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世界樹リプレイ日記(第三階層)

(↓前回の話)


B11F(ブシドー加入編)

君たちが第三階層への入口を開放したことで、執政院は調査に乗り出した。しかし、既に数名の兵士を送り込んでいても彼らだけでは心もとないらしい。君たちが駆け出しの頃B1Fで警備を続けていた兵士は頼もしく見えたものだが。地図の作成なら望むところ。君たちは依頼を受けることにした。

酒場でジュースを飲みながら今後の探索について話していると、君たちの元へ訪ねる者があった。

最近第二階層を踏破したギルドとは貴公達のことだろうか。

またか、と思いながら君たちは頷いた。
近頃、こういうことがよくあった。

第三階層に到達した君たちはエトリアでも上位の冒険者とされていた。
であれば当然、そのおこぼれにあずかろうとする者は現れた。
迷宮を踏破すれば富と名誉が約束されている。
運良くそうなった時、ギルドに籍を置いてさえいれば僅かでも分け前をもらえるだろう。そんな魂胆を持つ者は後を絶たなかった。

君たちに声をかけるのは、とりわけ採集が得意な者が多かった。戦闘や探索には参加しないが採集する時だけパーティに加わる、と。
確かに、そういった人材がいれば効率良く素材集めが出来る。
かつては伐採(採取)について学んだ君たちだったが、今やその知識を辛うじて覚えているのはレンリだけだった。

だが、このギルドへの加入条件は変わっていない。
職業不問。能力不問。ただ冒険を楽しみたい同志よ来たれ。
それを満たす者は現れなかった。
加えて言うならば、君たちは現状戦力に不満がなかった。
盾役のトルテ、回復役のルゥ、支援役のレンリ、属性攻撃役のシトラ。
この4人のままで良いと思っていた。

そんなわけで、最近は誰が来ても断ろうと思っていた。
しかし、今、君たちの目の前にいる人物はこう言った。

貴公達の冒険に参加させて欲しい。

ギルドに入りたいではなく冒険に参加したいと。
しなやかな銀髪に赤い瞳をした彼女は、アサギと名乗った。
最近ギルドに登録が可能となったブシドーだった。

聞くところによると、アサギは記憶喪失だと言う。
自分の名前と、自分がブシドーである以外の記憶が無い。
自分がどうしてエトリアにいるのかもわからない。
ただ、かつての自分は様々な武術が使えたような、戦いに明け暮れる毎日を送っていたような、そのようなおぼろげな感覚だけが残っている、と。

昔は私も冒険者だったのかもしれない。
だからこの地にいるのかもしれない。
いずれにせよ、冒険の中で記憶が戻るかもしれない。
かつての武術も思い出すかもしれない。
その為には深層で経験を積むのが早いだろう。
だから恥を忍んでお願いしたい。
貴公達の冒険に同行させて欲しい。
アサギは頭を下げた。

いかに熟練の冒険者と一緒でも練度が低いまま深層に潜るのは危険だ。
それを伝えるとアサギは頷いた。

死は全く怖くない。一番恐れるのはこの身に宿す技の数々が完全に風化してしまわないかということだ。

そう言えばブシドーは死を美徳とする精神性を持つんだっけ。
君たちはどこかで聞いたことを思い出した。

冒険に対する熱意の有無で言えば、間違いなく有った。
しかし、それはあくまで記憶の手掛かりとしてだ。
今の4人のような迷宮への純然たる興味や好奇心とは違っていた。
かと言って記憶喪失の彼女にそれを求めても難しいだろう。
彼女は自分が何が好きだったのかすら思い出せないのだ。
君たちは逡巡した。

入団テストをします。

出し抜けにルゥがこう言った。
酒場の真ん中に躍り出ると、突然歌い始めた。
古今東西の冒険譚だ。
その中には、これまで迷宮を歩いてきた自分達のことも(3割増しで美化して)含まれていた。
ルゥの歌は以前とは比べ物にならないほど上手になっていた。
酒場は大いに盛り上がった。

歌を終えたルゥは尋ねた。
どうだった
アサギは少しの間を置いて答えた。
聴き惚れた。流石熟練のバードだな。
それになんというか、…気分が高揚した。
今、とても刀を振るいたい気分だ。

これまで無表情だったアサギの表情が崩れた。
頬に赤みがさし、柔らかく笑った。
君たちにはそれだけで充分だった。

こうして君たちに新たな仲間が加わった。
最後のピース。純粋な攻撃役。
4人パーティだった君たちの5人目の枠として。

では、早速冒険者登録の手続きに向かうとしよう。

そう言ってアサギは歩き始め――すてん、と何もないところで転んだ。
思い切り頭を床に強打する。
物凄い音がした。
君たちは慌てて駆け寄った。

アサギは何事もなかったように立ち上がって言った。

有難う。大事無い。
ところで貴公達は誰だ?ここはどこだ?

