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【原チャリで行こうぜ!】 2001道北編 vol.5 〜通学用スクーターで北海道に向かってしまった件


4日目:2001年7月31日(火)

燃え尽き症候群な朝

6:30
起床。

稚内森林公園キャンプ場は朝もやがたなびいている。

まずは、トイレに行って、テント撤収作業開始である。
昨日の夜はかなり派手に雨が降っていたが、今朝の天気は曇りである。
雨がやんで本当に良かった。
しかし、雨でびしゃびしゃになったテントを撤収するのはなかなか大変な作業である。
撤収作業に若干手間取ったので、まずは出発して、途中で朝食を食べることにしよう。

7:50
大阪出身の優しいお兄さんライダーと写真を撮ってスタート。
「昨日はありがとうございました。とっても楽しかったです!」
優しいお兄さんは笑顔で手を振って見送りをしてくれた。
Dioのメーターは2575kmである。

稚内森林公園キャンプ場は稚内の街を見下ろす高台に位置している。
急坂を下りながら、海が見えてきた。
そして、花がとってもきれいだ。
途中、何かの記念碑の前で写真を撮ってみたりしつつ、稚内の街に下り立った。

国道40号線を走り出したのはいいが、なぜかテンションが上がらない。
気温がかなり寒いことに加え、昨日頑張り過ぎてフラフラなのと、宗谷岬にたどり着いてしまって、気が抜けたのかもしれない。

実は今朝スタートした時点で、行き先さえ決まっていなかった。
まさに、風に飛ばされていく落ち葉のごとくである。

国道238号線でクッチャロ湖を目指すか、それとも国道40号線で南下して名寄を目指すか?
優柔不断のまま国道238号線と国道40号線の分岐の交差点に入ってしまった。
その瞬間、オレは国道40号線の名寄方面にハンドルを切っていた。
まさに一瞬の判断であった。

ゆるいアップダウンを走りつづける。
今日はなぜか、全くやる気がしない。
こういう時は、シートに座るおしりのポジションさえなんか決まらず、落ち着かない。
なんかいろいろなことが気になって集中力散漫である。
次第にこう考えるようになってきた。
「走ってれば、こんな日もあるんでしょう!」

走れば走るほど、寒くなってきてガクガクと震えてきた。
オレは本職ライダーでないので、相変わらず、きちんとしたライダー用のウエアも持っていない。

国道40号線を南下しながら、頭の中は目の前の風景は目に入らず、さまざまな回想シーンばかりが、浮かんでは消えていった。

昨年(2000年)の9月の北海道原チャリツーリング。
それは、初めての一人旅、そして、まさかの50ccスクーターであった。
やること、見ること、全てが新鮮であった。
たまたま出会った人にめちゃくちゃ恵まれ、本当に楽しくてしかたなかった。

今回は2回目の北海道原チャリツーリングである。
少し慣れて、その新鮮さも薄れてきたのは事実である。
さらに昨日、この旅の目的である最北端に到達してしまった。

オレは今回の旅の目的、方向性を完全に見失っていた。
なぜか、どんなにアクセルを回しても、ただ、ただ、北海道の景色が流れているだけである。

沢木耕太郎氏の”深夜特急5”には次のようなフレーズがあった。
”人の一生には幼年期があり、少年期があり、青年期があり、壮年期があり、老年期があるように、長い旅にもそれに似た移り変わりがあるのかもしれない”

思い起こせば、オレの旅は昨年の9月、いきなり始まった。
そして、すごい濃い、とっても楽しい思い出のストーリーをたくさん経験してきたのであった。
さらに、昨日クライマックスの最北端に到達してしまった。

つまり、オレは旅の幼年期→少年期→青年期→壮年期を一気に駆け抜けてしまったのかもしれない。
少しオレは先を急ぎすぎたのかもしれない。
今のオレは、さすらいのツーリング旅という中において、老年期というフェーズに一気に到達してしまったのかもしれない。

頭の中だけの思考の旅から我に返り、冷静に国道40号線を引き続き南下し続け、豊富町に入った。
まずは、朝食でも頂いて、ほっと一息つこう。

9:03
セイコーマートとよとみ、天塩郡豊富町、洋風弁当、ゆっけジャンワンタン、381円。

9:19
追加で、ジョージア119円を購入。

寒さに震えながら、コンビニの車輪止めに座って飯を食い始めた。

駐車場に1BOXが入ってきて、作業服を着たおっちゃんたちが店の中に入って行くのが見えた。
そのうちの一人が、震えながら飯を食うオレを見て話し掛けてきた。
「にいちゃん、どこから来たのー?」
「えー?神奈川からー?頑張るねー!」

