道

刹那をとどめる

本が読みたくてカフェに入った。窓際のカウンター席に座る。一面ガラス張りの大きな窓だけど、目の前にトラックが止まって作業をしているので人の視線を感じることはない。本を読むのに集中できるいい席。

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本を読み終えてふと顔をあげると、トラックがいなくなっていた。いつもの私だったら人の気配に落ち着かなくなって、すぐに席を立っていただろう。でも、本を読み終えて心のガソリンが満タンになっていたので行き交う人を眺める余裕があった。

右へ左へ。たくさんの人が現れてはいなくなり、いなくなっては現れる。
手を繋いで歩く幸せそうなカップル。紫色の髪をしたお姉さん。父と同じくらいの年齢のサラリーマン。スマホを凝視しながら歩く若者。杖をついてゆっくり進むおばあさん。肩を落として歩くお兄さん。

ああ、色んな人がいるなぁ。
落ち込んだとき、うまくいかないとき、はたまた絶好調なとき、この世界には自分のことを理解できる人なんて存在しないのではないかと思ってしまう。世界から私だけ切り離されたような気持ちになる。

さっき私の目に10秒だけ写った彼らがどんな考えの持ち主で、どんな人生を歩んできて、どんな苦労をしてきたのか私は何も知らない。そしてそれは彼らも同じ。私のことを何も知らないし、多分これから知り合うこともないのだろう。
それはとても悲しいことだけど、仕方のないことでもある。

だから私は、自分と誰かの人生がすれ違う一瞬を大切にできる人になりたい。
もし、あなたと私の人生が交差する奇跡がおこるなら、最終的に分かり合うことができなくても、そのために最大限の努力をすることをここに約束します。

これを読んでくれているあなたと出会えることを願って。

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