アサギはきょろきょろとあたりを見回した。
どうやら今の衝撃で記憶を失ったらしい。
…大変な人を仲間にしてしまったかもしれない、と君たちは思った。
シトラだけはいつものようににやにやと笑っていた。

B12F(クイーンアント戦)

新しい仲間を加え、君たちはB11Fの探索を開始した。
迷宮を進むにつれ、アサギはめきめきと成長した。
最初はまるで素人のような動きだった筈だが、短時間で並の冒険者ぐらいには動けるようになっていた。なるほど、もしかすると、かつては熟練の戦士だったのかもしれない、と君たちは思った。

しかし、そう簡単に第一線で活躍できるほど迷宮は甘くなかった。
もともと防御力の欠ける職業(クラス)であることも手伝い、しばしば敵の凶刃に倒れた。アサギが加入して以降、メディカとネクタルの消費量は確実に増えていた。

すまない。足手まといになっている。
アサギは謝った。
君たちは気にしなくて良いと励ました。
誰でも最初は実力が不足している。そしてその不足を補う為に仲間がいる。第一階層から迷宮を歩き進み続けてきた君たちがそれを何よりも知っていた。

アサギの成長はめざましい。そう遠くないうちに他の4人と同程度の強さを身につけるだろう。その時が楽しみだと君たちは笑った。
アサギも口角をわずかに上げてかすかに微笑んだ。

B11FとB12Fの地図を完成させた頃、君たちは巨大なアリの巣に足を踏み入れた。女王アリと思しき巨体の後方にはB13Fへ続く階段があることが見て取れた。この先に行こうとするならば、彼らとの戦いは避けて通れないと直感した。君たちは覚悟を決め、女王アリの前に立った。

クイーンアントの最初の一撃でアサギは倒れた。
構える間もなかった。容赦無く薙ぎ払われた。
起き上がることの出来ないアサギを手当する余裕もなかった。
配下のアリが津波のように押し寄せて来ていた。
君たちはまず目の前の敵に対処する必要があった。

押し寄せるアリの猛攻を凌ぎながら反撃する。
君たちは先に配下のアリを一匹ずつ退治しようと試みた。
しかし、このアリ―――ハイキラーアントは一匹一匹がF.O.E.であり打たれ強かった。トルテは敵を石化させる剣技カタストロフを身に着けていたが、この敵に効きにくいことはここまでの道中でわかっていた。

シトラが大爆炎の術式を発動させる。
第二階層までは猛威を振るっていたこの術式は、キラーアント相手では表面を焦がす程度であまり効果は見込めなかった。
しかしシトラが使える全体術式はこれしかない。
効きにくいとわかっていても、複数相手ではこれを使うしかなかった。
シトラは歯噛みした。

倒しても倒しても、アリは次から次へと湧いてきた。
やはり狙うは親玉。
君たちは攻撃をクイーンアントに集中させた。
トルテが刺突を繰り出し、ルゥとレンリが矢を放ち、シトラが術式を発動させる。クイーンアントが倒れ、アリの増援はぴたりと止んだ。

その様子を、アサギは倒れながら、ただ見ていた。

この戦いにおいて、アサギは完全に戦力外で、蚊帳の外だった。
自分がここにいる意味は何もなかった。
敵と、仲間との実力差を改めて痛感させられた。
涙が溢れた。悔しくて、拳を握りしめようとして、しかし身体はぴくりとも動かなかった。それが却って惨めで、アサギは小さく嗚咽を漏らした。

戦況が落ち着いた頃、レンリがアサギに駆け寄り手当を施した。
ふらつく足で立ち上がる。
残るは一匹。
せめて一太刀浴びせようとして、…頭の冷静な部分が防御を選択した。
敵はアサギを狙って攻撃を仕掛けてきていた。
よろけた拍子に攻撃が外れた。避けたのではない。たまたま当たらなかっただけだった。

ルゥが最後の一匹を射抜き、戦闘は終わった。
この戦いの中で君たちは多くの経験を得た。生き残ったのは僥倖だ。
しかし反省点も山程ある。
君たちは手早く周辺を地図で記し、B13Fに続く階段が使えることを確かめると、アリアドネの糸を使って街へ帰還するのだった。

閑話(編成の見直し編)

君たちがクイーンアントを撃破したその日の夜、長鳴鶏の宿では轟音が鳴り響いていた。アサギが土下座と共にガンガンと頭を床に打ち付ける音である。

誠に!申し訳ない!
私は!自分が!情けない!