沈んだ気分のオレを、見ず知らずのおっちゃんが励ましてくれる。
単純な性格のオレは優しい言葉にめちゃくちゃ弱い。
なんかうれしくなってきたぞ。

「ガンガン走るぞぉー!」(※加曽利隆さん風)
「よし、気合い入ってきた」

9:38
ホクレン豊富給油所、天塩郡豊富町、2.19L、リッター107円、246円。

国道40号線をさらに走り、天塩町、中川町を通過して、音威子府村(おといねっぷ)へ。

国道40号線沿いに天塩川が見えるのだが、昨日の雨のためか、水がにごっていた。

国道40号線と国道275線の分岐点付近に道の駅”おといねっぷ”がある。
結構走ってきたので、しばしの休憩を。
走って身体が冷えたからか、それとも気温が低いのか、とっても寒い。

国道40号線をさらに南下して、美深町に入った。

12:22
ホクレン咲来給油所、美深町、リッター107円、281円。

12:54
道の駅”ビフカ”、パン2個210円、とうきび250円。

夢のカセットガス変換アダプター?

さらに国道40号線を走ると、いよいよ名寄だ。

昨日の夜、楽しい宴会をしたライダー達から聞いたのだが、キャンプ用ガス器具に使えるすごい変換アダプターがあるそうである。
なんでも、北海道のホームセンターで、たまに他の商品と同様、陳列されているという噂である。
急にそれを思い出した。

一般的に利用されるキャンプ用のガス器具はOD缶といって、それ専用のガスカートリッジが必要である。
ツーリングに出て、ソレを入手することが困難な場合もある。

一方、CB缶(カセットボンベ)はコンビニでもスーパーでも簡単に購入できる。そこで、例の違法?変換アダプターの登場である。
なんと、ソレを使うと、OD缶仕様のキャンプ用ガス器具に、入手しやすい、そして安価なCB缶を使えるようになってしまう。
まるで魔法である、素晴らしい!

話によるとMade in Koreaの商品で、日本の消防法では、アウトらしいそうである。
本当かどうか、毎年暴発してライダーのテントが吹っ飛ばされる事件が発生しているとみんな笑いながら話していた。
というわけで、非常に便利な商品ではあるが、ご利用は自己責任でという類の道具(ギア)である。
まあ、酔っ払って聞いた話なので噂は噂。

早速、例の違法?ストーブ(変換アダプター)を買うために、名寄のホームセンター巡りを開始。
しかし、何店舗か回ったのだが、それらしいものを見つけることはできなかった。
北海道のホームセンター以外では、Yahooオークションでも購入できるという噂。
「よし、関東に戻ったら、インターネットで探してみよう!」

後日談として、とあるルートからソレを入手して、プリムスのストーブにカセットガスを使ってみたことがある。
普通に使えるのだが、Oリングというか、接続部分の精度が若干甘く、横からガス漏れし、少々怖い思いをしたことがある。

まあ、OD缶仕様には、OD缶を普通に使ったほうが良いかもしれないという結論に達したのであった。
しかし、CB缶が使えれば、ガス欠を考えずに、料理できるじゃん!自由だーという夢も感じていたのは事実である。

その後、空のOD缶と満タンのCB缶を接続して、OD缶にガスを充填できる道具があると聞いたが、さすがにそれは怖すぎて、チャレンジしなかったという。
夢のガスストーブアダブターの話はここら辺でお開きということで…。

ホームセンター巡りを終え、またツーリングを再開した。
名寄というと、ひまわりである。
ひまわりを期待していたのだが、あと半月後ぐらいが見頃のようだ。
少しだけでも咲いているとうれしいなと期待していたが、残念である。

14:10
ベストホーム名寄店、使い捨てカメラ417円。

使い捨てカメラの在庫が怪しくなってきたので、追加で購入しておこう。

Dio 50、痛恨のエンジンブロー?

