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2.2 トピックジャンルとオーサージャンル

2.2.1. トピックと物語世界

 物語世界は、物語がテーマについて話し合うのに十分な大きさの整合的な大エピソードである。ミュトスは、さまざまなキャラクターのミストリアとそのエピソードが複雑な因果関係を織り交ぜている壮大なジャングルである。人類の歴史と想像力の知識の遺産全体として、それは大きな糸の玉のように絡み合っている。それは多くの重複、矛盾、そして曖昧さを含むが、エピソードのない空白の暗海もある。

 エピソードが密集している部分がトピックである。ただし、トピックにも矛盾や脱落が含まれており、テーマを論理的に考えるストリイングにそれをそのまま使うことはできない。このため、線形の物語を作成する前に、語り手は、トピックを充全かつ整合的に供給し配置することを通じて、物語世界を準備して確立しなければならない。

 あるトピックの中でも、複数のキャラクターの行動が同時にポリフォニックに進行している。衝突と対為(アクションの対話)の結び目で、これらは網目を成す。また、これらの外的イベントの時系列とは別に、キャラクターが主観的な理解と誤解で作る内的ミストリアも並行して進んでいる。各キャラクターのミストリアも一種の力動的な物語世界である。出来事を導入しつつ、キャラクターは、その出来事が発生するたびにミストリアを追加、配置、および改訂する。

 ただし、思考実験装置として機能すれば、ストリイングのための物語世界は十分である。したがって、我々はトピックを必要最小限に絞り込む。トピックはもとよりミュトスの濃厚な部分である。 語り手は、エピソードの重複、矛盾、および曖昧さを取り除く。ただし、トピックは、もとよりエピソードのない暗海を含み、キャラクターやエピソードの限定や曖昧さの排除の操作が、新たな暗海を作るかもしれない。これらの暗海がトピックの一貫性を妨げる場合は、語り手が新たに作成した架空のキャラクターやエピソードで埋めることが許される。我々の目的は、事実を掘り下げることではなく、物語世界を整理することである。


2.2.2. トピックジャンル

 理論的には、どんなトピックでも整合的な物語世界に仕立てられる。しかし、前述のように、語り手は、観客とのコミュニケーションとしてのストリイングのためだけに物語世界を作る。したがって、どのようなトピックを選択するかは、ターゲット観客の好みの事前マーケティングに拠る。

 語り手のストリイングに触れることは、見て、理解し、考える時間と労力を要する。したがって、観客は、彼らの知的興味を引き付けるトピックバリューを持っている物語にのみ来る。

 人々は自分がまったく知らないことに興味を持てない。しかし、彼らはあまりにも身近なことも気にしない。少しは知っているがよくはわからないという半知識は、高いトピックバリューがある。とくに、周りの人はよく知っているが、自分だけがよく知らないならば、その価値は高くなる。

 そのような個人の半知識のように、だれもがすこしは知っているが、エピソードの矛盾や欠落のためにだれも正確には知らないミュトスのミステリーも、高いトピックバリューを持つ。恋愛や人生は、たしかにあまりにも一般的なトピックだが、それらは大きなミステリーである。だれもそれらが何であるかを正確には知らないので、ありきたりのケースについての物語でさえ、あいかわらず我々を魅了するトピックバリューを持つ。

 トピックバリューは、観客セグメントによって異なる。一般に人々は自分と同じ職業や立場のキャラクターのトピックには強い関心を示すが、自分の生活に関与していない分野には好奇心以上の積極的な関心が無い。ただし、同じ職業や立場のキャラクターの話題であっても、自分たちの方が語り手よりもよく知っていると、語り手を批判するかもしれない。


