やもめの手袋

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最近の記事

VRChat奇譚集

VRChatに纏わるツイートを、ご好評をいただいたものを中心に纏めました。 随時更新します

    • VRCショートショート『すぐ消すかも』

      祝日の朝6時。 前日早い時間に寝落ちしてしまったわたしは、早朝に目が覚めた。 ソーシャルを見ると、フレンドの大半はログアウトしてしまっていた。 なんだか損をした気持ちになり、楽しい時間を取り戻そうと、パブリックのワールドに入った。 日本語話者向けのワールド特有の入口の簡単なクイズを解いてロビーに入る。 祝日のせいか、この時間帯にしては人がいた。 だが静止して動かない人が多く、寝落ちしているものと思われた。 大きなミラーの前では数人の談笑しているグループがあった。 人見知りのわ

      • ショートショート『円盤』

        それは突如現れた。 世界各地の上空に巨大な円盤が、飛来するともなく空間に突然現れたのだ。 世界中がパニックになった。 ある国では侵犯行為とし、警告の通信を試みるも反応がないためやむなく撃墜にかかった。 狙いをつけるためレーダーで位置を補足しようとしたが、その円盤はレーダーで感知できなかった。 戦闘機やミサイルを使い手動で攻撃が行われた。 しかし、着弾の間際になって円盤の周りの空間が歪みだし、そのまま忽然と姿を消してしまったのだ。 そうだと思うと、次は別の場所に現れる。 何度攻

        • ショートショート『依存症』

          「……無くなると、不安で仕方がない?」 頷く相手。 「……手に入れるためには、見境ない行動をとってしまう?」 問診票のチェック項目を埋めていくレ点。 目の前の相手は絶えず身体を揺らし、不安そうな表情で目が泳いでいる。 現代は競争社会、相互監視、情報氾濫、匿名中傷など様々な生き辛さが溢れ、人々はその絶えることの無い濁流の中でもがいている。 酒、ギャンブル、性、浪費、薬物などの一時的な安らぎが常態化し、やがて無くては生きられなくなるまで依存してしまう人も少なくない。 そうした

          ショートショート『彼女』

          『彼女がUFOに拐われた。 まだはっきりと覚えているうちに、今日あったことを書き残しておこうと思う。 今日は彼女と買い物をし、レストランで食事をした。 いつも通りのデートだった。 それからふたりで家に帰る途中、暗い夜道で突然眩い光に包まれた。 その光は空から降ってきていて、昼間よりも明るいくらいの光量だった。 まるで真っ暗なステージにスポットライトが当たっているようだった。 その光は狙いをつけるように俺たちを照らしていた。 俺は咄嗟に彼女の手を握り、光から逃げようと、走りだし

          ショートショート『彼女』

          ショートショート『ブロック』

          ネット広告に引っかかるのは抵抗があったが、それを知った次の瞬間には、もう購入の手続きに移っていた。 それほどまでに、私は日々のストレスに耐えかねていたのだ。 世の中には馬鹿と無神経と常識の無い人間が多すぎる。 ネットでも日常生活でも、私はそれらに不満が溜まっていた。 もはやそれは、不満から嫌悪になり、憎悪ですらあった。 何故私がそれら下らない人間のために神経をすり減らされなければならないのか。 気にしないようにしようとも、それが出来ないほど、外にもネットにもテレビにも、そうい

          ショートショート『ブロック』

          ショートショート『雪の夜』

          私は地面に落ちる雪を目の前で見ていた。 冷たい道路に体温がじわじわと奪われていく。 ひどく寒い。 ゆっくりと道路に広がっていく煌めきを眺めていると、それは私の血である事に気付いた。 見えるのはアスファルト、広がる煌めき、雪のため夜でもほの明るい空。 私を轢いた車や運転手の姿はない。 どうやらそのまま走り去ったようだった。 さっきまで感じていた凍えそうな寒さも、だんだんと遠くなっていくようだった。 瞬きさえ億劫になり、閉じた瞼の暗闇の中に、今までの人生が浮かんできた。 父に関

          ショートショート『雪の夜』

          ショートショート『 I 』

          これだ!と思うアイデアをひらめいた。 私は急いで身体の残りの部分を洗い、シャワーで泡を流す。 その間にも頭の中のアイデアはすくすくと育ち、詳細な設定や展開が肉付けされていく。 詩情的な表現、あっと驚く展開。 頭の中ではすでに作品は完成したようなものだ。 道筋はできた。 早くプロットをアプリに打ち込み、忘れないようにメモしておきたい。 このワクワクする感覚がたまらなく好きだ。 創作活動において私が何より好きなことは、自分が読みたいと思うものを自由に作れることである。 創作、芸術

          ショートショート『 I 』

          ショートショート『原稿用紙』

          頬の下で、原稿用紙が音をたてた。 頭をあげると、既に部屋は真っ暗だった。 原稿とにらめっこしているうちに、机に伏して寝てしまったようだ。 今は何時だろうか。 机上の置時計に目をやると、時計が狂っていた。 それはまさしく狂っていた。 見慣れた置時計そのものだが、その時計の針が増えていた。 長針、短針、秒針が何十本にもなり、ひしめき合いながらバラバラに時を刻んでいる。 その時計が時を刻む音は渦のように反響し、不快な圧力をもって響き渡っていた。 その異様は、私の寝惚けた頭をただちに

          ショートショート『原稿用紙』

          ショートショート『落ち込む侵入者』

          庭に誰かいる。 俺が気に入っているベンチに勝手に座っているのだ。 俺の家の敷地は広いので、たまに迷い込む奴がいるが、ここは俺の庭だ。 不届き者に一喝してやらなければ。 そう思って近付くと、そいつは肩を丸めて項垂れていた。 ひどく落ち込んでいるようだ。 なんて情けない姿だろうか。 俺が何か言わなくても、既に世界中から怒られ、けなされ、バカにされてきたような雰囲気がある。 だけどもここは俺の家の敷地だ。 一言声をかけてみるが、奴は気付かないようだ。 空は青く澄んでいるのに、そいつ

          ショートショート『落ち込む侵入者』

          ショートショート『眼鏡』

          父が死んだ。 それなりに高齢だったが、寿命を迎えるにはまだ若かった。 溌剌とした人だったが、そのためか急性で悪性の病気にかかっても発見が遅れた。 病気が分かってからわずか2ヶ月程で他界した。 しかし幸いだったのは、苦しまずに息を引き取ったことだ。 家族に看取られながら、安らかな最期を迎えられたと思う。 急なことに私も動揺したが、通夜葬式の準備に追われ、ゆっくり感傷に浸る暇はなかった。 それも滞りなく終わったところだ。 忌引の最終日、実家の居間で母とようやく一息ついていた。

          ショートショート『眼鏡』

          小説 『VRCエニグマ探偵事務所』

          ※この小説はVRChatというメタバースを舞台にした小説で、専門用語を多く含みます。基本的に現役のVRChatユーザーを読者対象としています。 ※ この物語はVRChatを舞台としていますが、フィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ありません。名前が被ってしまった方は大変申し訳ありません! 『おねがいごと』 「依頼が入った。すぐに私のインスタンスに来たまえ」 discordの通知音が鳴ってからゲーム中ずっとそわそわしていた。 敵チームに背後をとられる初歩的ミスで大

          小説 『VRCエニグマ探偵事務所』