14:38
ホクレン風連給油所、上川郡風連町、リッター107円、1.6リッター、179円。
ここでは、頭が疲労していたのか、渡すお金を間違ってしまった。

ツーリングマップル北海道には、朱鞠内湖について”日本最大の人造湖”と記載がある。
急に朱鞠内湖を見たくなり、風連から日向温泉方面へ向かった。
ここで大アクシデントである。
場所は、道道729号の日向温泉との分岐を過ぎた山の中。

上りでエンジンが「フーウン」という情けない音を立てた。
そして、エンジンパワーが急激に下がってしまったのである。
アクセルを回してもほとんど前に進んでくれない。
上り道を40km/hぐらいで走っていたのだが、10km/hぐらいしか出なくなった。

冷静になって、耳を澄ますと、エンジンは回っているようだ。
エンジンは回るのだが、パワーが全くでないのである。
エンジン焼きつきか?
オレは青ざめた。

「ツーリングもここまでか?」
オレは相当焦った。
「Dioを酷使し過ぎたのか?」

とりあえず、湖拝みに行く場合ではない。
「まずは、下山だ!」
エンジンを15分ほど休ませて、下り始めた。
下りは元気に走ってくれた。

Dioの調子がやばいのだが、日向温泉が気になって向かうことした。
明らかに、意味不明な行動である。
その日のオレは全てがぎこちなく空回りしていたようである。

日向温泉の入り口の道路が工事で通行止め。
「さて、どうやっていけばいいのか?困ったなぁ」

携帯で温泉に電話をしてみると、一周して行かないといけないことが分かった。
しかも、かなり回り道である。
しかし、どうしても温泉に入りたいので向かうことにした。
どうやら、思考回路が壊れていたようだ。

途中の坂道でDioが止まってしまった。
再度、アクセルを回すとかろうじて動き始めた。
時速10kmでどうにか温泉への坂を登りきった。
やっとのことで温泉にたどり着いた。

旅館の風呂を開放している感じで、300円であった。

温泉に浸かってしばしの休憩とホッとし始めた瞬間、石鹸つけたままのオヤジが湯船に入ってくるではないか?
むしろ、石鹸だらけである。
さすがにびっくりして、立腹しそうになったが、まあ、怒ってもしょうがないという境地に達した。

どうもうまくいかない日である。

温泉を出て、駐車場でDioにまたがりながら、ジュース120円を飲みつつ、考え込んでしまった。
「さて、オレ、これからどうしよう?」

Dioが小さく見えた。
まさに、頭文字Dで拓海がハチロクのエンジンをブローさせたときの気分そのものであった。

小原さん(通称:クマさん)なら「何か分かるかもしれない」と思い、電話をしてみた。
「バイク見ていないからよくわからないけど、焼きつきか、プラグかも?」
「名寄まで行かないと、バイク屋ないかもしれないよ」
「まこまこ君、気をつけてね!」
小原さんの優しい声で少し元気が出た。

とりあえず、バイク屋を探すことにした。

17:09
ホーマック名寄店、レジャーシート312円。
テントの下に敷くためのシートを購入。

17:21
日石三菱、名寄SS、1.3リッター、リッター108円、147円。

おばさんが給油してくれた。
近くにバイク屋あるか聞いたところ、丁寧に教えてくれた。
スタンドでは、パトカーが洗車されていた。

バイク屋に行くと、「こりゃぁ、だめだ、完全にいってる!」と。
修理には2日はかかるようだ。
そして、エンジンを開けてみないと分からないようだ。
「焼きつきだったら、ガソリンにオイル直で混ぜて走れ!」と言われた。
オイル直混ぜのために、定価の800円でオイルを購入して、残りの缶を処分してもらった。
バイク屋のおやじはなんかとっつきにくい感じだったが、帰りがけにホンダの旗をくれた。
早速リヤに積んであった荷物にホンダの旗をくくりつけた。
Dioはそう、ホンダのバイクである。
ホンダの旗は、オレに元気をくれた。
さて、夜はすぐそこ、キャンプ地を探すため、走り始めようか。

後日分かったことだが、エンジンは絶好調で、マフラーが詰まっていたことが原因だったようだ。
登りを走ってるときに、何らかの原因でマフラーの口がふさがってしまったのだろうか?
ツーリング後、知り合いのバイク屋さんでマフラーを新品に交換した瞬間、中古でDioを購入したとき以上の?のハイパワーを取り戻した。

バイクの簡単なメンテナンスができないと、自走して帰ることさえできない。
ある程度のメカのトラブルにも対応できるように、少しずつバイクのメンテナンスの勉強をしようと誓ったのであった。