2.2.3. 物語世界のミステリー

 ミュトスのミステリーの解決は、物語世界のトピックバリューを高めるかもしれないが、その効果は副次的なものにすぎない。 物語世界は、論理的なストリイングのためのものであり、整合的で完結的でなければならない。したがって、語り手は、エピソード厳選して矛盾を排除し、架空のキャラクターやエピソードで欠落を埋める。もちろん、それはミュトスのミステリーに対する真の解決ではなく、せいぜいありうるアイディアにすぎない。

 それでも、語り手が既存のトピックに意外な脈絡や結末を新たに解明/偽造できたなら、それはミュトスの元のトピックのバリューを高める。もちろん、それはたんに強引な解決かもしれない。にもかかわらず、それは、許容され、それどころか新たな遺産としてミュトスに追加される。

 アイロニーは、物語世界の脈絡や結末の意外性を強化する。それが常識を否定し、合理的に反対の解釈を提供するならば、それは既存のミュトスに新たなミステリーを作り出し、トピックの魅力を高める。

 いずれにせよ、物語世界の目的は、ミュトスのミステリーを解き明かすことではなく、思考実験装置として、テーマを吟味するために仮説的に具体事例を提供することである。したがって、ミュトスのミステリーを解き明かすのに問題があったとしても、その物語世界は有用であり、観客はそれを容認するだろう。ただし、あまりにも強引な変更は、トピックバリューや観客の関心を弱めるかもしれない。

 さらに、物語世界が思考実験に役立つかぎり、まったく新しいもの、つまり、ミュトスの遺産にこれまで属していなかった、語り手がゼロから創り出したオリジナルのファンタジーでさえも、観客はつきあうかもしれない。ただし、この場合も、それがオリジナルのトピックジャンルを切り拓いていく力がないならば、そのトピックバリュは低いかもしれない。


2.2.4. 著者ジャンル

 原作者、脚本家、監督、主演俳優などの有名で個性的な語り手は「数字」を持つ。彼らは多くの観客を彼らのストリイングに来させることができる。彼らの固有のファンは、彼らがその語り手にのみ魅了されているので、その語り手が何をどのように語るかを気にしない。彼らは、WHOでお気に入りのオーサージャンルでストリイングを選択する。

 たしかに、オーサージャンルは、第一に、エクストリイング13する語り手の独特のトーンによって特徴付けられるが、しかし、それはトーンジャンルだけに還元されない。有名な語り手は、自分の好みのトピックを選択するかもしれない。しかし、それは、ファンとのコミュニケーションの経験に基づいているため、オーサージャンルもまた、一種のトピックジャンルである。

 しかし、作品のトピックやトーンが完全に異なり、明確な類似性がなくても、同じ語り手の作品はつねに同じファンを魅了する。オーサージャンルは、トピックのジャンルとトーンのジャンルから独立している。

 オーサージャンルで重要なのは、作品の類似性ではなく、同じオーサーによる作品の質である。オーサージャンルは、そのオーサーの作品ブランドである。ある作品が同じトピックを同じトーンで扱っているとしても、その質は、語り手しだいで大きく異なる。したがって、トピックジャンルとトーンジャンルがどれだけ観客の興味や好みに合っていても、観客が作品に来ることを決定する最後の決定的な要因は、オーサージャンルである。

 もともと、監督と主演俳優は、完成した物語を語り媒体(映画)に書き留める段階まで、エクストリイング過程に係わる必要はない。にもかかわらず、彼らは自分の仕事をする前に、彼らがそのプロジェクトに参加すべきかどうか、自分のネームバリューでその作品を承認すべきかどうかを徹底的に調べる。

 このため、ミュトスから物語世界へのエクストリイングの段階では、原作者や脚本家は、ファンを持っている特定の監督や主演俳優を想定し、物語世界を彼らに合わせて作成し、実際にそのプロトタイプを彼らに売り込み、事前に彼らの承認を得ようとする。このように、原作者や脚本家だけでなく、監督や主演俳優も、オーサージャンルとしての物語世界のエクストリイングに係わっている。

13. 物語世界を掘り出し、語り媒体に書き留めること。

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