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創業した大学発ベンチャーのCEOを辞任した理由

私は、2023年4月に創業した東大発ベンチャー、株式会社SOELで代表取締役を務めていました。過去形なのは、この記事を投稿した2024年1月16日の前日、つまり1月15日に、代表取締役を辞任し、そのまま平の取締役になることもなく会社を退職したからです。株式もすべて売却いたしました。一応、私が立ち上げた分を株価で応えていただいたので、Buy outということになるのかな?(えらい短期間のBuy outだが)

創業間もないベンチャーでなぜそのようなことになったのか?

SOELは、太陽電池(非理系だと蓄電池を思い浮かべる人が多いみたいなのですが、太陽光パネルの側です)を薄く・軽く・持ち運べる形に開発・製造・販売する会社です。

薄く・軽く・持ち運べる、ローラブルシリコン太陽電池

私は、太陽電池は分散型エネルギー供給のために生まれた技術だと考えています。現在は古くからのエネルギー生産・供給の型が集約型であるため新しく現れた技術である太陽電池も集約されていますが、それが災害や景観の問題を引き起こしています。太陽電池そのものというより、過度に集約させることが問題を引き起こしているのです。

私がSOELでやりたかったことは、太陽電池の本来の特性を存分に活かし、利用場所で利用する分だけ発電するシステムと、それをスタンダードに作り上げていく、仕掛けを提供する社会を作ることでした。そのために各産業でユースケースを作り、各産業向けの仕様を細やかに製造・販売できないかと考えていました。

但し、このやり方だと事業計画上の数字が伸び悩みます。誰もが半端なく物量が大きいと信じている産業を選ぶか、あるいは、1件あたりの設置面積を大きくすることが必要になります。
前者はユースケース次第ですが、後者は確実に集約モデルです。事業計画を考えると、結局、集約になるのです。

山に大量に集積させた太陽電池(太陽光パネル)

これをよしとするかしないかが、私と共同経営者の目線が合わない点でした。
まずは資金を得るためにこうした案件・産業で事業を育て、そのあと分散型に挑戦する、というのが一般的な考え方ではあるでしょう。
しかし「まずは」で向かう集約モデルは、私の志とあまりに反するものであり、私が代表取締役という重責による各種リスクとストレスを抱えながら遂行できる内容ではない、と判断しました。

汚い言い方をすれば、この方向に振り切るなら「高額年収で愛着のない事業の雇われ社長をやった方がマシ」です。私が考える社会構造と逆行する事業は、私が経営をするのは無理がありました。

これが私が、代表を辞任した理由です。


ちょっと話を変えよう

というわけでちょっと話が変わるのですが。

技術の事業化をするとき、
いきなり壮大な事業計画を机上で書き
いきなり数千万~数億投資して、または助成金を得て
やっぱり上手くいかなかった、となる、やつ。
ゼロから事業を立ち上げたことのある人には伝わる(どころか逆に強く警告されるくらいな)のに、そうでない人にはこれがまずいとほんとうになかなか伝わらない。いい加減なんとかならないでしょうか。

私の狭い観測範囲の中ではありますが、拙速に作られた遠大な事業計画は事業計画書としてはきちんとしていても、足元のユースケース開発がおろそかであり、どこにどう売るかといったところまでまず考えられていません。それを考えるのを売りにしているコンサル会社にいたこともありますが、世界中から成功事例の写真を集めて資料に貼り付けていくだけでした。その成功事例をクライアントの誰がどう追うのか考えられてないし、考える予定もリソースもありません。そして、世界にない成功事例は描けません。

誰もやらないニッチを1点攻めするのは小さな集団が大きな集団に勝つための戦略の基礎のはずで

ランチェスター戦略の本(大量)

では、誰もやらないニッチとはどこで本当にそこに金を払うほどのニーズはあるのか、そのプレイヤーは具体的にだれか
そんなこと一つ検証しないで3年後100億円とはどういうロジックなのでしょうか。(SOELが3年後100億と言っていたわけではありません。なにしろ私が書いていたので…これまでにあった新規事業の話です)

こうした数字はきちんと何らかのロジックで書かれてはいるんですが、それって本当にロジックなんでしょうか。つまりなんというか、書いてる人は信じてるんでしょうか。そこがいまだにわからず、「やるしかないんだよ」と言う人たちが「ここは〇〇の村です」と繰り返し伝え続けるドラクエのNPCのように見えてしまう時があります。

アイディア、ユースケース、デザイン、用途開発etcをしっかりやることはそんなに難しいでしょうか。小さく始めるフェーズがないと計画の大きさのわりに緻密性が足りなくて回らないように見えます。
大企業社内稟議だと要求目標売上高が高いとか、小さなユースケース開発が今期の目標設定として認められないといった理由から来ると想像できるんですけども、そこそこ経験豊富なスタートアップでもやってしまうところを見てしまって、戦略って思ったより根付いてないんだなとショックを受けました。

TAMとか調べることが戦略ではないよ。


最後に

それはそれとして、
題名を見て株のシェアがどうとか株式譲渡に関わる骨肉の争いとかを読みたかった方もいると思いますが、それを書けるほど私はまだ世の中を信用してないので、いずれ機会があれば。

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