思い出はいつか色褪せるものである

17:54
セブン名寄西ノ条店、名寄市、サラダ、カレー、クラシック500ml、クラシック350ml、959円。

名寄駅から国道239号線を経由して、道道101号線に入り、岩尾内湖を目指すことに。

寒い、寒すぎる、バイクの状態もかなりやばい、そして、全くパワーがでない。
少しずつ標高が上がり、さらに気温が下がっていく。

もう真っ暗だ。
他に誰もいない、バイクもいない、車もいない山奥を一人で走る。
かなり心細くなってきた。

一旦止まってしまったら、もう動かなくなりそうで、ゆっくりと確実に走りつづけた。
辺りは本当に真っ暗である。

そろそろ、岩尾内湖のはずだと思いつつ、なかなか湖が見えてこない。

なんか道を間違った気がしてきた。
なんと、士別方面と岩尾内湖方面の分岐で、士別方面の道道61号線に入ってしまったようだ。
この期に及んで逆走である。
冷静に来た道を戻り、岩尾内湖方面に逆戻り。
ようやく暗闇に岩尾内湖が見えてきた。

19:30
岩尾内湖白樺キャンプ場到着。
メーターは2878km。

真っ暗だけどファミリーが7、8組がキャンプをしているようだ。
去年来た時はなかったが、受付のようなものが新しく設置されたようだ。

早速、適当な場所を見つけて、テントを張った。
やはり自分の寝る場所ができるとホッとするものである。

キャンプ場の駐車場にて、サッポロクラシックを飲みつつ、夕食開始である。
たくさん走ってきた後のクラシックは、とってもうまい。
レトルトカレーであるが、コッフェルで炊いたご飯にかけて食べると超おいしかった。
なんか楽しい平和な気分になってきた。

さすがに今日は疲労しまくったので、21時過ぎにテントに入り、横になった。

カヌー、チャリを1BOXに積んだオヤジが、アイドリングを始めた。
ディーゼルエンジンのガラガラした音がかなりうるさい。
やっと、平和な気分になってきたところにである。
静まり返ったキャンプ場では、ディーゼルエンジンの音はかなりの迷惑な状態である。
しかし、思想が違う人々に、マナーを守れと言っても、守ってくれるものではない。
修行僧のごとく、耐え忍ぶことにした。

去年、このキャンプ場でたまたま出会った優しいおじさま二人と、オフ車のお兄さんとオレの4人で焼肉をやったり、いろいろだべったり、本当に楽しかった。
なんだか、ここでの素敵な思い出が全て崩れ去っていくようであった。

23:30ぐらいに、キャンプ場は静けさを取り戻した。

0:10
40分ぐらい眠ったであろうか、さて、ここからが本当の厳しい夜の始まりである。
こともあろうか、午前零時過ぎに到着したキャンパーが、バタバタとテントを張り始める。
30代ぐらいの男性二人である。

静まり返ったキャンプ場で、レガシーのドアをキーレスで開けたり閉めたりを繰り返す。
さすがに、深夜にキーレスの”ピーピー”という音、ドアを開けたり締めたりする音がうるさ過ぎて、温厚なオレも我慢が臨界点に達した。

「午前0時からテントを張るなんて、絶対間違っているだろう!」

とにかく、10回以上ドアの開け閉めを繰り返した。
テントも初めて張るようで、2人で苦戦して大声で「あーでもないこーでもない」と言っているようだ。

オレは悟りの境地に達した。
「もう、どうにもならない、あきらめよう」

0:30
気を取り直し、トイレに行って、ジュース140円を買ってテントに戻った。

オレの大好きなキャンプ場のイメージもガタガタ崩れ去った。
マナーを守らない、適当な”なんちゃって、都会派キャンパー”が多すぎる。
困ったものである。

悟りの境地な気分を維持しつつ、シュラフに潜り込み、オレはそっと目を閉じた。
その晩の唯一の救いは、空一面にきれいな星たちが静かに瞬いていたことだ。

※ このストーリーは、ほぼノンフィクションです。一部走行に関する描写に関して、物語展開上のフィクションを含む場合があります。実際の道路状況に合わせて、交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。また、現代と時代背景が異なるため、一部現代の感覚など異なる箇所があるかもしれません。ご了承いただけると幸いです。

※トップの写真は、ツーリングマップル北海道2001に掲載された写真です。カメラマンの小原さんから特別な許可を得て使用しております。

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