⅰに続く)


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