要約するとこのような訴えだった。
とりあえず近所迷惑になるので君たちは慌てて止めさせた。

アサギはあの戦いで感じたことを洗いざらい吐き出した。
力不足を痛感したこと、悔しかったこと、悲しかったこと。
そして、もう一度挽回するチャンスが欲しいと思ったこと。
恥の上塗りは重々承知、それでも、今後も迷宮探索に同行したい、今日の失態を取り返したいと、アサギは改めて頭を下げた。

その様子を見た君たちは、…嬉しく思った。
見るからに気落ちしていたアサギが、もしかしたら、ギルドから除名して欲しいと言い出しかねないと、そう思っていたから。
しかし、敗北を喫してもなお立ち上がる、そのくじけない心こそ、まさに冒険者向きの資質だった。
君たちはアサギの手を取り、頷いた。

そもそも、敵にやられて起き上がれないまま戦闘が終わるなどよくある話だ。君たちが今までどんな風にやられてきたか、ルゥが語りだす。
そんな事もあったね〜と笑い合う。
そう、こんな事は笑い話だ。生きてさえいれば。
迷宮での失敗談は夜通し続き、この日を境に、君たちの結束は更に強くなるのだった。

とはいえ、笑ってばかりもいられない。
反省点は見直すべきだろう。
今回のことは練度の低いアサギを前衛に置いていたことにも非があった。
そのため、今後しばらくアサギは後衛に立つこととなった。
アサギは何か言いたそうにしていたが、しぶしぶ従った。
その代わりとしてルゥが前衛に立つことになった。

次に、シトラの術式を見直すことになった。
シトラが大氷嵐の術式を使えていれば戦いはより楽になっていただろう。
シトラは火の術式を編むことに長けており、ゆくゆくは火属性を極めるつもりでいたが、そのことがかえってアダになったと言える。
零から学び直すため、シトラは休養を取ることになった。

アサギも体力づくりの為に休養に入った。
残る3人も休養を検討したが、全体の戦力が下がる事を考慮し今回は見送った。その間、ルゥは久しぶりの前衛となるため剣の素振りをし、レンリとトルテは近くの川で釣りをして過ごした。
休養のようだが、魚との真剣勝負だから休養ではないという理屈らしかった。なんとも都合の良い話だった。

B13F(ゴーストパニック編)

B12Fまでの地図の完成を報告した君たちは、深層に謎の生物がいるという情報を入手した。未知の生物!それは人と同じような形を象り、ともすれば人語を解すと言う。君たちの胸は高鳴り心躍った。とりわけシトラは知的好奇心を刺激されたようで、鼻息を荒くして珍しく興奮しているようだった。

B13Fに下りて少し進むと、視界の広い場所に出た。
目の前にはゆったりと流れる小川があり、ささやかなせせらぎの音が君たちの心を和ませる。
リーダー兼マッパー(地図係)のルゥはいまだ不器用な手付きで、懸命に地図を書き起こしていた。
君たちは小川に流れる水と同じくらいにゆっくりと先を進んだ。

深く青い迷宮を歩く。そうしていると、ふと気配を感じる事があった。それは紛れも無い殺意であり、これまでの経験で君たちはそれをF.O.E.と判断した。しかし、近付こうとするとその気配はたちどころにフッと消えてしまう。痕跡すら残さず、突然に。

――もしかしたら、幽霊かも。

シトラはぼそりと呟いた。

迷宮には幽霊がいる。
その手の怪談話は冒険者の間では定番の話題の一つだった。
何しろ迷宮には数多くの冒険者の屍が眠っている。
その無念が怨念へと変わり生者を死へ誘う亡霊と化し、肉体を求め夜な夜な迷宮を彷徨い続けている…などといった話は、もはや耳にたこが出来るほどありふれた話だった。

実際、目撃例も数多くあった。
大方それは極限状態がもたらす幻覚だったのだろう、というのが通説ではあったが、存在を否定できる確たる証拠はないのもまた事実であった。
冒険者達は幽霊はいる派といない派に分かれ、結論の出ない論争を度々繰り返しては酒の肴にするのだった。

