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【短歌】青森に|文語の定型短歌を詠む 37


心の臓突如止まりて帰天せりペトロ川村英成神父

厨房に響きし異音に馳せ入れば砕けしグラスと川村神父

七日前神父の立てし昼ミサに最後と識らずあずかりし我

青森に生まれ育ちし人なれば言葉少なに温かき人

謙遜と祈祷と奉仕に生きたまへり 聖ベネディクトの良き弟子たりし


2013年11月詠 『橄欖』2014年9月号(特別付録の2月号)初出


Father Kawamura が心臓発作で倒れたという英語のメールは三位一体ベネディクト修道院長のローマン神父様からだった。I heard a clashing sound in the kitchen, and ran, then found Father Kawamura on the floor, with broken pieces of glass scattered all about him.

当時、平日には名古屋で仕事をしていたのですぐにかけつけることはできなかった。次の週末には葬儀ミサだった。ご遺骨は修道院が八ヶ岳に移転する前に川村神父様が長く過ごした目黒の聖アンセルモの納骨堂に納められた。

寡黙な方だった。ミサのお話も短く、ゆっくりだったが、言葉と言葉の間に青森の海が見えるような故郷の思い出話をよく交えて語られた。微笑みが、とても温かい方だった。

神父様たち数人を拙宅にお招きして日本食でおもてなしをした日、デザートに井筒屋のいちご大福をお出しした時のことを思い出す。

塗りの銘々皿に黒文字を付けて供したのだが、ローマン神父様が How do I eat this? (これ、どうやっていただくのだろう?)という表情で川村神父様の方をちらっと見た。

川村神父様は黒文字を無視して素手で大福を取り、そのまま大きな口を開けて「がぶり」と噛みついた。目を細めて美味しそうに召し上がり、ローマン神父様も安心してそれにならった。

井筒屋のいちご大福