君たちはどちらかと言えば幽霊はいない派だった。
今日ここに至るまで目にすることがなかったのが何よりの理由だ。
しかし現状の、急に表れ不意に消える殺意も、これまで感じたことが無いものだった。君たちはまさかと身を震わせた。
きっと気のせいだよ、と気丈に振る舞うルゥの声には怯えが滲んでいた。

君たちは身を寄せ合いながら進んだ。トルテは露骨に泣き顔を浮かべ、レンリは前を行くトルテの裾を掴んでいた。アサギは幽霊などいるわけなかろうと嘯いたが足は震えていた。シトラはにやにやしていた。君たちが期待通りの反応をしてくれたことにご満悦な様子だった。この女はそういう所があった。

幽霊の正体はほどなくして判明した。カニである。冒険者がモンスターと接敵している時にのみ忍び寄ってくる、カニ。君たちはほっとした。相手が生物ならば、斃せる。君たちは、君たちを怖がらせたお礼をたっぷりとしてやった。妙に硬くて、物理攻撃が軒並み効きにくいところがなおさら腹立たしかったという。

B14F(水上ボート編)

B14Fに到達する。目の前には一面の湖が広がっていた。湖の底では危険な魔物達がひしめき合い、エサが落ちてくるのを今か今かと待ち受けている。泳ぐのは自殺行為だった。君たちは途方に暮れた。どうしようと悩んでいると、レンリが水面に浮かぶ巨大な桃色の花をつんつんと指でつついていた。

レンリ、危ないよ。

君たちは声をかけた。桃色の花びらは、人間をまとめて数人は包み込んでしまいそうなほど巨大だった。その異様さは、君たちに食虫植物を容易に連想させた。そんな如何にも怪しい花びらの上に、何を血迷ったのか、レンリはぴょんと飛び乗った。悲鳴が上がった。

レンリ!?

君たちは慌ててレンリに手を伸ばした。が、当の本人は至って無事であった。湖に沈むことも花に食われることもなかった。花びらの上は思いの外居心地が良いのか、やがてレンリはぺたんとその場に座り込み、欠伸をした。そのまま毛づくろいでも始めかねないような、猫のような気ままさだった。

レンリがちょいちょいと手招きする。

―――これに、乗れというのか。

揃ってハンドシグナルを送る君たちにレンリはこくこくと頷いた。君たちは顔を見合わせた。確かに、この巨大な花びらはレンリが乗ってもびくともしなかった。舟として使えば湖を渡れるかもしれない。進むか、退くか。二つに一つだった。

君たちはレンリの野生の勘…もとい、レンジャーとしての勘を信じた。全員が乗ると、いかなる原理か、ひとりでに動き始めた。感嘆の声が上がる。君たちを乗せた花びらは、滑るように水面を進んだ。君たちはつい先程まで感じていた恐れも忘れ、高揚し、心弾んだ。君たちは、まさしく冒険の中にあった。

しかし、意気揚々としていたのも最初だけだった。マッピングしていたルゥが音を上げた。

もうわかんないよー!

ルゥは大きく手を広げ大の字に寝転んだ。桃色の花は各所に点在し、それぞれが決まった場所に君たちを運んだ。どの花がどこへ流れるのか。不器用なルゥはすっかり混乱してしまったのだった。

元々ルゥは地図を書くのが得意ではない。しかし、本人たっての希望で、駆け出しの頃から地図係をやることになっていた。それはリーダーだから、などという殊勝な考えでなく、ただ単に楽しそうだったからという理由に尽きた。そのルゥが音を上げた。『もうやだ!トルテやって!』ついでに駄々もこね始めた。

ご指名を受けたトルテは困惑しながらも紙とペンを受け取った。探索を再開する。ルゥが詰まっていた部分をさらさらと書いていく。見やすく、簡潔に。繊細で優しい筆使いで。おお〜と声が上がる。トルテは良家に生まれついたこともあり、教養があった。地図を書くのは初めてだったが、充分な出来だった。

わいわいと持て囃されるトルテを見てルゥは頬を膨らませた。ルゥは『やっぱりやだ!私やる!』と筆記道具をひったくった。
どうやらすっかり拗ねてしまったらしかった。

が、それからしばらくして。ルゥはトルテにこっそりと耳打ちした。

…あとで地図の書き方、教えて。

トルテは勿論と頷いた。

B15F(コロトラングル戦)

君たちは順調に歩みを進めていた。以前手にしたものと良く似た紫水晶を手に入れ、今まで行けなかった場所に行けるようにもなり、新しい編成にしたことでアサギが倒れることも少なくなった。強敵に囲まれた時も力を合わせ何とか乗り越える事ができた。

そんな折だった。出会いは不意に訪れた。

その肌は雪のように白く、瞳は血のように赤かった。
緑褐色の髪は背中まで伸び、まだ幼さを残した少女のようにも見えた。
人ではない生物。彼女がそうなのだろうか?
まじまじと見つめる君たちに彼女は告げた。

警告する。これ以上この森の中に足を踏み入れるな。

敵意を剥き出し、君たちを睨み付けた。

少女は君たちを脅すような言葉を残し、姿を消した。この警告を無視すれば君たちの命はないと言う。しかし、そう言われて大人しく引き下がるほど君たちはお利口ではなかった。未知との遭遇。世界樹の謎を解く鍵に他ならない。君たちは樹海の奥に潜り調査する必要性を改めて感じ取り、彼女の後を追った。

B15Fを降りて辿り着いた先。森の中に海が出現したかのような、一面の青。その広大な空間に、少女は佇んでいた。人に似た、それでいて異なる者。だが、彼女の言葉を、君たちは理解していた。言葉が通じるならば、意思の疎通も可能かもしれない。そう思った君たちはゆっくりと近付いた。しかし。

彼女は君たちの姿を認めると、強い言葉で非難してきた。同時に、辺りに高く響く口笛を吹く。すると、樹海の奥、霧がかった先から巨大な生物が飛来してきた。問答無用だった。少女は再び姿を消したが、それを追っている暇はなかった。未曾有の脅威に対し、君たちは剣を取る以外の選択肢がなかった。

コロトラングル。深海に棲まう海鷂魚(エイ)と良く似たこの魔物を、少女はそう呼んだ。六枚のヒレを翼のようにはためかせ、空を縦横無尽に駆け巡る。まるで水中を泳ぐかのように、雄大に。圧倒的な存在感が、先のクイーンアントを彷彿とさせた。しかし、それよりも尚強大であることは間違い無かった。

コロトラングルの巨体がうねり、猛然と襲いかかった。狙いはアサギ。長い尾ビレが、まるでムチのように。衝撃。肉が弾け、骨が軋む程の。一撃で意識を刈り取られかねない攻撃に、しかし、耐え切った。

―――間合いがあと半歩近ければ、死んでいたな。

アサギは深手を負いながらも、自身を冷静に分析していた。

この戦いにおいても、アサギは後衛に立っていた。それが今の自分には分相応だと思っていたし、事実そうだったと今の一撃で改めてわかった。であるならば、今出来る精一杯のことをするまでだ。アサギは刀をゆらりと掲げた。青眼の構え。常より間合いが遠くとも効果を発揮する技、小手討ちを放つために。

コロトラングルを視る。体の動き。筋肉の収縮。器官から内臓の位置を推測する。ここだ!アサギは大きく一歩踏み出し、刀を振り上げた。浅い。だが構わない。元々後衛に居てはダメージに期待出来ない。狙いは敵の攻撃力の低下。戦力を削る事。―――それは成功した。コロトラングルの動きが、鈍った。

アサギの小手討ちは的確に急所を突いていた。コロトラングルは動きにくそうに身をよじらせている。チャンスだった。君たちは一斉に、果敢に攻めた。コロトラングルの動きは精彩を欠き、繰り出される攻撃も先程までの勢いが失われていた。形勢は君たちの方へ傾いていた。

天空より矢が飛来する。レンリの放ったサジタリウスの矢が敵を穿った。間髪入れずトルテが剣を振り下ろす。反撃。巨体がトルテに迫る。その攻撃後の隙を突いたルゥの剣が深々と刺さった。致命の一撃《クリティカル》。追い討ちをかけるようにレンリが二本の矢を放ち、シトラが雷の術式を発動させた。

君たちの猛攻を受け、コロトラングルはその巨体を大きく仰け反らせた。毒の症状。シトラの放った毒の術式が効いていた。痙攣を起こし、陸に上がった魚のように中空をのたうち回り―――やがて、地に墜ちた。地響きが鳴り響く。起き上がる気配はない。見事、君たちは、此度も生き残ることができたのだった。

→(閑話・クイーンアント再戦に続く)


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